第29回 | 2018.07.23

水産業の現状について

今回のコラムでは、水産庁が公表している水産白書の内容をいくつか紹介させていただきながら、私が水産業界に感じていることを書かせていただきます。

(1)国内の漁業・養殖業の国内生産の推移について
  まず図1は、日本国内の漁業・養殖業の生産量の推移を示しています。

図1から、1980年代末から漁業・養殖業の合計生産量が減少していることが分かります。ピーク時(1984年)と2016年を比較すると846トン(約66%)もの減少です。各種メディアも、この合計生産量の減少にスポットを当てて報道することが多いように見受けられます。しかしこの図からは、マイワシの漁獲量の減少と1980年代末以降の生産量急減が連動していることを読み取ることも出来ます。1984年以降から1995年にかけての合計生産量の急速な減少に関しては、マイワシの漁獲量減少が主な要因なのです。ここでマイワシの漁獲量の急減については、レジーム・シフトと呼ばれる気候変動によるもの、というのが通説です。しかしこのマイワシ急減という事実には触れられずに、「ピーク時と比べ生産量が半減した」という点だけが世間に認知されているような印象を私は感じています。図1中の「沿岸漁業+沖合漁業の漁獲量(マイワシを除く)」というグラフを見ても分かるように、マイワシを除いても生産量が減少していることは事実なのですが、合計生産量の減少しか知らなかった場合と違って受ける印象が変わるのではないでしょうか。

(2)世界の漁業・養殖業生産量の推移について
  次に示すのは、世界の漁業・養殖業生産量の推移についての図です。

図2から、世界の漁業・養殖業の生産量は右肩上がりであることが分かります。特に日本の合計生産量が急激に落ち込んだ1990年頃から、対照的に世界の合計生産量は急上昇しています。ただしここで留意しなければならないことは、漁船漁業生産量に関しては過去20年ほどの間ほぼ横ばい、もしくは若干の減少傾向で推移しているという点です。つまり、海面養殖業と内水面養殖業が合計生産量を押し上げている、という認識を持つ必要があります。そこで、養殖業の生産量を押し上げている国、そして魚種が図3に示されているのでご覧ください。

図3から、中国の養殖業生産量が突出して増加していることが見て取れます。次に増加しているのはインドネシアです。そして魚種で見てみると、淡水魚類と海藻類の生産量が突出して増加していることが分かります。また、海藻類に関しては“Warty gracilaria”という主に工業用に用いられる海藻や、オゴノリのような寒天に用いられる海藻の生産量が増加しているという事情もあります。ここで私が感じることは、世界の漁業・合計生産量が右肩上がりだ、という論調のみが世間に認知されて、上記に示したような内情があまり知られていないということです。世界的に魚の需要が上昇しているということもまた事実ですが、上記のような情報を知るとまた受ける印象が変わるのではないでしょうか。

(3)主要魚種の漁獲割合について
  最後に、アイスランド・ノルウェー・日本・韓国における全漁獲量の8割を占める魚種数を紹介します。

図4から分かるように、漁業先進国と呼ばれるアイスランド・ノルウェーの全漁獲量の8割を占める魚種数が5~7種類というのに対し、日本・韓国では18種類~22種類と倍以上の違いがあることが分かります。ここまでの魚種数の違いは「種の多様性の緯度勾配」という、ある地域に生息する種の多様性は高緯度の地域にいくにつれて低下するという法則、によってもたらされています。ここで、ノルウェーなどの漁業を参考にして日本もそれをマネするべきだという論調を見かけることが多いのですが、そもそもの漁場が違うという点をおろそかにしているような印象を受けます。当たり前の話だとは思いますが、場所が違えばそれぞれ違った手法が必要です。もちろん漁業の効率化や生産性の向上にむけて取り組むことは必須ですが、イメージ先行で取り組んでしまわないように注意する必要があります。

以上、ここまで色々な情報を紹介しましたが正直に申し上げると、だから私はこうするべきだと思う、という明確な主張がある訳ではありません。ただし、海外の事例をそのまま当てはめることはかなわないし、国内事情を鑑みないで日本の水産業は遅れている、というイメージ先行の論調に違和感を抱いています。また、日本の水産業はまだまだ大丈夫、と思っている訳でもありません。日本の水産業には非常に多くの問題点があることも事実です。そういった問題解決に取り組むにあたって、イメージや表面的な情報に捉われずに実情をしっかりと把握していく事が非常に大事で、さらにその情報を発信していくことが水産業の振興に求められているのではないでしょうか。


研究員アシスタント 廣瀬 敦士