第23回 | 2018.02.26

求む!焼酎製造の人材
静岡県三島市「焼酎特区」認定から考えた商品開発に必要なこと

私の地元である静岡県三島市は、昨年の12月に日本で初めて「焼酎特区」に認定された。「焼酎特区」では、酒税法に規定されている焼酎の最低製造数量基準が緩和され、現行法令では焼酎を一定量以上製造しなければ製造免許が取得できなかったところ、特区認定を受けたことで、小規模製造が可能になる。そこで、「特産品しょうちゅう(申請製造場所の所在する地域で生産された特産品を主原料とした単式蒸留で製造された焼酎)」の商品開発について思ったことを記載する。

まず、酒類を製造しようと思うと、酒税法に基づき製造しようとする酒類の品目別、製造場ごとに、製造場の所在地の税務署長から製造免許を受ける必要がある。免許取得の要件として、最低製造数量、人的要件、場所的要件、経営基礎要件、需給調整要件、製造技術・設備要件がある。一般的な法人が焼酎製造に挑戦しようと思った時に気をつけなければならない要件は、場所的要件であり、酒場、旅館、料理店等と同一の場所でないこと、接近している場合は、図面上で明確に区分する必要があるため、専用の製造場所を用意する必要がある。

焼酎特区に認定されたことで適用されなくなるのが最低製造数量である。通常は、免許を付与された後1年間の製造見込数量が10kl以上となっており、720ml瓶に換算すると14,000本となる。この量は、大規模な設備を有する酒造会社でないと製造できない量とのことである。今回、焼酎特区に認定されたことで、最低製造数量が適用されなくなり小規模製造が可能になったことは、焼酎の製造における参入ハードルを格段に下げることになる。

焼酎の製造工程を簡単に記載すると、①麹づくり(原料に含まれるでんぷん質を糖化させる麹菌の繁殖)②一次もろみづくり(①で繁殖させた麹に水と酵母を加えて糖をアルコールに変えるアルコール発酵をさせ酵母を繁殖)③二次もろみづくり(主原料と水を一次もろみに加えて、主原料の糖化・アルコール発酵)④蒸留(二次もろみのアルコールを蒸発させ冷却することで濃度の高いアルコールを得る)⑤熟成・ブレンド・瓶詰の工程を経て、商品となる。

これらの製造工程から考えると、デンプン・糖を含む原料であれば何でも焼酎ができることになり、トマトやミカンであっても焼酎製造が可能となる。三島市の近隣には、沼津市の寿太郎みかんや伊豆の国市のイチゴ等の特産品がある。しかし、焼酎製造免許の条件として、製造する酒類の範囲が定められており、「特産品しょうちゅう」の製造免許には、「○○産地で生産された特産品である○○を主原料として製造するもの」と条件があり、それ以外の原料を主原料とした単式蒸留焼酎が製造できないため、小規模製造が可能だからといって、バラエティーに富んだ商品を製造するには、製造する原料によって製造免許を取得する必要がある。
※「特産品しょうちゅう」においては、果実を使用した単式蒸留しょうちゅうはブランデーやスピリッツに分類されるため製造不可のため、ミカン等を使用した焼酎の製造は不可

このように「焼酎特区」に認定されたからといって様々な制限はあるが、三島市において焼酎の商品開発に取り組むにあたり必要なことは、①製造者②製造場所(設備、免許等含む)③原材料④販路⑤再生産可能な収益 であろう。

③の原材料について、三島市には、三島甘藷や地理的表示保護制度に登録されている三島馬鈴薯がある。三島馬鈴薯は、箱根西麓で栽培した高品質な馬鈴薯であり、三島コロッケなどにも活用され、三島市のPRをけん引してきた。また、「特産品しょうちゅう」としては、コメやトマトも考えられ、三島市内でも栽培されている。

この中から選ぶ主原料としては、三島甘藷又は三島馬鈴薯が良いと思う。理由としては、開発後の販路開拓を考えた時に、三島甘藷であれば、「いも焼酎」という確立されたグループがあり、「いも焼酎」が好きな人が既に存在することから、一定の需要が見込めるからだ。しかし、その分、競争が激しいため高品質な焼酎を開発する必要がある。三島馬鈴薯の場合は、既に馬鈴薯を原料とした焼酎が市場に存在しているため、新しい商品という訳ではないが、三島馬鈴薯というブランド価値を活かした販路開拓ができるのではないかと思う。

原材料の選択は、サンプルとして委託製造をして試飲してみたり、市場調査をしながら決定すべきであろう。販路を意識した原料選択をすることで、よく言われるマーケットインという考え方で商品開発ができるようになるだろう。しかし、私としては三島甘藷を使用して「いも焼酎」という王道で真っ向勝負というのが好きである。消費者等の意見ばかり聞くのではなく、製造側のこだわりを商品にしっかり乗せることが商品開発の醍醐味だと思う。自分が美味しいと思う商品を飲んでもらい、美味しいと言ってもらえた時の感動を味わってもらいたい。

最後に、①の製造者についても少し記載したい。製造者が最も重要であり、焼酎の製造は職人の世界であるからである。麹や酵母という生物を相手にし、温度管理から原料に合わせた管理など、難しい世界なのだと思う。しかし、単純に考えると麹に適した温度においてデンプンをあたえれば糖に変えてくれるし、酵母も適した温度で糖をあたえればアルコールに変えてくれる。こんな事を言うと怒られてしまうが、醸造という職人の世界も生化学的に考えると単純である。

市内の企業が取り組むのであれば、人材を確保することは可能かもしれないが、職人の世界であるため、数年は酒蔵での修行が必要になるかもしれないし、焼酎に人生を注ぐことになる。安易に考えると、地域おこし協力隊の制度を活用して、焼酎の製造をしてもらい起業してもらうことも考えられる。しかしながら、焼酎特区を活かして焼酎を製造していく上での最大の課題は「製造者」となるだろう。市内の企業が参入してくれればよいと思うが、人材の確保も難しいだろう。人材さえ現れれば、市内企業で参入を検討する企業が存在すると思うので、ぜひとも、三島市で焼酎製造をしたいと思う方が現れてほしい。


副主任研究員 大池 峻吾