第2回 | 2017.04.17

地域個性を活かした計画・戦略づくり
~神奈川県内市町村の地域ブランド開発を通して~

流通研究所には、農業振興計画、農業振興地域整備計画、浜の活力再生プラン等、市町村の農林漁業関連計画及び戦略策定支援の業務実績が数多くある。これまで流通研究所では計画づくりのための計画や戦略づくりのための戦略は作成しないことを基本理念としてきた。それは地域に即した実行可能な計画及び戦略を作成しなければ、その後、実際に地域としてどのように動いていくかを見据えることが出来ず、計画、戦略としての意味をなさないためである。

実行可能な計画、戦略の策定支援にあたって、まず必要となるのは、地域個性の洗い出しと読み解きである。地域に関連する資料収集と分析、現地調査、アンケートや関係者等へのヒアリング調査等、地域における情報収集をきめ細かに実施し、地域の実情を捉えていく。地域を取り巻く社会情勢の変化の把握と予測に努め、将来的な見通しを行う。また特殊な専門性を要する場合は、弊社の豊富な人材ネットワークを生かし最適な体制を構築し対応を行っている。計画を作りながらたたき台を提示し、実行可能な計画であるかを関連する団体や庁内と調整を行い、繰り返し検討する。さらに議会、パブリックコメントへの回答等を経て計画として策定される。

昨年度、担当した神奈川県内のある市町村(以下、地域と記す)における地域ブランド開発支援業務は、地域資源(主に農産物)を用いた商品の開発を支援し、地域ブランドとして認証する仕組みづくりを行うというものであった。地域ブランド開発の目的は、地域の資源等を活かした事業(産業)を拡大し「農地や山を有効に利用して豊かな自然を守る」、「町の資源等を活かした事業に携わる人を増やす」ことを目指すことである。

この地域の大半を農地や山が占め、かつては生産された農林畜産物は、暮らしの中で消費される物資であるとともに、販売して所得にする生活になくてはならない糧であり、生活の営みによって地域の豊かな自然は維持されてきたが、長い時を経て状況が変化した。現在は生活の物資を得るために農地を耕し、山の手入れをする人は減り、仕事として農林業を選ぶ人も減っている。この結果、農地や山は荒れ、鳥獣による農産物の被害や、日照条件の悪化という問題が起こり、町の自然と暮らしに影響を及ぼしている。

一方でインターチェンジの開設により、大都市へのアクセスが便利となったため、多数の企業の立地が進んでいる。この地域では多くの人が働き、町の特産品を購入する機会を求めている。また、町の豊かな自然環境を背景に、町外からの新規就農や、定年後の帰農、Uターン者も増えている。全国的に原産地の明確な食品や新鮮な食材、固有の商品に対するニーズは高まっている。そこで地域ブランド開発による地域活性化に取り組むこととなった。

本業務を行うにあたり、その地域の魅力を端的に表現できるよう、行政職員の方に、地域資源の案内をして頂き、地域資源の確認を行った。それに加え、関連する民俗、歴史、統計資料などの確認、地域住民へのヒアリング調査を元に地域資源調査を行った。この調査によって得られた地域の個性を反映したブランドコンセプト、ブランド開発戦略づくりのたたき台を作成した。それを元に地域住民、外部専門家で組織されたブランドに関する決定機関であるブランドプロジェクト部会で話し合いを行い、意見を出し合い、検討を繰り返しながら、ブランドコンセプト、ブランド開発戦略が決定した。

この業務を通して改めて感じたのは、地域住民の方が当たり前に感じている地域個性が、地域外から見れば魅力であるという事であった。この地域の個性は、神社の例大祭で奉納される古典的な舞、かつて葉タバコや麦の栽培が盛んであったこと、合併前の旧村単位で心象風景が異なること、みかんの樹がある風景等である。しかし、また地域住民にとって地域個性は魅力として気付かれていない場合が多く、外部の人間である専門家が、言語化、可視化するなどの「見える化」を図り、地域住民へ伝えると、内発的発展として地域内部の気付き、再発見が行われ「地域ブランド開発を盛り上げていこう!」という機運につながった。

「この地域の地域個性、魅力は何だろうか」と、私は考えながら何度も地面を見た。地域の方に、「売っている物とは違うから食べてみて」と頂いた大根の瑞々しさに驚いた。「昔からおばあさんが作っている素朴な味のお菓子だよ」と頂いた“かりんとう”は、私の家族が気に入ってすぐになくなってしまった。地域の自慢をしてくれた時の地域住民の方の笑顔を思い出す。

私は縁があって、今この地域に立っている。この地域に脈々と受け継がれてきた味や、歴史が重層して出来上がった現在の姿、地域の方の笑顔を大事にしながら、計画や戦略づくりに携わっていかなくてはならないと感じた。その思いを地域の方と共有しながら今後も地域の潜在的資源を、現在の最良な形として顕在化し、魅力の発信と再創造が地域でなされるように業務にあたりたい。


研究員アシスタント 板垣 いずみ