第27回 | 2018.06.29

都市に農地は必要ですか

生産緑地の多くが指定から30年を経過する「平成34年(2022年)問題」が取り上げられ出した2010年頃から法改正等の議論が活発化し、平成27年(2015年)の「都市農業振興基本法」の制定を契機に、近年は一部法改正や新たな法律が成立しつつある。

これまで都市農地は「宅地化すべきもの」として位置づけられ、生産緑地においては、買取申出制度が設けられ、将来的に公園などの公共施設として活用できることを見越して指定するといった背景があったが、平成27年(2015年)の「都市農業振興基本法」において都市農地は、都市に「あるべきもの」と大きく方針転換したものとなった。

私どもは仕事上、市街化区域が宅地開発され、農地を含む緑地の減少が都市住民の生活を低下される恐れが高まるため、ようやく都市農業・都市農地の重要性や機能が見直される時代に入ってきたという農政サイドからの視点で背景を捉える。しかし、ここに来てスポットライトを浴びている「生産緑地制度」は、農林水産省ではなく、都市計画上の緑地の一部として国土交通省の管轄である。多くの生産緑地が指定から30年を経過し、買取の申出が出された際に、当該市区町村は当然すべてを買い取りすることができない。結果、多くの農地が宅地化されれば、地価の暴落を招いてしまうということも背景としては大きいのである。

では、この一部法改正や新たな法律の成立によって、都市農地が都市に「あるべきもの」として本当に維持・保全されるのだろうか。主なポイントは以下のとおりとなる。

一般の方からすると、農地所有者に随分配慮した内容に見えるかもしれないが、社会環境や都市住民ニーズの変化を踏まえた方針展開を背景に、少なからずこれまで実際の運用上で不都合があった点を改めたものと捉える。都市農地所有者は、まわりに多くの消費者を抱え、販売に苦労することなく農業を展開できると考える地方や郊外の農地所有者もいるかと思うが、農薬散布や砂埃に対する苦情の多さや、それに対する作業時間の制約や資材・機械等の準備、小規模農地による生産など、農業生産としては必ずしも十分な環境ではない中で、先代まで受け継がれてきた土地を残すということだけではなく、やすらぎや潤い、空間的余裕など、周辺の住環境の向上にも寄与していることも理解しなければならない。

農政サイドの視点で見ると、生産緑地を貸借しても相続税の納税猶予措置が継続される点は大きく、今後後継者の目途が立っていない営農継続希望農地所有者などは選択肢が増え、企業などによる新たな農園サービスなどが展開される可能性があるほか、都市部でチャレンジしたいと思う新規就農者の受け皿となる可能性もある。実際には、貸す側と借りる側との信頼関係が構築できるか、貸した後に認定取り消しになったり、撤退されたらどうするかなど、現時点でも想定される運用上の課題が存在する。いずれにしても市区町村や農業委員会が絡む仕組みとなるようだが、この舵取り次第では農業政策だけでなく、都市住民の住環境にも大きく影響を与えかねない。また、各種要件があるものの、生産緑地内で農産物直売所や農家レストラン等が設置できるようになることにより、意欲的な農業者における経営の多角化を実現するほか、周辺住民をはじめとした消費者には、栽培や収穫体験+αのサービス提供される場ができることなども考えられる。

一部法改正や新たな法律の成立を受け、現在市町の都市計画所管課が中心となり、既存生産緑地所有者への制度変更等の説明や意向調査の実施について実施・準備を進めている。ここまでに記載している内容からも、都市計画サイドと農政サイドの横断的な連携や共有が重要であり、特に調査においては、今後のまちづくりや農業政策の仮説を持ったうえで実施してもらいたく、都市計画所管課は「都市住民の生活向上」という視点に立ち、単に意向を確認するだけでなく、調査段階から農政所管課と綿密な打合せのうえ、調査項目を設定し、今後の政策にも活かしてもらいたい。

 

 

 

 


上席研究員 有山 公崇