第53回 | 2023.08.15

”おこめほり”レポート 令和5年7・8月号
~おこめの成長と生き物~

2023年はエルニーニョ現象により、7月上旬から非常に暑い日が続きます。田んぼの様子はどうなっているのか気になる方も多いので、今回はお米の成長と、田んぼに集まる生き物の話をさせていただきます。

~田植え時期~

イネは種を田んぼに蒔くのではなく、育苗した苗を移植する作物です。また、同じ場所で作り続けることができるのもイネの特性といえます。同じ場所で毎年作り続けられるのは、田んぼに水を張ることによって土壌病害を回避したり、河川や用水から流れ込む水に含まれる養分を利用することができ、生育に有害な成分を水で洗いだしているためと考えられています。

代かきを経て田んぼに水が張られると、水田には様々な生き物たちがやってきます。

おこめほりの田植えを行った6月3日もたくさんの生き物を見ることができました。

(コオイムシ)

 

( ガムシ)

 

(マルタニシ)

 

~分げつ・中干し~

イネが根付いてくると、「分げつ」と呼ばれる枝分かれが始まります。田植えの時はひょろひょろと3本ほどだったイネが何本にも分かれてもっさりしているのが分かりますね。(6月26日撮影)

 

 

「分げつ」の本数が確保できてからは、一旦水を抜いて「中干し」を行います。一度水を抜くことによって、土の中に空気を入れて根が腐らないようにするほか、余分な窒素の吸収を抑えて後から「分げつ」するのを防ぎます。(※生育が揃わないと収穫量が減るため)また、地面が固くなることで機械が入りやすくなる効果もあります。

水を抜くときに生き物は取り残されないの?と疑問に思う方もいるかと思いますが、安心してください。たいていは近くの水路や川に住処を替えて生き残っています。そしてまた、田んぼに水を戻すことには元気にやってくるのです。

オタマジャクシがカエルになっていることもしばしば。。

(7月15日撮影)

 

 

~幼穂形成・出穂~

「中干し」を終えると田んぼに水を戻し、水が無くなったらまた入れるという「間断灌漑」とするのが一般的です。こうすることで根に酸素と水を供給し、イネの活力を維持することができます。

ただし、この時期のイネは寒さに弱いため、低温が予想されるときは水位を高くし、水の保温力を活かした管理が推奨されています。(東北地方でよく聞く「やませ」はこの時期です。)

これから「出穂」に至るわけですが、農家さんはカメムシ対策で除草に大忙し!カメムシのストロー上の口で吸われたお米は「斑点米」という黒い斑点がついたお米になってしまいます。

カメムシはイネ科の植物を好み、田んぼの畦道や耕作放棄地などで雑草が生い茂っていると途端に数を増します。自身の管理する場所を丁寧に除草しても、周りの環境で被害にあってしまう可能性があるのでとてももどかしいところです。

(斑点米)

 

~登熟・成熟・収穫~

イネが受粉し、もみが肥大していくことを「登熟」といいます。もみは大きくなるにつれて先端が重くなって垂れていき、徐々に緑色から黄金色に変わっていきます。十分にもみが「成熟」すると、いよいよ収穫になります。

もみが成長する中で、お米がまだ固くなっていないときに中身を吸いに来るのがスズメです。スズメといえば、お米から作った洗濯のりを食べて舌を切られてしまう「舌きりスズメ」は有名な昔話ですね。一方で田んぼの雑草の種子や、害虫をたくさん食べてくれる一面もあり、農家とは持ちつ持たれつの関係です。

収穫が始まると、イネを住処にしていた昆虫やカエルなどを求めて、スズメよりも大きなハトやカラス、サギなどの鳥たちが田んぼに集まってきます。稲刈りは鳥類にとっても大イベントで、人知れず周辺生態系に様々な影響を与えています。

 

お米の成長と生き物についてお話しさせていただきました。

次回は、なぜ田んぼには多くの生き物が集まるのかもう少しお話していきます。


研究員 山下 大祐