第11回 | 2017.06.26

道の駅事業の推進に向けて⑤
〜道の駅の管理運営体制について考える〜

2003年、地方自治法の一部改正に伴い指定管理者制度が導入されてから、市町村が整備する道の駅の管理運営方法は、それまでの第3セクター方式に加え、民間事業者を全国公募で選定する方式などがみられるようになった。今のところ、民間事業者による管理運営方式を採用する事例は、全国の道の駅の1割にも満たないが、今後は増加するものと考えられる。どちらの方式を採用するかについては、道の駅の立地や規模、道の駅を整備する目的や市町村の政策によるところが大きい。

先ずは、民間事業者による管理運営方式について述べておく。民間事業者を指定管理者とする市町村側のメリットとしては、民間事業者のノウハウにより、高度な商品・サービスの提供が期待できること、施設の管理運営にかかわる持ち出し経費や事務作業の手間が軽減できることなどがあげられよう。特に、市町村は、民間事業者に管理運営を担ってもらうことによって、施設整備後の管理費などの財政負担が軽くなる(あるいはなくなる)ことを期待していると思う。

市町村と指定管理者との協定内容によるが、一般に、収益施設については指定管理者が市町村へ施設使用料を支払い、公益施設については市町村が指定管理者へ管理委託料を支払うルールになっている。第3セクター方式を採用する事例では、第3セクターは施設使用料を支払わず、年間1,000~2,000万円の管理委託料を第3セクターがもらう例が大半である。しかし、民間事業者を指定管理者とする場合、収益部門の事業収益をもって、公益施設の管理を賄うという独立採算運営とする事例が多い(施設利用料=管理委託料)。また、優良事例においては、管理委託料はもらわずに、施設利用料を市町村に支払っている例も見られる。

次に、この方式が成立するための要件について整理しておく。その要件としては、一言でいえば、民間事業者が、その道の駅の管理運営事業に取り組んで儲かるかどうかである。PFI事業と同様、儲かる施設でなければ、市町村が全国公募をしたところで、民間事業者が手をあげることはない。商圏人口が少なく施設の規模が小さいなどの理由から相応の売上が期待できない道の駅、公園や情報発信など非収益施設が大きく管理の手間や経費がかかる道の駅など、採算性が期待できない場合は、この方式は成立しない。採算性は期待できないが、民間企業に管理運営を担って欲しいと考えるのであれば、赤字補てんのための管理委託料を、市町村が民間事業者に毎年支払い続けることが要件となる。

以下に、独立採算運営を前提とした場合、民間事業者が道の駅の指定管理者として手をあげるかどうかの、判断基準の目安を整理しておく。


①面前道路の昼間交通量が10,000台以上であること。

②半径10㎞以内の商圏人口が10万人を超えること。

③普通車の駐車場台数は、150台以上であること。

④施設の規模は、2,000㎡以上であること。

⑤そのうち、物販施設の床面積は売場だけで500㎡以上であること。

⑥そのうち、飲食施設は100席程度の規模とすること。

⑦収益を生まない公園や情報発信施設などは極力規模を縮小すること。

⑧ハード面の初期投資(什器・備品などの購入経費)は、3,000万円以下であること。

⑨農産物などの販売委託手数料は、15%などと指定しないこと。

⑩地場産品比率、地域での雇用比率など足かせは極力減らすこと。

⑪物販・軽食などのテナント運営はさせず、全て指定管理者の直営とすること。

⑫地域のJAや商工会などの政治的な介入がないこと。


細かい点をあげれば切りがないが、民間事業者が道の駅の管理運営を行って、儲かるかどうかを基準に考えればよい。年間売上高が10億円以上、事業収益は契約期間の5年以内で初期投資を回収できる金額(3,000万円以上)というのが民間事業者にとっての、一つの収支目標と考えられる。しかし、道の駅の目的は、地域活性化であり、民間事業者に儲けさせるために整備するのではない。募集要件の設定にあたっては、収益性と公益性を併せ持つ施設としての性格を踏まえ、民間事業者に手をあげてもらうための「さじ加減」が必要となろう。

指定管理者となる民間事業者の募集方法では、地域に限定した公募と全国公募が考えられる。前者は地域密着型の事業者による運営が期待できるし、後者はノウハウが高い優良事業者による運営が期待できる。個人的には、後者の方式を採用するべきであると考える。その理由は、前者の場合、指定管理者という利権を争って、地域で政治的な動きが暗躍し、事業者連合間の競争が起こり、地域が分裂するような事態を招きやすいからだ。地域連携による活性化という当初の趣旨から逸脱し、道の駅が政治の道具になる可能性がある。ちなみに、地域の建設会社や商工業者が連合して事業主体となるPFI事業においても、同様の危険性が存在する。

最後に、公募の時期について触れておく。公募・内定の時期は、施設の実施設計の着手前が最適である。民間事業者が自ら管理運営することになる施設の、実施設計の協議に参加してもらい、最適な施設整備を実現することが最も合理的である。前回のコラムでも述べたように、本来飲食施設の厨房設計などは、オペレーション方式やメニューなどが決まらないと、決めることはできない。実施設計の時期に間に合わない場合でも、遅くとも開業の1年前には内定者を決める必要がある。民間事業者にとっては、1年程度は開業準備期間が必要であるし、建設現場に立ち会って軽微な修正要望なども出したいところである。

個人的には、全国公募で民間事業者を指定管理者に選定する方式は、必ずしも反対ではない。やり方によっては、地域に新しい風を吹き込むことが出来るし、地域にはない高度な運営ノウハウを活用することができる。その結果、売上が拡大すれば、地域農産物の生産・出荷も拡大するし、地域雇用の拡大や、さらには地域人材の育成などにもつながる。公益性と収益性を見据えつつ、応募してきた事業者の中から、地域にとって最適なパートナーを選ぶことが肝要である。

さて、次は、従来型の第3セクター方式について述べる。先に示したような、民間事業者が手をあげる条件を満たせない道の駅は、ほぼ自動的に第3セクター方式を選択することになる。中山間地域の立地であまり利用者が期待できない施設、小規模な施設の指定管理者が第3セクターである理由はここにある。その一方で、商圏人口や施設規模にかかわらず、政策的に、第3セクター方式を選択することも十分考えられる。

道の駅の管理運営を担う第3セクターは、「まちづくり会社」、あるいは近年はやり言葉になっている「地域商社」としての機能・役割を持つ必要があると考える。市町村は、地域の産業振興を進めることが役割であるが、収益事業は出来ない。そこで、市町村の機能を補完し、収益事業を基軸に地域の産業振興を図ることが「まちづくり会社」の役割になる。また、「まちづくり会社」には、新規作物導入や特産品開発、ブランド化や外販、交流客誘致など、道の駅を拠点とした様々な取組みに期待したい。さらに、産業振興だけでなく、子育て支援や高齢者福祉なども「まちづくり会社」の事業領域となろう。

次に、第3セクターを設立する上でのいくつかのポイントをあげておく。先ずは、組織形態であるが、結論を言えば株式会社が最適である。それ以外の組織形態としては、一般社団法人や財団法人などが考えられるが、道の駅の管理運営を担う第3セクターは、収益をあげることが経営の基本であることから、収益事業に制限が設けられている公益法人は事業趣旨に合わないと言えよう。

次に、資本金額についてであるが、「開業までの経費(備品購入費、開業前に雇用する要員の人件費など)+概ね3か月間の運転資金」が目安になる。収支計画の内容にもよるが、5,000万円程度は欲しいところである。ちなみに、仮に将来金融機関からの融資を受けるような場合は(ほとんどないが)、保証協会からの保証を受けられる企業の条件をクリアするために、資本金は5,000万円以下としなければならない。

出資団体は、市町村に加え、JA、JF、森林組合、商工会及び地域金融機関など、地域の公的団体に限定した方がよい。地域の企業や住民などから出資を受けてしまうと、それらの者が株主として権利を乱用し、利益誘導を図ろうとして、経営自体が不安定になる危険性がある。また、出資割合を先に考えるのではなく、必要となる資本金額を市町村が拠出し、その金額を示した上で、公的団体に可能な範囲で資金提供してもらうという考え方が必要である。民主導の体裁をつくろうとして、市町村の出資割合を50%未満に設定して他の団体の出資を仰いでも、資本金額も出資割合も決まる訳がない。第3セクター方式を選択する以上、あくまで市町村が腹をくくって資金を出し、地域団体には協力を要請するという姿勢が重要である。

役員についても、資本金と同様の考え方が重要で、市町村長が社長になることが順当であろう。そして、充て職であっても各団体の長に取締役の就任を要請し、地域の団体が連携して経営にあたるという体制づくりをめざすべきである。その方が、地域団体や住民の理解が得られやすいし、第3セクターの経営も安定する。

一方で、経営・運営の専門家を駅長として招聘するべきであろう。加えて、物販部門の店長や飲食部門の調理長などの中核的人材は、実務経験豊かで経営感覚を持つ人材を確保しなければならない。これら中核的な人材の人件費は、本来第3セクターの資本金から支払わなくてはならないが、開業までは第3セクターの収入はないことから、資本金はすぐに底をついてしまうことになる。そこで、先ずは市町村の任期付き職員として採用して市町村が給与を支払い、道の駅開業と同時に第3セクターへ籍を移すという手法をとっている事例が多い。

第3セクターであっても、赤字運営は許されない。株式会社である以上、綿密な事業計画のもと、厳格な経営を行い、黒字経営をめざすことは当然である。しかし、黒字か赤字かだけが第3セクターの成否を決める基準ではない。会社経営である以上、一貫して黒字経営を実現することは至難の業であるし、一般的にどんな会社でも、開業から2~3年はノウハウ不足などの理由から赤字経営を強いられることが多い。それよりは、地域の産業振興や地域雇用、あるいは住民福祉にどれだけ貢献しているか、あるいは6次産業化や地産池消などの地域の取組課題に対し、確実な成果をあげているかなどを評価基準とするべきだろう。

本日は、道の駅の管理運営体制について、民間事業者方式と第3セクター方式のポイントについて述べた。それぞれメリット・デメリットがあり、市町村によって捉え方も異なると思う。近年は、民間に任せられるものは民間に任せる、財政支出、特に後年度負担は極力抑えるという行政方針から、前者の方式を検討する市町村が多いようだ。ただし、「時代性を踏まえ民間事業者方式で行く」などと、安易に決め付けることは避けて頂きたい。地域活性化という道の駅の目的を踏まえ、地域の現状・課題やめざす将来像などを検証しながら、しっかりした議論を重ね、間違いのない結論を出して欲しいと思う。