第41回 | 2021.05.25

初ガツオから市場流通を考える
~これからの時代の市場流通と直売のあり方について~

まもなく梅雨入りの今日この頃、初夏といえば紫陽花そら豆なんか風情がありますが、魚でいえば初ガツオの季節ですね。今年はスーパーでこれでもかと棚をとり宣伝しているもんで、つい手に取っちゃいました。今安いですよ!美味しいですよ!これまた初夏を感じるミョウガとショウガ・にんにくたっぷりで頂いちゃいました。会社にも任意組織、調理師岡田による“おかだ食堂”なる昼食会があり、高知から仕入れて振舞っていたそうです(残念ながら外出していて食べられず…涙)。

 

…と、今年はカツオが安いです。ここが今日のコラムのポイントです。市場流通だから安く新鮮なカツオが消費者まで届くのです。

豊洲市場の統計データをみると今期はカツオが豊漁で、昨年の2~3倍の出荷量となっています。4月に入り平均価格が例年並みに安定してきていますが、2月頃より鹿児島や愛媛、高知では例年より早めに水揚げが始まり、時季外れの豊漁により市場に荷が溢れ、平均価格が下落するというのも見て取れます。

資料:東京都「東京都中央卸売市場 市場統計情報」より作成

ここで、卸売市場の基本機能として、集荷分荷機能価格形成機能という役割があります。前者は、市場に荷を集約し、大量多品種を揃えることで買い手を集め、そこから多くの買い手が購入して分荷していくという役割です。後者は、卸売業者(=産地から荷を集荷する業者)と仲卸業者・買参人(実需者・消費者へ販売する業者)がせりや相対取引などで品質や市況をみて価格を決定していくという役割です。当然、市場に荷が溢れたら廃棄する訳にはいかないので、安く売るということが価格を下がる要因の一つです。

また、卸売市場には受託拒否の禁止の義務があり、出荷された商品を受け入れ拒否することができないため、必ず売らなければいけません。その義務により、漁業者は大漁であったときも、市場に出荷すれば必ず無駄にはならない、という漁業者を守るためのルールも存在しています。

ただし、荷が溢れたら価格が安くなるのは致し方ないことで、かつ漁業者からすると、消費者の手に届く際にはキロ何千円なのに、浜値(漁協≒産地市場での取引価格)がキロ何百円で、市場流通させることにより経費がかかるため、直売したほうが儲かるんじゃなかろうか、という考えにもなってしまいます。流通経費に係る統計データを紹介すると、

資料:農林水産省「食品流通段階別価格形成調査報告」(平成29年度)水産物(調査対象10品目)の小売価格に占める各流通経費の割合より作成

 

流通経費は確かに掛かります。漁業者の受取価格からみると、実に2倍以上の価格で消費者の口に入っているわけで、単純にこの図だけみれば漁業者が直接消費者に売れば、流通経費を差し引いても2倍程度の所得向上になるように見えてしまいます。しかしながら、産地から生産者に直接発送するとなると、ひと箱1,000円はざらにかかります。消費者がカツオ一本を購入するとして、割に合う価格になるでしょうか。

 

また、漁業者や漁協が直接量販店や飲食店に直売することを考えると、その日その日の注文に応えられるかどうかという問題もあります。産地による時期のずれやその日に獲れる獲れないがあるからこそ、市場には仲卸がいて、様々な産地から集まる魚を目利きし、注文に合わせて買い付けることができる訳です。まさに生鮮食品、とりわけ計画的に生産が難しい水産物の流通で卸売市場が必要な理由がここにあります。浜仲買人や仲卸業者の経費がこの金額で済むのは、スケールメリットのある物流を構築しているからであり、それが市場流通で大量に荷を扱うメリットになっています。

 

なんとなく、世の中の風潮として、卸売業は中間搾取しているだけなどと不要論があり、情報化社会の中で直売への評価や風潮が高まっている気がしています。ただ、消費者に安くて新鮮な魚を届けるためには、市場流通は不可欠なのです。

 

一方、コロナ禍において高級魚を中心としてフードレスキューの取組みや産地を応援しようという機運が高まっており、また農林水産省や水産庁も補助金として産地直送の送料負担やECサイト構築・運営等の経費の補助もあり、漁業者や漁協が直売に取り組めるためのチャンスでもあります。

 

生活様式が変わる中、このように直売に取り組むチャンスがあり、取り組みだすまでは大変でも、一度その物流・商流・システムを構築してしまえば、今後も活用することができます。今は補助があることで成り立っている部分もあると思いますが、良い魚が買えるということが分かれば、消費者も日常の購入変容にまでは至らなくとも、アフターコロナ後も“特別感”を出して、物流費をかけてでも一定の付加価値の高い魚を求めるお客さんもいるはずです。いつまでも市場流通に任せておく、それしか販路がないと嘆くのではなく、漁業者側もこれを基に変われるチャンスでもあると思っています。

 

今日のコラムで何が言いたかったかというと、要はバランスが大切なんです。漁業者や漁協は市場流通という基本的な販路をもちつつ、魚の付加価値向上・所得向上を目指すための取組みとして直売や自ら販路開拓を考えることも必要だと思っています。

 

やはり消費者にとって安くて美味しい魚が持続的に食べることが何より幸せなことだと思うし、この仕事をしているからではなく、一消費者としてそれを切に思っています。

漁業者目線でも、直売により出来るだけ手取りを増やす取組みも行う一方、表現はあまりよろしくないですが、売上を上げていくにはいかに大量にそれなりの価格で捌くのか、というところも重要なのです。取りすぎも値崩れするし、資源もなくなるし、やっぱりバランスなのです

 

次回のコラムでは、そのバランスが素晴らしい、北海道のとある村の取組みを紹介したいと思います。


主任研究員 片瀬冬樹