第46回 | 2022.06.30

もっと!直売所でオーガニック野菜を買いたい

私が暮らしている地域には、毎週土曜日の朝8時から9時までの1時間だけ開催される朝市があります。野球場が併設された公園の敷地内が会場で、地元の有志農家さんが軽トラで出店するのですが、旬の美味しい野菜を購入するために開始前からお客さんが列をつくって待ち構えているという盛況ぶりで、お母さんの指示のもとお父さんと子どもたちが手分けして買い物をする家族や、犬を連れてお散歩がてらの人、コーヒーを片手に本を読みながら列に並ぶ人など、それぞれのスタイルで野菜を買いに集っています。

盛況の理由は大きくは2つあります。1つは、近隣スーパーでの買い物では得られない商品と体験を提供していること。この朝市はオーガニックをうたっているわけではないのですが、栽培にこだわりをもった農家さんが多く、お客さんはそれぞれにお目当ての生産者さんと直接話しながら有機や無農薬も含めた野菜を鮮度よく買えることが、安心と楽しさに繋がっています。
 もう1つは、開催時間が非常に限定的であることです。1時間しか開催されず、出遅れると何も買えないという焦燥感から早めに人が集まるようになり、「行列のできる人気店」のような賑わいが創出されています。個別発送などの手間なく、持ってくれば短時間で売り切れるため、生産者にとっても負担の少ない販売場所になっています。

一方、生産者との距離が近く、スーパーであまり見かけない地域特有の野菜と出会える場所と言えば、農産物直売所です。いまや全国に約24,000箇所、総売り上げは1兆円を超える大産業(*農林水産省統計部「6次産業化総合調査報告_H30年度」による)となっていますが、独自性を打ち出して成功を収めている直売所がある一方で、設備の老朽化や人手不足、出荷者・出荷物の確保など、課題を抱える直売所も少なくないのが実状です。コンサルティング会社でありながら野菜の直売所も運営している弊社へのご相談が多い項目の一つでもあります。

そんな全国各地に展開されている農産物直売所が「オーガニック野菜が買える場所」として地域の人々に愛される未来はあり得ないでしょうか?

「生産者と消費者の距離」「地産地消」「少量多品目(規格外)」「旬の野菜」。これらは有機農産物と農産物直売所に共通する強みと言ってよい特徴です。直売所と有機農産物の親和性は非常に高いはずですが、有機栽培等による農産物の出荷先の状況を見てみると、最も多いのは「消費者への直接販売」(66.3%)であり、「道の駅等直売所」への出荷は4割にも満たない状況です。

図:有機栽培等による農産物の出荷先
「有機農業を含む環境に配慮した農産物に関する意識・意向調査結果」_農林水産省(平成28年2月)

農林水産省は昨年、「みどりの食料システム戦略」の策定により有機農業の振興へと大きく舵を切りました。中小規模で多品目を栽培する生産者が多いことや、周辺からの農薬飛散を防止する必要性などといった有機農業の特性に合わせ、生産から消費まで地域ぐるみで取組むことが有効であるとして、2030年までに全体の約1割以上(約200市町村)を目標とした「オーガニックビレッジ」の創出を支援する方針を打ち出しています。地域一丸となって有機農産物の産地化を目指すのか、地域内流通を充実させてその地域独自の生産販売体制を確立するのか、あるいは異業種との協働により既存の枠組みにとらわれない新たな体制を築くのか、様々な取組みが模索されています。新たな視点で見れば、既に地域に根付き認知されている直売所がオーガニック農産物の販売拠点として存在感を発揮していく可能性には期待ができます。

かつて有機農産物はこだわりをもったごく一部の消費者が購入するものでしたが、食の安全に対する消費者意識の高まりなどからその需要は増し、国の方針も相まって今後も継続拡大することが予想されます。一方で、野菜が安く買えるならばその方が良い、欲しい野菜が必要な量、安定的に購入できないと困るという需要が消えることもないでしょう。重要なのは、自分の価値基準で「選択できること」であり、それぞれに適した流通販売経路が存在する事ではないでしょうか。これは購入者側の視点だけではなく、生産者側にも当てはまります。これまで市場出荷するか、個人で独自の販売網を開拓するかしかなかった生産者に対し、例えば直売所がオーガニック野菜の販売を請負うことで消費者と生産者の窓口となれれば、栽培だけで手いっぱいの有機農業者の課題解決の一助となり、地域農業の活性化に繋がることが期待できます。

先述の朝市も、開催時間の短さや並んでも買えないリスクを嫌って行かないという人も当然のことながらたくさんいます。ただそれを楽しんで集まってくる人たちもいて、そこで売りたい生産者が出店しています。もし特徴を打ち出せずに運営に悩んでいる農産物直売所があれば、地域での存在意義を発揮していく新しい機会と捉え、「オーガニック野菜が買える直売所」を打ち出してみてはいかがでしょうか?
 その日に売り場に並べられている野菜を塩とオイルだけでシンプルに食べるのが一番のご馳走だと感じる素朴な有機野菜ファンとして、豊かな地域づくりをぜひお手伝いさせていただきます。


副主任研究員 後藤 恵