第30回 | 2018.08.21

農業の持続可能性と先進技術について

持続可能性(サステイナビリティー)とは、地球環境や社会、経済などを将来にわたって長期的に維持し、発展できるようにすることである。近年、頻繁に使用されており、その意味するところは様々である。持続可能性に関する時間軸の範囲は、明確には定められていない。本コラムでは、未来志向の言葉の一つとして「持続可能性」を捉え、その視点から農業と先進技術について考えてみたい。

■持続可能な農業について
持続可能な農業の形態として、環境保全型農業、有機農業などがある。環境保全型農業は農薬や化成肥料の投入をできだけ減らし、環境負荷を低減させる農業のことである。有機農業は近代の工業化された農業に対するアンチテーゼとして語られることがある。農薬や化成肥料を使用せず、環境負荷の低減や生物多様性を保全する農業と言える。持続可能な農業は概して「安全安心な農産物」と「環境保全」という社会的意義が大きいように思える。

■課題について
生産者側の立場に立ってみると非常に難しい問題がある。農薬や化成肥料の「使用を減らす」、あるいは「使用しない」ということは、慣行農業と比べ除草作業や病害虫駆除などの労力が増大し、収量や品質といった生産性が落ちることを意味する。農業技術を極めた篤農家で、長期的に実践していれば、そのような問題も起こらない可能性もあるが、一般的には起こり得る問題である。その労力と収量を補完するために農産物の販売価格を上げる必要があるが、販路などのマーケット上の課題が残る。つまり、持続可能な農業は、生産性と経済性に課題があると言える。

■今後の展望について
近年、スマート農業が注目されている。GPSやICT(情報通信技術)、ロボット技術の進展により、農業機械の自動走行や圃場ごとの精密な栽培管理、アシストスーツ、除草ロボット、作業記録のデータ化(以下、先進技術)などが実現化しようとしている。なぜ、この話をするのかというと、「先進技術」と「持続可能な農業」は、親和性が高いと思うからである。理論上は、持続可能な農業の課題であった「労力」を先進技術で省力化し、生産性を改善できる可能性が考えられる。また、経験や勘(暗黙知)で行っていた作業をデータ化(形式知)にすることで、技術継承をスムーズに行えるようになる。一方で慣行農業に先進技術を導入し、農薬や化成肥料の投入量を最適化すれば、コスト削減や環境保全の効果が発生する。その点では、先進技術導入は農業の持続可能性を推進することにつながる。

しかし、先進技術に対する費用対効果についてはどうだろうか。大規模な農地面積であれば、コスト削減効果は期待でき、その効果を最大化していくことも考えられる。実際の機械化体系及び作業化体系の組み立て方にもよるが、収益性が改善される可能性もある。

持続可能性は現代社会において、重要な未来志向の概念である。持続可能な農業を推進するためには、「環境保全」だけでなく「生産性」と「経済性」の視点が重要だと考える。現在、農業の担い手、労働力不足は深刻化している。実際、儲けられる仕組みがなければ、担い手や労働力も集まらず、長期的な持続などそもそも不可能である。理想論を言えば、「環境保全」と「生産性・経済性」とのジレンマを多少なりとも解決できればと思う。先進技術がその点に貢献できれば、農業に新たな展望が広がるのではないだろうか。


研究員アシスタント 青山 龍