第54回 | 2023.09.27

”おこめほり”レポート 令和5年9月号
~続・おこめの成長と生き物~

8月は猛暑に加え、お盆には台風が日本列島を脅かし、農作物にも被害が出ました。

9月も暑さが続き、雨がなかなか降らない天気が続きました。おこめほりのイネは大丈夫でしょうか?現在の直近の様子はこちらです。

農家さんの管理のおかげで無事に成長しています!

早いところでは収穫が始まっています。目の前に迫る稲刈りが楽しみです!

 

前回では、イネの成長と周辺を取り巻く生き物について紹介してきました。今回はなぜ多くの生き物が田んぼに集まるのかもう少しお話していきます。

 

~田んぼという名の貴重な湿地~

浅い水で断続的におおわれている場所や、水分を多く含んで海水や淡水で冠水する土地を「湿地」といいます。湿地は世界的にも大変貴重で、国際会議において湿地を保護するための「ラムサール条約」が採択されています。人の手がほとんど入っていない湿原やサンゴ礁のほか、意外かもしれませんが人工的に作り出されたダム湖や田んぼも湿地として保護していく対象とされています。

水田は水の流れがほとんどなく、水深が浅くて日当たりがいいため、水温が高くなります。流れがなく、温かい特有の環境は多くの生き物たちにとって大変魅力的です。日本では田んぼの発明以来、長い時間をかけて生き物たちも田んぼに適応した進化を遂げてきました。

 

(メダカ)

体長が小さく泳ぐ力が弱いメダカにとって、餌となるプランクトンも豊富にある田んぼは快適な生活場所です。また、卵が流される心配もないため、産卵場所としても適しています。

 

(トンボ・ヤゴ)

様々な種類のトンボが水中に卵を産みます。ミヤマアカネのヤゴは田んぼの底を這うようにして生活し、ミジンコやボウフラ、オタマジャクシなどを食べます。成虫になるまでおよそ3か月を要し、成虫になったミヤマアカネは羽化水域近くのやや背丈の高い草むらに移動して夏をすごし、秋になると水中や泥の中に産卵をします。卵は土の中で冬を過ごし、春になって田んぼに水が張られると卵がかえります。

(7月15日撮影 ミヤマアカネ)

(7月15日撮影 3㎝ほどのアマガエル)

そのほか目に見えないほどの生き物も含めると、数えきれないほどの生き物が田んぼを中心として生活をしており、「食べる」「食べられる」あるいは「寄生」「共生」といったかたちで、直接・間接的に複雑に絡み合った生態系がつくられています。

 

(コガネグモと捕食されたシオカラトンボ 9月22日撮影)

~生物多様性と稲作~

現代社会では「生物多様性が重要」という表現をよく目にしますが、なぜ重要なのでしょうか?

ここで一つ、大失敗に終わった中国の政策を例に挙げてみます。

「四害駆除運動」という言葉をご存じでしょうか?

1958年、毛沢東が主導する中国では、蔓延する病気や食料確保のため、ネズミ・ハエ・蚊・スズメを駆除するという公衆衛生政策を実施しました。中でもスズメは穀物を食べるため、スズメを駆除することで本来食べることができていた食料をまかなうことができるという安直な考えから、リストに加えられたのです。

人々はたった1年少々で約1億羽のスズメを駆除しましたが、スズメは穀物だけでなく、イナゴなどの虫も食べていることから、天敵のいなくなったイナゴなどの虫は爆発的に数を拡大させて、国中の穀物を食い荒らしました。1959年に鳥類学者の忠告がようやく聞き入れられたころには時すでに遅しで、その後1962年までの大飢饉で飢餓による死者数はおよそ1500万人から3000万人とされ、1500万人もの生死が分からないという悲惨な結果を招きました。

実際のところスズメを大量駆除したことは要因の一つにすぎませんが、たった一つの種類を駆除しただけでも、複雑に絡まり合った生態系は簡単に壊れてしまい、どのような影響があるのか「予想がつかない」という例でした。

(四害駆除運動のポスター 出典:http://chineseposters.net/themes/four-pests

高齢化や後継者問題による耕作放棄地が増えてしまうと、水田で暮らしていた生き物たちは生活場所がなくなり、種の多様性を失ってしまします。地球上で暮らす私たち自身も多様な生態系と生物たちのつながりによって、食べるものや、きれいな空気、水を得ることができています。

田んぼは人が適度に管理するからこそ成り立っている生態系です。

絶滅危惧種を身近に見ることのできる小田原市の清らかな水田で、生産者の弛まぬ管理があってからこそできる「金次郎米」。

来る収穫体験は10月7日(土)を予定しています。どうぞお楽しみに!!


研究員 山下 大祐