第19回 | 2017.12.28

花きの消費拡大に向けて②
~国内で最も消費量の多い品目『きく(菊)』の現状と課題~

今年度、受託した業務の中で愛知県と沖縄県を担当させて頂いている。偶然であるが、この2県は花き生産がとても盛んな地域であり、全国で切り花類出荷量の最も多い都道府県が愛知県、次いで多いのが沖縄県である。

共通して生産量の多い品目は、国内で最も消費量の多い品目である『きく(菊)』であり、出荷量は愛知県が最も多く、次いで多いのが沖縄県で、この2県で国産の『きく(菊)』出荷量の約半分を占めている。
*農林水産省ホームページで『きく』と平仮名表記されているため、本コラムでは『きく(菊)』と平仮名と漢字を併記する。

『きく(菊)』は桜と同様に日本の国花でもあり、前述したが国内で最も消費量の多い花でもある。
*国花・・『その国民に最も愛好され、その国の象徴とされる花』とされる(参照:広辞苑)。

『きく(菊)』は、市場関係者には『プライスリーダー』と呼ばれていて、需給バランスが崩れ市場相場が高値で推移すると、他の品目もつられて高値傾向となり、逆の場合もまた同様に、相場をけん引する傾向にある。花き卸売の大田花きではこういった状況を回避するために従来決まっていたセリの順番や、セリ実施レーンを変更する等の工夫をして特定品目による相場けん引を回避するよう努めている(参照:株式会社大田花きホームページ社長コラム)。しかし、近年『きく(菊)』の生産・消費量は減少傾向であり、花きの消費拡大に向けて、現状と課題の棚卸が必要である。

『きく(菊)』と言っても様々な種類があり、用途がある。もっとも単純なカテゴリー分類として輪ぎく、スプレイぎく、小ぎくに分けられる。

 

 

主な使用用途は仏事が多く、慶事では基本的に使用されない。さらに昨今では、葬儀の規模縮小、仏花の購入頻度の低下、消費世代の花き購入頻度の減少等の理由で『きく(菊)』の消費は低迷している。今までの仏事を中心とした消費以外の新たなマーケットを創造する必要がある。

そんな中、数年前より新たな『きく(菊)』のマーケットとしてディスバットマムというカテゴリーや従来の品種とは異なるスプレーマムの消費が拡大している。ディスバットマムとは、輪ぎくに分類されるのだが、除去するという意味の「dis」と、脇芽という意味の「bud」を合わせ、脇芽をかいて一輪の花に栄養分を集中させることで、大きく、豪華に仕立てた『きく(菊)』のことを言う。用途は従来の『きく(菊)』と同様に仏事でも使用するのだが、生産者や流通業者の意図としては、ブライダル等の慶事やギフト、またはデイリーフラワーとしての消費拡大であり、花を購入する習慣のない若年層をあらたなターゲットとしていると考えられる。従来の『きく(菊)』を取り扱っていなかった青山フラワーマーケットでもディスバットマムは品揃えしており、プロモーションも進めている。

スプレーマムについては、もともと日本の品種は一重咲きのものが多かったが、外国品種の輸入拡大や新品種の開発により八重咲、丸咲、変わり咲等があり、ディスバットマム同様にブライダル等の慶事、ギフト、デイリーフラワーとしても消費拡大している。

花き業界では、花きの消費拡大のため、「フラワーバレンタイン」「いい夫婦の日」「愛妻の日」「フラワービズ・フラワーフライデイ」等、花を購入する様々な機会を提案しているが、浸透しているとは言い難い。理由は大きく2つあり、一つはこれらの提案自体がうまくプロモーションされていないことである。受動的な消費者には情報が取得しづらく、新たな消費拡大にはつながっていないと考えられる。二つ目として、本当に消費者が望むものが提案できているかという疑問点がある。他の産業と同様に花き業界もプロダクトアウトではなく、マーケットインした品目やイベントの提案を行っていかなければならない。

最後に愛知県の『きく(菊)』のブランド化と組織化の事例を紹介する。JA愛知みなみ管内のディスバッドマムを生産する4部会が統一ブランド「ALL 4 MUM(オールフォーマム)」の出荷を今年の11月より本格化している。ブランドを統一することによって、それまで各部会で出荷していたため出荷先で発生していた偏りを解消し、需要のある市場にバランスよく適正量を出荷できることに加え、情報の共有や計画生産や供給体制の整備などによるブランド力向上が狙いである。2017年度は各部会の生産者約30人が750万本を出荷する見込みである(参照:日本農業新聞2017年11月3日)。

『きく(菊)』については新たなマーケット拡大の糸口が見えはじめている。他の品目でも同様に花きの消費拡大にむけて現状と課題を整理して行かなければならない。先にも述べたが、キーワードは『マーケットイン』である。

日常生活の中で花屋に行く機会は少ないと思いますが、たまには花屋さんに立ち寄って、ディスバッドマムでも購入してみてはいかがでしょうか。


研究員 中山 賢