第5回 | 2017.05.22

農作物の販売チャネルを選ぶこと
~マーケットインで捉える~

近年、農業界においてもマーケットインというマーケティング用語が用いられるようになった。マーケットインとはマーケットのニーズを理解したうえで、売れるものを作っていこうという考え方である。流研レポート第3回で岡田研究員が「買いたいと思う商品作り」で述べたように、現代の食品産業は成熟期にある。そこで求められるのはマーケットインという発想である。

しかし農業現場においては今でも、これに相反するプロダクトアウトすなわち良いものを作れば売れるという現場主導の考え方が根強くあるのも事実である。これは、生産者がこだわった栽培方法の農作物であれば付加価値が付き、どこでも売れると発想しているのではないかと考える。

ただ、ここで注意しなければならないことは「誰に売るか」ということである。たとえ生産者が、農作物をどんなに丹精こめて栽培をしても、その価値をわかってもらえる販売先つまり需要者にむけて販売しなければ、その農作物は売れないのである。ここで言う需要者とは、消費者、バイヤー、仕入関係者とする。まずは、栽培する農作物をどんな需要者が手にとってくれるかを考えてみてほしい。

農産物の販売チャネルについて、大きく分けると次の5つが挙げられる。

直売所・道の駅

地域にある直売所では、生産者は数千円の会費を払えば、自分で栽培した農作物を直売所・道の駅の棚に並べ販売することができる。生産者から見た直売所・道の駅のメリットは、農作物の規模や価格はすべて決めるという点である。つまり、生産者の生産能力や生産規模に関係なく販売ができるので農業初心者であっても気軽に販売することができる。デメリットは、期待している販売数量が必ず売れる保証はないという点である。その理由としては、直売所・道の駅の多くが、委託販売という形式をとっており、農作物を納品したときに納品量すべてを買い取ってくれるわけではなく、売り場で購入された点数だけの売上がたち、売れ残りは生産者が回収しなければならないからである。

市場
生産者と需要者が取引のできる場であり、中央卸売市場、地方卸売市場、またその他の市場に分かれている。メリットは、基本的には出荷数量に関係なく全量を販売できること、相場変動により、かなり高値で販売ができることである。デメリットは、前述に反して、マーケットでの需要に対し農作物の供給量が過剰になってしまった場合、安値で販売することを余儀なくされてしまうことである。つまり、大規模にも取引が可能であるが、得をすることもあれば、損をすることもあるということである。

業務用
ここでいう業務用とは、食品加工業、外食産業、給食産業とするが、農作物は基本的に契約取引となる。ここでは、取引品目、価格、数量、規格、納品期間などをあらかじめ生産者と需要者で取り決め、取引が行われる。メリットは、取引の諸条件を設定していることで、期待した数量を期待した時期に安定的に販売できることである。デメリットは、取引の条件を順守する供給責任が大きく存在することである。

量販店
量販店すなわち食品スーパーでは、地場野菜コーナーにおける委託販売方式と通常棚に陳列される買い取り方式の2つがある。小規模な生産者であればおおかた前者であるが、ここでは直売所・道の駅との比較のため後者を基準にしてメリット、デメリットを申し上げたい。メリットは、期待した数量を販売ができること、量販店の知名度によって異なるが広範囲の消費者に自身の農作物のPRができることである。デメリットは、他の市場仕入品と並べて販売されるため、品質やコストパフォーマンスに優れた農作物でないとなかなか売れゆきが伸びないことである。また、現在は生産者と量販店の直接契約も増えてきたが、大半は卸業者が間に入る取引となるため、手数料が売上げの数パーセントかかかることである。そして特売などのイベント時には納品量や販売価格が変更されることである。

食材宅配サービス
近年、消費者ニーズの高まりを受けて増えてきた販売チャネルの1つで、消費者はWEBページなどから好きな農作物を選び注文ができるものである。宅配販売業者へ販売をするメリットは高品質な農作物をある程度の量があれば高単価に販売ができることである。デメリットは、高品質であることに加え、美味しさや安全性など際立った特徴を持った農作物でないと 、宅配販売業者との取引は難しいことである。

最後に、生産者が意識すべき販売のポイントをチャネル別に述べる。

直売所・道の駅
需要者である消費者は鮮度を意識しているため、新鮮な農作物をいかに用意できるかが重要である。また、出荷品目の売上点数が多くなる時間や日付を意識し出荷をすることも販売をするうえで大きなポイントである。

市場
取引価格は常に変動するので、相場に応じた生産や出荷量の調整をすることが重要である。

また、ニーズのある農作物を作りこむ技術力も必要である。

業務用
取引条件を事前に設定しているため安定した取引が可能であるが、それゆえ気候変動による品質や供給量の変化には厳しいため、品質、収穫量、歩留りや計画的な生産をしながら取引を進められる管理能力が求められる。そのため、複数の生産者と協力し出荷体制をつくることが重要である。

量販店
農作物の小分けや包装などの商品作りやイベント時の出荷量の調整などその突発的な取引数量の変動への対応力が必要である。

食材宅配サービス
前述したとおり、美味しさ、希少性、安全性など際立った特徴のある農作物を生産する必要がある。

農産物を作ったはいいが、なかなか売れない、どのように売ればいいかわからないという悩みをもっておられる生産者は、まず自身の栽培する農作物や農業の取り組み方がどのチャネルに適しているのかを考察してほしい。願わくは、どんな規模で、どの程度の売上を立てたいか事前に考え、どのチャネルに販売すべきか選択し、そのニーズに沿った品目の選定や栽培・生産をしていただければ幸いである。


研究員 小林 浩之