第6回 | 2017.06.13

花きの消費拡大に向けて
~新たなビジネスモデル・ブランディングに花き生産者を結びつけるために~

現在、日本の花き市場は縮小傾向であり、産出額では平成10年の約6,300億円をピークに平成26年では約3,700億円まで減少し続けている(花木等生産状況調査)。また1世帯当たりの生花年間購入金額でも平成14年 が11,540円だったのに対し、平成28年では9,317円まで減少している(家計調査年報)。我が国にとって花き産業は、農地や農業の担い手の確保を図る上で重要な位置を占めているとともに、その国際競争力の強化は緊要な課題となっている。花きに関する伝統と文化は、国民の生活に深く浸透し、国民の心豊かな生活の実現に重要な役割を担っている。

【花き】とは、鑑賞用に供される植物と定義されている。具体的には切り花、鉢もの、花木類、球根類、花壇用苗もの、芝類、地被植物類の事をいう。

今回のコラムでは、花き産業再興を考えるにあたり、花き産業の川下、特に「消費」について、既存の需要と花き需要喚起の新たな取組みを紹介しながら花きの消費拡大を行うためのビジネスモデルについて取り上げる。

「花の購買に関する意識」について、オークネット総合研究所が2013年にインターネット上でアンケートを実施したところ(回答者1,744名)、過去一年において「花(切り花)を購入しなかった」とする回答者は全体の約4割であった。花を購入しなかった理由として、「必要性・習慣がない」が挙げられている。しかしこれらの人々は潜在的な顧客として捉えることができる。

次に年間の花き、特に切り花の消費シーンをまとめてみると、下記の表に示すようにほぼ一年中需要はある。花屋の一大イベントである母の日をはじめ父の日、敬老の日、3~4月の卒業、入学、歓送迎シーズンの贈答などの用途が大半を占めるが、桃の節句や端午の節句、ハロウィンやクリスマスといった季節のイベント時の装飾の用途も多くある。またお盆やお彼岸といったお墓参り需要も年に何度かある。その他にも誕生日や結婚記念日のお祝いや、お稽古やフラワーアレンジメント教室などを含めると、年間を通して購入の機会はあると言える。

現在、花きの需要を喚起するため、様々な取組みが行われているのでいくつか紹介する。

このように様々な取組みが行われているが、知らないという人も多いであろう。まだまだ定着には至っていない。

花き産業の低迷の中、圧倒的な成功を収めているビジネスモデルが青山フラワーマーケットである。主に駅ナカ・駅チカに出店し、2000年には14店舗だった店舗数も直近では100店舗近くまで店舗数を増やしている(2017年6月現在)。商品回転率を上げ、ロス率を下げることによって、販売価格は一般的な生花店の半額、もしくはそれ以下の低価格を実現している。低価格の秘密は他にもあるが、それはここでは述べないこととする。

カジュアルフラワーにテーマを絞った品揃えは、花きの消費を「高額な贈答用から家庭用」へと変化させていった。普通生花店では必ず品揃えしている、お墓参り用や仏壇への供花などに使用される和菊、1万円を超す高額商品の胡蝶蘭(鉢)は販売せず、あくまでカジュアルフラワーに特化している。店舗での販売形式は従来のマンツーマンに近い対面方式ではなく、お客様自ら商品を選び、レジに持っていくセミセルフサービス方式が採用されている。ワンコインで買える自宅用のミニブーケの販売や、作り置きギフト用ブーケを品揃えすることによってお客さまに選ぶ楽しさを提供するとともに「花束=待たされる」という負のイメージを解消したのも革新的であった(オーダーメイドブーケも対応している)。

青山フワラーマーケットでは生産者を巻き込んだ販売体制を作り上げている。流通構造は、花きでは主流ではない産地直送といった市場外取引も取り入れており、それによって市況に左右されにくい価格設定と鮮度維持を可能としている。ホームページ上では生産者の声を掲載しており、産地から直接お客さまへギフトを送るサービスを実施している。また店舗スタッフが産地を訪問し生産者と直接触れ合う機会を設け生産者と共にお店のブランドを作り上げている。

現在、花きを扱う専門店(いわゆる花屋)は全国で20,000店舗以上あると言われている。今後花き業界を再興していくためには新たなビジネスモデルの構築や、各花屋のブランディングを実施しなくてはならない。すでに新たなビジネスモデルとして花屋にカフェやバーを併設した店舗、顧客を男性に絞ったギフト専門店などがある。お店のブランディング例として「バラの品揃え品種数がどこよりも多い」だとか、「他のお店には売ってない珍しい花がある」というような品揃えの特化も考えられる。このような取組みによってお店のファンが増えれば、頻繁に花屋に足を運ぶようになり、特別な日でなくても花を購入する機会が増えるのではないだろうか。

今後の花き産業振興に向けて、花きの産地による差別化をもっと進めていくべきである。野菜や果物では産地表示は義務付けられており、消費者にとっても生産地は重要な選択基準となっている。産地と実需者との直接取引は拡大しており、産地をブランディングした商品の訴求も拡大している。市場経由の流通でも産地指定した取引が多く行われている。

一方で、花きはあまり生産地が重要視されていない。青果に比べると花きは産地に入り込んだ取組みがまだまだ弱く、生産者と実需者のマッチングを実施し、川上から川下まで巻き込んだ6次産業化の拡大が今後の課題である。

花きには癒しの効果があり、花きを購入することや愛でることによるQOL(クオリティオブライフ)の向上に花き産業の振興が必須である。しかし現実には花きに費やす金銭的な余裕がない、購入する必要がないと考えている人が多い。特に若年層の花き離れは深刻で、消費の拡大はますます難しくなっていくが、家庭で花を飾ることが生活の一部になるように今後も様々な提案を続けていきたいと思う。


研究員 中山 賢