第25回 | 2018.06.14

物流改革は商流改革 & 働き方改革
~農林水産物の物流効率化について考える~

現場の人手不足や、消費者のライフスタイルの変化への対応などにより、全国の産地や卸売市場においても物流体系の見直しを迫られている。「流通」研究所という会社名ではあるが、私自身はこれまでどちらかと言うと「商流」に関する調査やプランニングの仕事が多く、「物流」に関する仕事は少なかった。しかし今年度は、卸売市場改革の流れもあるのか、物流に関するプロジェクトにいくつか携わることになり、最近改めて農林水産物の物流についていろいろ勉強している。

物流コストを削減するには、結局のところ「1回の輸送でできるだけ多く運ぶ」か「1回の輸送にかかる工数をできるだけ少なくする」に集約される(その中で前者は「より大きな輸送手段に積み込む」「規格の見直しや無駄な部位のカットなどで、商品形態をよりコンパクトにする」の2通りに、後者は「作業工程をカットする」「輸送経路を短絡化する」「作業要員を減らす」の3通りにまた分かれていく)。しかし農林水産物で物流の効率化について考える際の本当の課題は以下の3つにあると実感している。

1つ目に、生鮮品は運んでいる間にもどんどん品質が変化するという問題がある。産地から納品先までいかに品質を落とさず運ぶかという視点がないまま、単純により多く運べる手段を採用するのはNGである。そこは技術の力に頼るしかない。最近、農産物であれば電磁波を発生させて鮮度を保つスーパークーリングシステムなどを設置した冷蔵コンテナ、水産物であれば活魚の状態で運べる水槽などもある。ハードさえあればあとはOKという問題でもないが、お金がない・機械の操作が面倒臭いなどの理由で最初からそういった選択肢を除外するのは勿体ないなと、現場に接していて感じるところである。

2つ目に、取扱量を増やしていくとなると、加工食品ほど長く保管しておくことができないことから、売り先はどうするのか、その荷捌きのための人手はどう回していくのかなどの話と切り離して考えることはできないということである。ある有識者の方は「物流と商流をセットで考えたグランドデザイン」と表現されていた。産地としては豊作・不作関係なくその時出荷できる分をすべて引き取ってくれる取引先を確保することも必要だが、それだけでなく産地の特性に見合った条件で取引できるパートナーも見つけるなど、取引構造そのものから考え直していくことも場合によっては必要になるだろう。

3つ目に、効率化の方向性は見えていたとしても、いざ現場に落とし込もうとすると、産地や市場ごとに現在の窮状に至るまでの歴史や環境、設備投資にかかる資金力などの事情から、そこに向かって関係者が一斉に舵を切るのは容易ではないという問題がある。そうなると、どういう課題解決の話から関係者にアプローチすれば聞く耳をまず持ってもらえるか、その切り口の選び方次第で目指す方向に行きつくまでのステップや時間が大きく変わることから、個々の産地や市場の背景に対する理解もある程度必要になってくる(その結果忖度し過ぎるようになっても良くないので、その辺りのバランスの取り方が難しいが)。例えば、取扱量が増えているところであっても、増加量に対応できるだけの人手が確保できず、逆に経営の非効率化や倒産の危機に瀕している事業者の増加が問題となっている地域もある。そういったところでは、業界版の「働き方改革」を掲げて問題意識の共有化を図ろうとしている動きも見られる。

以上を踏まえると、物流の話から入っても、詰まるところ商流や働き方の話を含めて考えなくてはならないことがわかってくる。もちろん細かい物流体系の組み立てについてはロジスティクスの専門家とも協力しながら進めなければならない部分もあるが、コスト削減につながる方向で効率的に農林水産物を運ぶためには、物流業界だけでなく産地や卸売市場側からの改善努力も多く必要である。経過がご報告できるようになれば、本コラムの中でもまたご紹介したい。


副主任研究員 中村 慎吾