第26回 | 2018.06.22

いかに地域課題を捉えるか、いかに労働力を確保するか

前回のコラムを受ける訳ではないが、世間で話題になっている「働き方改革」を切り口に今回は話を進めたいと思う。「働き方改革」の背景となる課題は大きく3つだと言われている。

私自身①、③は身に覚えが多々あるし、弊社においても②は新規雇用者の獲得の際に実感するところである。翻って、農業においてもこの3つの課題が当てはまると感じる方も多いのではないだろうか。昨年度、まさにこの3つの課題に関連した業務を行った。今回はそのうち②についてトピックを少し紹介したいと思う。

■10年後の地域の姿の見える化
まずこのグラフを見て頂きたい。

グラフ:高齢者率と18歳未満同居率

 

これは横軸に高齢化率、縦軸に18歳未満同居世帯率にし、字別にプロットしたものである。赤線の交点がその自治体の平均値となっている。その平均値を基準に字別の状況が4つのグループに大別される。その4つのグループの特徴は以下のように推測される。

このように一つの自治体においても地区ごとにその状況は様々であり、一概に少子高齢化を問題視しても解決の糸口は掴めず、上記のグラフは地区ごとの状況を見える化する有効なツールと言える。

■地域課題に対する対応策
農村地区はこの4つのグループのうち、右上、右下のグループに位置することが多いと推測される。
右上のグループの場合、3世代居住が多いことから、現状は地域の維持についての課題は見られないが、今後10年以内に孫の世代が大学進学、就職などによって地区外に移る可能性がある。その際に、地域の維持、農業に係わる人材不足という課題が発生し、次世代が地区に住み続ける取組みが必要となる。具体的には、実家の農業に係わらせるということが重要となる。次世代が地区に住み農業に係わっていくためには農業を稼げる産業にするということである。農業の場合、生産者ごとに生産品目の組み合わせ、商品の品質、販路がバラバラな場合が多く、地区でまとまって農業経営を進めることが難しい現状があるが、これからのことを考えると、一定のグループで戦略的に生産品目を定め、栽培方法、形態、品質を統一化し、産地化する取組みが重要になる。また、子育て世代がグループをつくり、協力しながら子育てを進めることで、女性が働く時間を確保し、農業に係わって貰うという取組みも考えられる(実際にそのような動きが進んでいる事例も見られる)。

右下のグループの場合、農業に係わる人材不足が深刻な状況にあり、農地の維持自体が難しい状況がある(さらには地域の維持自体が難しくなる)。このような地区の場合は、外から就農者を集めてくる必要がある。地区に存在する空き家を新規就農者の住まいとして提供し、農業研修などのカリキュラムを組み、生産に係るノウハウ、農業経営の知識を習得してもらい、新規就農者として定住して貰うという考え方である。また、外から入ってくる人材はこれまでのキャリアによる農業とは別のスキルを持っており、半農半○に取組むことで家計を安定化させる取組みも考えられる(明治大学小田切教授の著書「農村は消滅しない」を参考願いたい)。私の前回のコラム(第13回|https://www.ryutsu-kenkyusho.co.jp/ryuken_report/地域産業活性化におけるコーディネーターの必要/)でも触れたが、「地域おこし協力隊」を利用して地域で活動したいと思う人材も増えており、この事業の活用も有効な手段である。

■JAによる労働力の確保の取組み
最後に、JAにしうわ(愛媛県八幡浜市)による労働力確保の取組みを紹介したい。ご存知の通り愛媛みかんの産地であり繁忙期の労働力の確保、担い手の確保などが大きな課題となっている。そこで、JAが中心となって以下の取組みを進めている。

紙面の都合があり、少しだけ具体的な内容を紹介する。①は大阪、京都からアルバイトを募集し、農家にホームステイして、繁忙委期の40日間程度を雇用するシステムである。毎年リピーターと新規雇用が半数程度で、短期の労働力の確保につながっている。また、愛媛(みかん)→沖縄(さとうきび)→北海道(じゃがいも、たまねぎ)→長野(高原野菜)の移動バイターのゴールデンロードを構築し、他産地とのワークシェアを実現している。②は、若手の生産者、地域活性化支援のグループと松山市の結婚相談所が組み、松山市でワーカーを募集し、登録した生産者のところに有償ボランティアとして送り込んでいる。結婚相談所が松山市周辺の企業、団体へのCSRとして提案したり、宿泊先、シャトルバスの運行の手配を行っている。興味深いのは、参加したワーカーに八幡浜市内の飲食店で使用できるクーポンを配り、市内事業者の誘客にも一役買っている点である。

農業を産業として成り立たせるためには稼げる産業にすることは当たり前のことであり、各地で様々な取組が進んでいる。今回は「労働力の確保」に焦点を当てた内容としたが、これからも稼げる産業とするための取組みについても本コラムで紹介し、生産者や行政の役に立つ情報を発信していきたい。

 

 

 


主任研究員 松谷 宏之