第3回 | 2017.04.24

買いたいと思う商品を考える
~地域資源を活かした商品の開発~

 

現在日本では世界各国の料理を食べることができ、食材は世界中から集められており、食品産業はいわば成熟期とも言えよう。商品の開発にあたっては、消費者意識・購買行動に適応させることが必要であり、従来の発想とは異なるマーケティングが必要である。つまり食生活が量的・質的に満たされているが故に、空腹を満たすだけではない精神的満足感や、食べることの楽しさが求められている。

福島県のある町で道の駅の整備が検討されている。そこで流通研究所は道の駅の整備に向けた実施計画の策定や、道の駅での販売を目的とした特産品等の開発支援業務を行っている。今回は商品開発に向けた取組について、平成28年度に取り組んだ実際の業務を踏まえて、書き綴りたいと思う。

以下の図は、今回実施した商品開発フロー図であるが、見て分かるようにまだまだ開発途中の段階である。先に述べておくが、ここから先は更なる試作品作りを進め改善に努めるとともに、仮設店舗の設置を検討し、テストマーケティングの実施を考えている。他にも商品のネーミングやパッケージ等、商品化までの道のりは長い。

 

まず初めに、町内の地域資源と地域環境の調査・分析に並行して、市場動向分析として周辺道の駅の事例調査(20ヶ所)及び利用者調査(2ヶ所)を行った。道の駅で販売する商品とは、レストランや軽食施設で提供される料理ももちろん含まれるが、今回は道の駅の利用客の区分に関わらず売上上位となっている「惣菜」、「菓子」の加工品開発を、開発の第一歩として検討することにした。また、町内には多様な食資源が存在することから、その食資源を活かし、素材としてできるだけ活用していくこととした。

次に、商品アイデアの収集・整理であるが、ここで言うアイデアとは単にメニューだけではなく、品質やパッケージ、購入シチュエーション等、様々な視点から自由に、できるだけ多く集めることを心がけた。アイデアの発想は個人の感性によるもので、その感性は日々の食に対する経験や関心、知識によって育まれる。検討したアイデアは全て商品開発のヒントとして、これから先も活かしていく。

選定したアイデアをもとに、今後開発する商品のアイデンティティを明確にするため、開発コンセプトを作成した。共通する考えをもったうえで開発に取り組むことで、開発商品や販売商品の統一感が図られ、結果的に販売施設での統一感にもつながる。開発コンセプト決定までの経緯は省略するが、これまでの検討やアイデアを踏まえて「3つのこだわり」を実現することとした。

1つ目は、「町の多様な食資源をできるだけ活用すること」、2つ目に「自分たちの手で主体的に作ること」、そして3つ目に「自分たちが食べたいものをつくること」である。これは、道の駅のメインターゲットに据える地元客に愛される商品を目指し、自分たちがおいしいと思う、食べたいと思うものをベースに作っていくことにこだわっていく、ということである。これら3つのこだわりから、「私たちの味を、自分たちの手で ~目指せ地域食料自給率88.8%!」を商品開発のコンセプトとして掲げた。なお、ここで言う「私たち」、「自分たち」とは、子どもから大人、高齢者を含めた町民を意味している。88.8%は目標数値であるとともに、末広がりの意味を込めた言葉遊びだ。そこで今後は、様々な主体によるワークショップの企画を予定している。

商品開発フロー図の下部に、「試食会・評価」とあるが、平成28年度のゴールとして、2月に町内で開催した、道の駅整備に向けたキックオフシンポジウムにおいて、試作品の試食評価を行った。今回の開発作業はシンポジウムでの試食評価を目的に行ったが、最終的な目標は道の駅での販売である。

試作品の原料として、町の主産品であり、象徴でもある「米」を主原料とし、米をベースとして地域の野菜を活用した「菓子」を作ることにした。まずは市場流通している米粉商品を取り寄せて試食し、試作メニューを検討した。町内産の原料をより多く使うために、町内産の米を製粉加工委託し、シェフと共に農家を見て回り野菜の選定・仕入れを行った。これで卵やバター等の材料を除く、メインの素材を町内産で揃えることができ、町の多様な食資源を活かした商品となる。

(試作講習会の様子、シェフ指導のもと参加者全員で調理を行った)

試作講習会において作成したプロトタイプのレシピをもとに、町内事業者協力のもと試作に試作を重ねた。小麦粉と違ってグルテンを形成しない米粉は、焼成時に生地が上がりにくく、また吸水しやすくずっしりとした食感になってしまう。そのため材料の配合を調整し、何度もレシピを書き換えた。そうやって、自分たちがおいしいと思えるものを作りあげた。最初は不安そうだった参加者も、自分たちの手で作った菓子を食べて、驚きと喜びの表情に変わっていた。

計6品の試食品はシンポジウム来場者にとても好評であった。簡単に試作品について紹介したい。生地のベースはもちろん全て米粉であり、シュークリームのクレームパティシエールにも薄力粉の代わりに米粉を使用し、野菜を混ぜ込んでいる。この野菜は単にピューレ状にしただけでなく、アクセントとして角切りや刻んだものも入っている。そして、野菜本来の素材の味が引き立つように、それぞれの野菜に適した下処理を施している。

オーソドックスな商品は無意識のうちに安心して選択できることもあり、消費者に満足感(安心)を与えるものである。ただ、はじめに、「食べることの楽しさが求められている」と書いたが、実際に美味しいことよりも見た目の美しさで購入を決める人もいる。SNS映えもする、といったところか。だが、見た目の美しさだけではリピーターになりえない。消費者の選好は移ろいやすく、なかなか把握しがたいが、「食べる楽しさ」のウエイトは少なくとも上がっている。しかし、いつも好奇心を刺激される食べものばかり積極的に選んで食べるわけではない。

商品(食べもの)には流行り廃りのファッション性がある。商品開発の際には消費者の需要の変化を踏まえなければならないが、大切なことは、食べ物を通して人とのふれあいを楽しむことであると考えている。おいしいものは誰かに教えたくなるし、人の食べているものは食べたくなるものである。だからこそ、地域の素材にこだわり、その土地だけでしか味わえない商品に、道の駅を訪れた消費者は魅力を感じるのである。そこに素材の持ち味(食材の特性)とお値打ち感(納得して購入できる価格)、ほんの少しの遊び心にPR要素が備われば、自ずと商品は売れるはずである。


研究員 岡田 寛史