第40回 | 2021.01.04

商いは牛の涎〈よだれ〉
~「すき焼き」を食べて元気な一年を~

新年あけましておめでとうございます。

今年は箱根駅伝の応援も少なく、初詣や初売りで人が犇めき合う光景も見られませんね。例年とは違った静かなお正月になりましたが、我が家の正月料理は毎年変わらず「すき焼き」です。

「すき焼き」のルーツは、江戸時代に農具の鋤〈すき〉を鉄板代わりにして魚や野菜を焼いたとか、薄く切った肉「剥身〈すきみ〉」を焼いて食べたとか諸説ありますが、明治時代の文明開化に伴い庶民に普及し始めたようです。

この「すき焼き」はもともと関西地方の呼び名で、関東地方では「牛鍋」と呼ばれており、呼び名にちなんで調理法も異なります。

 

【肉を煮る、肉と野菜の一体感を味わうなら関東風】

みりん・醤油・酒・だし・砂糖などで作った「割り下」で、肉と野菜を同時に煮るのが関東風。最初から割り下で煮るので、肉と野菜が調和したまろやかな味になります。スーパーに行くと、市販の鍋つゆや割り下も売っており、作り方は一般的な鍋料理と同じですね。

 

【肉を焼く、肉を主役に楽しみたいなら関西風】

我が家のすき焼きはこちら、まず初めに鍋で肉を焼きます。肉を焼いて砂糖と醤油で調味したら、順々に野菜を入れていきます。野菜の水分で煮ていくので、白菜は絶対に欠かせません。次に個人的に欠かせないのが、今の時期に旬を迎える春菊。春菊がおいしい時期のすき焼きが最高なので、我が家の正月料理はすき焼きになったと思われます。若干の手間はかかりますが、ガッツリ肉を味わいたいときは、肉を焼いてから味付けする関西風のすき焼きを是非一度お試しください。

 

さて、「すき焼き」に欠かせない牛肉ですが、国産牛と和牛の違いはご存知でしょうか。

国産牛は、日本国内での飼育期間が他の国の飼育期間よりも長い牛のこと。つまり、外国生まれの牛でも、出荷までに日本で肥育された日数が一番長ければ国産牛となります。品種も関係ないので、乳牛用の老いたホルスタインも食用なら国産牛となります。

一方の和牛は、肉専用種として指定された「黒毛」・「褐毛」・「無角」・「日本短角種」の4品種、または4品種間の交雑牛を指します。和牛は、肥育期間などに関係なく、条件を満たした牛のみに与えられる品種名です。

そして、原則国内のすべての牛には10ケタの「個体識別番号」が割り振られ、分かりやすいように耳標にして装着されています。個体識別番号には牛の性別や種別、出生地、飼育場所、解体された場所や、出荷された場所など、すべての情報が記録されています。これを、トレーサビリティ制度といい、誰でもインターネット上でこれらの情報を確認することができるようになっています。さらに、流通過程の食肉卸売市場では、検査員が一頭ずつ病気の有無などもチェックしており、解体時には肉のサンプルを摂取し、DNA検査も行っています。

こうして、私たち消費者は安心しておいしい牛肉を食べられるわけですね。

今年は丑年。昔から、牛は食料としてだけでなく、農作業や物を運ぶ労働力としても人々にとって欠かせない存在でした。その勤勉に働く姿は「誠実さ」の象徴として、身近にいる縁起の良い動物として十二支に加えられたようです。

新しい年が始まり数日が経過しましたが、気持ちはやや曇り気味。昨年はコロナ禍で生活に様々な変化があり、農水畜産業、飲食業、観光業、その他の業界でも深刻な打撃を受け、今もなお厳しい状況が続いています。しかしながら、多くの企業でリモートワークが進み、新たなサービスや取組みも誕生しているように、転機でもあります。

私たちの仕事は農水産業の振興に貢献すること。他産業と比較して、一次産業の急速な発展は難しいかもしれませんが、牛の歩みが如く着実に、そして「帽子だけで牛なし」にならないよう、誠実に、現場目線で成果に繋がるコンサルティングを実践していきたいです。

今年はあらゆる面で変化の年になりそうです。これから先どうなるか分かりませんが、「すき焼き」を食べて踏ん張りたいと思います。

「商いは牛の涎」-細く長く垂れる牛の涎〈よだれ〉のように、商売は気長に辛抱強くこつこつ続けることがコツだという譬え。

 


副主任研究員 岡田寛史