第17回 | 2017.11.27

食卓から地産地消、地域食文化を考える

今回は、私の個人的な食卓から地産地消、そして地域食文化について述べたいと思います。流通研究所への就職をきっかけに神奈川県へ引っ越してきて1年半が経ちました。宮城県、千葉県で暮らしていた時に地域らしい食事を作ってきましたが、神奈川県の食生活にはまだなじみがなく、食事を考える時に献立に困る時があります。早く神奈川県らしい食生活を覚えていきたいのですが、食材を見ても献立が思い浮かばないので、その時の旬と思われる野菜を買って、自分が作れる料理を作ります。

私は宮城県出身で20代前半まで宮城県に住んでいたのですが、食事の献立に困るということはあまりありませんでした。食材から作る料理を決めていたように感じます。そのため特に意識せずに地産地消を行っていました。実家は非農家ですが、父の実家は農家で、親戚、知人は農家が多く、農産物をもらう頻度が多かったように思います。また春には、父や父の友人と筍掘りをして7、8本掘り、家に帰ってきた後は、ひたすら筍の皮をむき灰汁抜きをし、筍の煮物と筍ご飯を作り、「筍をしばらく見たくないな…」と感じていましたが、今思うと贅沢だったような気がします。

父子家庭だったため、食事づくりは、父、妹、私の3人で分担し、家庭での料理の伝承は、父から受けました。そのため、それらの料理は主に父の地元である宮城県黒川郡(仙台市、塩釜市、大崎市に挟まれた稲作地域)で食べられていたものです。例えば、我が家でよく食べていた冬の食材と言えば、海産物では、ホヤ、牡蠣、鯨、川魚は鮭、肉は鶏肉、野菜は白菜や大根、果物は柿とりんごです。野菜は、冬、霜が降りるため露地野菜が収穫できず、価格が高騰するため、親戚から白菜10玉、大根20本をもらうか購入していました。新聞紙に包み、軒下に紐でぶら下げて保管し、2月頃までの期間で食べます。果物は、柿、りんごを食べることが多く、みかんも食べていましたが、栽培環境を初めて見たのは千葉県で、庭木として柑橘類が植えられていることに驚きました(!)

 

私が食べていた宮城県の郷土料理の一部を以下に挙げます。

  • 油麩料理:油で揚げた麩。鍋料理、汁物に用いると便利なので常備していました。
  • イナゴの佃煮:田んぼでイナゴをとって、虫籠の中で放置し糞を出させ、熱湯で茹でた後、脚、羽を取り、醤油と砂糖で佃煮にします。高校のお弁当に持っていくと友人に「女子高生のお弁当じゃないよ」と嫌がられましたが、私の好物です。
  • おくずかけ:白石市名産の白石温麺で作るお盆とお彼岸の行事食。芋がら(里芋の茎を乾燥させた物)を入れることがポイントです。
  • 牡蠣料理:養殖が盛んで、震災前は生産量全国2位。酢の物、土手鍋、鍋料理に。
  • ホヤ料理:養殖生産全国1位。酢の物、蒸し物、焼き物に。
  • 鯨料理:石巻市で調査捕鯨が行われるため、スーパーでも販売しており身近な食材です。刺身、焼き物、煮物として。
  • 鮭料理:父が知り合いの漁師さんから何本か買ってきて捌き、鮭のあら汁、はらこ飯、鍋物に。
  • はらこ飯:“はらこ”とはイクラの方言で、鮭の身を炊き込んだご飯の上にイクラを乗せます。秋には必ず食べたい一品です。
  • ずんだ:枝豆をすりつぶして砂糖を加え作るペーストのこと。餅等と食べる。実家では作らずに買いました。農家を継いだ友人に聞くと、ずんだを作るのに適する枝豆の実の柔らかさ(収穫時期)があるそうです。
  • お雑煮:実家で作るのは、川魚のハゼで出汁をとり、人参、大根、椎茸、芋がら、セリ、鶏肉、餅というお雑煮でした。

改めて宮城県の郷土料理を調べてみると、食べたことがない郷土料理も多くありました。県内でも離れた地域の郷土料理は料理自体知らない、または食材が手に入りにくいという理由で作らなかったのだと思います。

地産地消と地域食文化はつながっていて、その地域の風土と合致し、脈々と育まれてきた食材を用いて作られてきた郷土料理や地域食文化があり、その食材も守られてきたと言えます。「この料理には、この食材」または「この食材には、この料理」と、地域の人が感じている場合には、食材や料理は、守り、伝承され続けると感じます。“この食材”を指す時には、茄子ならこの品種、サイズ、味等といった細かなこだわりがあります。

イタリアのピエモンテ州で生まれたスローフード運動は、ファストフードに反対して唱えられた考え方で、その土地の伝統的な食文化や食材を見直す国際的な社会運動です。スローフード協会設立のきっかけは、創始者のカルロ・ペトリーニ氏が友人のレストランで出されたペペロナータ(ピーマンの煮込み)の味の変化に気づいたことからです。ペペロナータを作る地域の美味しいピーマンが格安の輸入物にとってかわり、その影響により地域の野菜生産も様変わりしていました。その事実を知り、危機感を感じたことが協会の前身である「アルチゴーラ」というグルメ団体の設立につながっていきました。

地域食文化がなくなってしまう事は、地域文化(地域性)が消滅することと同じです。それは地域食産業(生産・加工・販売)の消失にもつながります。特に市場流通品でない小規模生産者の生産物は消失しやすいです。何を食べるかは個人の選択であり自由ですが、食の全国平準化が進む中で、地域性豊かな食生活も選択できる環境・社会であり続けてほしいと感じます。まずは自分自身の食卓から神奈川県と宮城県、そして業務で関わっている福島県、千葉県の食産業を応援したいと思います。また、今後は神奈川県の食材、郷土料理を知ることで神奈川らしい食事づくりに挑戦していきたいです。


研究員アシスタント 板垣 いずみ