第15回 | 2017.10.30

がんばれ!漁業協同組合

今回は、漁業協同組合の経営改善に向けた現状、課題、方向性を考察します。これまで、いくつかの漁業協同組合で、経営改善や多角化に向けたコンサルティングを行ってきました。自分がかかわった組合は、20数件と限られているため、当てはまらない状況も多くあります。ケースとして、現状、課題、方向性を考察します。

第1に、水揚げ、組合員が減少する中、水揚げ港、市場の数、事務所の数、人員体制といった経営資源の投下量は変更せず、又は、変更したとしても、水揚げ、組合員の減少幅に比べると投下する経営資源の減少幅はさほどでもない状態で、事業を継続している状況があります。この背景には、組合員の利便性を継続して確保することがあります。しかし、こうした状況を放置することは、市場が適正な魚価を付けられなくなりますし、港・支所・市場をどう集約するのかの意思決定をしないままの曖昧な追加投資につながりかねません。そして、こうした結果は、組合員全体の利益にマイナスの影響を与えることになります。

第2に、直売や観光事業等、新たな事業に取り組もうとしていますが、新たな事業の着手、発展に必要な体制を確保しにくく、収益の柱に成長させられていない状況があります。

以上は、第1が原因、第2が結果という関係で関連します。縮小、廃止する事業、拠点を明らかにし、集中投資する港・市場・支所・出張所を明らかにする。そして、第2の問題である新たな事業にどれだけ経営資源を投下するのかを検討し、意思決定し、スケジュールに落として物事を進める必要があります。第1と第2は一体的に検討し、一体的に進める必要があります。大半の組合は大企業ではありません。何を縮小、廃止すべきかの決定と実行無くして、新たなチャレンジは困難です。

しかし、第1の問題を検討し、理解を得ることは困難を伴います。水揚げ港・市場・支所・出張所が遠くなることは、誰も望みません。どこまで集約するかについては難しい判断が付きまといます。この問題については、港・市場・支所・出張所別に、利用の現状を整理し、将来を予測し、集約の方向性、集約による効果、集約に伴う組合員への影響とその対応を検討し、計画し、組合員に理解を求めます。集約は、必ずしも、水揚げ港を閉鎖するといった対策だけではありません。いつまで不採算部門・拠点を維持できるかは、組合収支を考慮する必要がありますが、例えば、水揚げの時間帯を決めて組合が陸送する等の方法により、市場・事務所機能を閉じる一方、水揚げ港としての役割は継続する例もあります。こうした経過的、試験的な取り組みを行いつつ、段階的に集約を進め、縮小、廃止する拠点、事業を明らかにし、経費を削減し、人員を生み出し、集約する拠点や第2の問題への対応にチャレンジに経営資源をシフトすることが必要です。

第2の問題である新規事業については、水揚げ港としての役目を終えた港を活用した観光事業や消費者への直売事業、市場外流通事業等の取組みが見られます。これらの事業は、取り組む内容により、さまざまなポイントがありますし、漁業権、水産物、海の自然環境といった他の事業者では手に入れることが困難な物的資源を持つ組合には、大きな可能性がありますが、ここでの記載は差し控えます。いずれにせよ、新たな事業を経営の柱とするのは、一定期間を要しますし、リスクを伴います。重要なことは、第1の取組みによって生み出した人員を投下すること、節減した経費を新規事業が収益の柱に育つまでのリスクに当て込むこと、そうした方針について、組合員の理解を得ることです。

拠点を集約することはマイナスではありません。集約により、価格を形成できるようになり、組合員の利益に貢献している例はあります。人も金も、可能性のある新規の事業に振り分けることができます。こうした英断を行うことによって、新たな漁業者を受け入れる経営基盤を確保していく必要があります。


村上 充 常務取締役