第9回 | 2017.07.24

農業経営の法人化について
~これから法人化を考える農業者に向けて~

近年、農業者の中には、法人化を検討した経験を持つ方も多いかと思う。平成11年に食料・農業・農村基本法(第二十二条)において、「国は、(中略)経営管理の合理化その他の経営の発展及びその円滑な継承に資する条件を整備し、家族農業経営の活性化を図るとともに、農業経営の法人化を推進するために必要な施策を講ずるものとする。」と定められている。さらに、平成25年には、「日本再興戦略」においても、平成22年時点で約12,500の法人経営体数を今後10年間で約4倍の5万法人に増加させることを目指すこととしており、平成27年の「日本再興戦略」改訂版においては、法人化のペースを加速するために、各都道府県において法人化の支援体制を整備していく方針が示されている。

農業経営の法人化を推進する社会状況の中で、気になることは、法人化することによるメリットとデメリットは何かだと思うが、農林水産省のホームページに次のとおり、まとめられている。

これから法人化を検討する農業者については、上記のメリットの中から自身におけるメリットを考えてもらいたい。1つでも当てはまる場合は、法人化検討の次のステップに進んでもらいたい。また、後述するが、私が考える法人化の最大のメリットは、経営管理能力の向上である。法人化することで、経営に対する責任を自覚し、計画的な農業経営をしなければならなくなる。この計画的な農業経営こそが農業経営を発展させる原動力となるからである。法人化しなければ計画的な農業経営ができないというわけではないが、経営が発展していけば法人化を自ずと検討することになる。

法人化検討の次のステップとしては、税金面の検討である。課税所得の大きさによっては法人化後の税金が負担となるため税金面の検討も必要である。大まかな話となるが、個人事業主としては所得税、個人事業税、住民税、消費税が主な税金である。法人の場合は、法人税、法人事業税、法人住民税、消費税が主な税金である。経営状況等によって税負担額が異なるため個別の試算が必要になるが、私が以前試算した際には、課税所得約900万円以上はあった方がよい。また、農林水産省のホームページに、「法人くん2017(農業経営法人化検討促進ツール)」があり、個人経営収支を法人化に置き換えた場合の、納税額及び各構成員の収入額等の比較を概算で行うことができる。納税申告等に用いることができるような正確な金額ではないが簡易的に法人化の影響を試算できるツールとなるため活用してもらいたい。

次の検討項目としては、法人化の形態も選択する必要がある。大別すると農事組合法人か会社法人となるが、農事組合法人の場合は、事業目的が農業に限定されており、農外からの雇用(構成員)についても制限がある。株式会社であれば、事業目的の制限も受けず、雇用(構成員)についても制限を受けないことから自由度が高くお勧めである。株式会社であれば、他業種でも一般的な形態であることから、多くの情報がインターネットで調べやすいことも利点である。また、ここでは詳しく記述しないが、合同会社は設立手続きが簡易で設立コストも安く抑えられるため、将来的にも少人数で運営していく予定の場合は、合同会社も検討の余地がある。

【農業法人に関する法人形態について】

 

以上のように法人化を検討する上では、法人化によるメリット、税金、法人形態等を検討する必要があるため経営計画を作成してもらいたい。ただ、法人化だけしても法人化による最大のメリットとなる計画的な農業経営を享受できないからである。

経営計画を作成する上では、どのように農業経営を発展させたいかを明確にするとよい。抽象的でもよいので、将来、こんな農業経営がやりたい等の将来像を思い描くということである。将来像を達成するために、10年後、5年後、3年後、1年後の将来像を考えることで、将来に向けた計画を作成することができる。期間ごとの将来像に向けて人材、生産地、栽培品目、設備、資金等の面から、何をやるべきかを検討することで経営計画が作成できる。自然の影響を受けてしまったり、農地や労働量が十分に確保できないといったこともあるかもしれないが、都度、経営計画を見直すことで、経営課題を解決するための方法を検討する機会ともなる。

最後に、経営計画は、法人、個人事業主に関わらず作成した方がよい計画である。また、当たり前のことになるが、経営計画はぜひ紙に書いてもらいたい。農業者の中には頭の中に経営計画がある方もいるが、未達成でも簡単に書き換えることができてしまうし、人に説明ができないので、ぜひ、紙に書いて記録を残してもらいたい。法人化するには、登記等で書類を作成する機会も増えるため、その練習だと思い経営計画を作成してみることが、計画的な農業経営への第1歩となる。

農業は自然の影響を受けやすく計画的に進まないことも多いが、経営計画を作成し安定した農業経営を実現してもらいたい。また、農業法人となることで、次世代が農業経営を引き継ぎやすい環境を作ることもできるため、意欲ある農業者の方には、法人化を検討してもらいたい。


副主任研究員 大池峻吾