第13回 | 2017.10.03

地域産業活性化におけるコーディネーターの必要性

まず、以下の表をご覧いただきたい。

ここに示された数値は何かお分かりになるだろうか。これは、総務省の事業である「地域おこし協力隊」について、平成21年度以降の隊員数と実施自治体数を示したものである。安倍政権の「ニッポン一億総活躍社会」の実現に向けた政策の一つとして、「地域おこし協力隊」は、平成25年度に千人程度だった隊員数を平成28年度には3千人規模に拡充するとされており、実際の数値目標はクリアしている状況である。我々もここ数年、地方で「地域おこし協力隊」が積極的に活動している場面に出くわすことが多く、拡充の成果を実感するところである。

一方、隊員数、実施自治体数が増えるに従い、様々な問題も発生しているという話も聞くようになった。例えば、自治体が隊員に期待する内容を明確にしないまま受け入れをしてしまったり、隊員の自主的な取組に対して自治体、地域で協力体制が組めなかったりすることで、隊員の力を十分に活かせていない、期待していた効果が出ないなどといった話である。

総務省発の地域活性化政策の成功モデルと言われた「地域おこし協力隊」。隊員数の拙速な拡大によって、自治体側が体の良い労働力の確保に走ったり、隊員と地域を結び付ける作業を怠ったりすることが原因で、本来の効果を発揮できない状態があるのだろうと予測され、非常に残念に思うところである。

自治体側は隊員には自主性をもって独自の視点で活動することを期待しているのかもしれないが、隊員はその地域をほぼ知らない状況で赴任しており、隊員自らの手腕だけで地域に入り込むのは相当難易度が高い訳で、自治体や団体の職員、自治会、青年会等などが様々な場面で隊員と地域を結び付けるように仕向けることが必要ではないかと思われる。

さて、私どものクライアントは地方自治体がメインであり、業務エリアは基本的に全国区であるため、私も今年度北は秋田、南は静岡で仕事をさせて頂いている。仕事の内容は、6次産業化・地域ブランド化、地域の農水産加工品の営業代行、地域産業振興のための拠点(道の駅、加工施設、市場)整備に向けた計画策定、管理運営体制の構築等である。ここ数年色々な仕事を進める中で、共通して必要だなと私が感じているのが、“コーディネーター”というキーワードである。先の地域おこし協力隊の話でも、コーディネーターという役割の必要性が浮かび上がってくる。今回は実例を踏まえ、このことについて触れてみたい。

神奈川県A町では、地域ブランド制度の創設、並びに6次産業化の支援を行っている。6次産業化のためのワークショップには、生産者、製造事業者、飲食事業者、マルシェ参加者、地域作業所など様々な方の参加を頂いた。その会では、商品開発の専門家を招へいし各参加者の取組内容や試作品について質問、評価し、改善提案を行った。

会を進めていく中で面白かったのは、参加者がそれぞれ情報交換をしたり、初めて会った者同士が挨拶をしたりと、自然発生的に相互交流が始まったことである。小さな町単位でもプレイヤー同士がつながる場があまりないことを感じた瞬間でもあった。今回のワークショップがプレイヤーのつながりの構築、相互理解を深める場になっており、このような場づくりの必要性を感じた場面であった。

また、地域農産物を使った商品づくりを進めたい製造事業者からは、地域農産物の情報自体がない、誰に言えば荷を集めて貰えるかが分からないといった声も聞かれた。通常、農協の品目部会や農産物直売所等がその役目を担うが、この地域の場合、広域JAであるため、地域ごとの生産者をまとめることができなかったり、直売所が休日のみ営業のため、荷を集める機能を担うことができない状況であった。現在、事業者と生産者を集め、地域農産物の集出荷の方策を検討する協議会の立ち上げを調整しているところである。

秋田県B市では、これからの農業振興の拠点として行政主導で加工施設の整備を進めている。その施設を活用して一次加工の取組を進める方針だが、まずは学校給食への地域農産物の一次加工品の納入可能性を検証するため、商品の試作、試作研修、学校栄養士による試食評価、学校給食農家会と学校栄養士との意見交換等を進めている。現在も学校給食農家会は地域農産物の給食センターに納品をしており、時々一次加工した農産物の発注もある。先日聞いた話では、カボチャ130㎏をダイスカットにしたものを農家会のメンバー6人で6時間近くもかけて作業したという話であった。大変な重労働であり、加工機械の導入により作業の効率化、製造量の拡大が期待されるところである。

実際に加工機械を使った一次加工研修の中では、ダイスカットのできる機器、真空包装機等を使って試作をつくり、学校栄養士に試食評価をして貰った。学校栄養士の率直な意見は非常に参考となるところである。今後は冷凍したものの品質について3ヶ月後、6か月後の試食評価を行う予定である。

生産者と学校栄養士との意見交換を何度か開催する中で、生産者からは生産量が増えてきた農産物の話、学校栄養士からは具体的な一次加工の希望、地域農産物を使うことができていない時期の話など、お互いに率直に意見交換をする場面が見られ、一次加工の取組の拡大のアイディアにつながっている。自治体の担当者は6次産業化の取組を仕掛けてきたがなかなか生産者の機運が高まらなかったということで(加工施設の完成時期が見えてきたという追い風があると思うが)、今回の一次加工研修を通して手ごたえを感じて頂いているようである。このように、プレイヤーが一同に集い、率直な意見交換のできる場をつくることの重要性を実感する場面であった。

整備する加工施設は最終商品にまで仕上げる加工研修室も整備する予定であり、今年度後半では、地域の生産者、実需者を対象に加工品開発のノウハウ、加工技術の習得を目的とした食品加工研修も行う予定である。

上記の2事例は、地域のプレイヤー同士の連携がうまく進んでいないということが共通課題として挙げられる。実は、地域でもそれを課題だと認識しており、過去に何度かその改善に向けたトライアルをやったこともあるということであった。地域住民、生産者、実需者の間に何らかの綾(しがらみ、誤解、思い込み、あきらめ等など)があり、その綾を解くことが容易でないと感じてしまっている人が多く、分かっているけれど手を出せないという状況になっている場合が往々にしてあるように思われる。

そのような中、これまでの私たちの仕事の進め方を見ると、ヨソモノとして客観的に地域の課題を捉え、具体的な解決策を提示したり(知らないふりして疑問をぶつけてみたり)、解決に向けたトライアルを仕掛けたり(当事者の意見を聞き取り、具体的な取組を提案したり)、綾に対する地域のハードルを下げ(誤解や思い込みの解消、相互理解の促進をしたり)、実際に何かを生み出す機運(やってみたらできそうだ、やってみたいという意識)を高める作業を行っているように思われる。

如何であろう、地域の綾を解くコーディネーターの必要性を少しでも感じて頂けただろうか。このようなコーディネーターが必要な場合は、ぜひ私たちにお声をかけて頂きたい。これまでも、そしてこれからも農水産業振興の培ってきたノウハウ、ネットワークを活かし、ヨソモノの視点をもって、クライアントに寄り添い、誠実に業務に関わりたいと考えている。


主任研究員 松谷 宏之