第35回 | 2020.05.11

ピンチをチャンスに変えるとき

5月10日は「母の日」でした。前回のコラムで花き需要の低迷について発信しましたが、そのような状況を打破すべく、日本花き振興協議会では「MAY is MOTHER‘s MONTH」として、母の「日」ではなく母の「月」とするプロジェクトを打ち出しています。

一日限りのイベントだと、お店での密集・密接につながることや、物流の集中等への考慮による施策ですが、長い期間イベントを打つことでぜひとも消費増大につながることを期待しています。

 

我が家も例にもれず、前日9日に妻の目を盗んで息子と花を買いにいきました(途中でばれていましたが笑)。カーネーションの生花と共に、ドライフラワーを購入してプレゼントしました。

 

さてこのドライフラワー、3・4月の花き需要期に販売機会を逃した花の再利用、いわゆる「ロスフラワー」対策にもなっているそうです。加工することで付加価値をつけ、さらには生産者や生花店も守れるということで、とてもよい取り組みだと思います。

販売機会を逃した生鮮品の取扱いについては、花きだけでなく青果・水産物でもニュースで多数報じられているとおり問題となっています。

 

例えば、学校給食用の野菜などは契約取引が多く、市場を通さず直接生産者と契約取引している場合は、給食が止まってしまうとその用途で生産していた野菜はとたんに売り先を失ってしまいます。東京都の江戸川区は都心でありながら小松菜の産地で、給食用に生産していた小松菜が大量廃棄することになってしまっている、という報道もありました。江戸川区ではそのような野菜を直売することで、生産者を守る取り組みもされているそうです。

契約取引の特徴は、出荷日・出荷量が確実に決まっているので通常であれば安定した取引・収入が望める一方、市場出荷と給食等業務用出荷では、出荷する際の規格や生育方法が異なるので、業務用がだめだからそのまま市場へ出荷、と簡単にいかない場合も多いのが現状です。

当然、取引先を多数抱える、あるいは市場出荷用の生産量も確保しておく、などのリスクヘッジを図れていることが理想ではありますが、現実的にそこまで手を回すことは、それなりの経営規模でないと簡単にはできないのが現実だと思います。

 

また、量販店での生鮮品の販売は青果・水産物とも好調である一方、飲食店含め業務用の生鮮品は非常に大きな影響を受けており、市内の飲食店や業務用取引に強みのある大阪市中央卸売市場(大阪本場)の水産物部では半数以上の業者の取引量が昨対50%以下になっているという報道もありました。

その市場の販売先である各飲食店も苦戦している中で、飲食店向けにインターネットによる鮮魚販売サービス「魚ぽち」等を展開している株式会社フーディソン社は、3密を避けておいしく過ごせる3つの新サービス「うおポチマルシェ」、「ドライブスルーうおポチ」、「sakana bacca TO GO」を4月下旬より展開しています。元々路面店舗の「サカナバッカ」では一般消費者向けの小売を行っていましたが、個人客向けのサービスを拡張するということで、この状況下において素晴らしいスピード感での事業展開と、社会ニーズに合わせた取り組みをされていると思います。

この状況下で上記のような取り組みを知り改めて思うこと。それは、やはり主たる事業の幹は太くなければいけないけれど、主たる事業以外にもしっかりと他事業なり、販路なり、営業チャネルなり、一つの事業・顧客に依存しないことが事業体にとっては重要であると感じています。

かの富士フィルムも事業の根幹はフィルムを作ることでしたが、時代の流れに沿って派生する技術・分野で成長し、フィルムが売れなくなっても大企業としての地位を確立し続けています。一コンサルタントとして自身を経営体になぞらえると、専門領域は確立していく必要があるけれども、それに固執せず、新たな分野にも挑戦・知識向上を図ることで、成長し続けられると思っています。

 

このような状況ではあるからこそ、ピンチをチャンスに。新たなことに挑戦するきっかけになるかもしれません。そう捉えて苦境を乗り越えられる企業や個人は必ず強くなると思っています。もちろん、現に多くの飲食店でテイクアウト販売へ切り替える然り、工夫してこの状況を乗り切るための努力をされています。

早くこの状況が収束し、「新しい生活様式」による日常が戻るのを願うばかりです。自身でも、昨年度には取り組めなかったことで、この状況下で苦しんでいる生産者・事業者のためになること、ぜひ取組んでいきたいと思います。


副主任研究員 片瀬冬樹