第9回 | 2017.06.12

道の駅事業の推進に向けて③
〜道の駅の整備財源と整備手法について考える〜

かつて道の駅は、その公益的な事業目的を鑑み、市町村が自主財源と国の補助金などを活用して整備することが当たり前であった。しかし近年は、PFI(Private Finance Initiative)やPPP(Public Private Partnership)など、市町村が直接整備を行わず、民間資本を利用して施設整備や施設運営を行う手法を検討する事例が多い。市町村の財政環境が厳しさを増す中で、国も後押しをしている民間資本の活用手法を検討することは当然のように思えるが、果たしてこうした整備手法が道の駅の事業趣旨や目的に合うのか疑問を抱く。

公設の場合、市町村は、極力自主財源の拠出を抑える努力が求められる。そのための方法としては先ず、市町村単独型ではなく、国土交通省との一体型整備を考えたい。単独型では、用地の取得・造成、駐車場やトイレ、振興施設の整備に至るまで、全て市町村が財源を負担しなければならい。一方、一体型では、道路利用者の便益のための用地や駐車場・トイレ、及び交通情報などの情報発信施設の整備については国交省が負担し、地域振興に資する領域は市町村が負担するルールになっている。

次に、国の補助金の活用であるが、現在道の駅事業のために活用できるものとしては、農林水産省の「農山漁村活性化プロジェクト支援交付金」と、国交省の「社会資本整備総合交付金」の2つが有望であると考える。前者は、農林水産業の振興を目的とした交付金であることから、農林水産物の直売施設や加工施設、食材供給のための飲食施設などが対象となる。後者は、公益的機能の充実を目的としたものであることから、物販・加工・飲食などの収益性が高い施設は対象外で、情報発信施設や研修室などが対象となる。2つの交付金を併せて活用することは出来ず、それぞれ細かな要件が存在し、対象となる施設は厳格な区分が求められる。整備目的や施設の機能、設計内容によって、どちらが有利かわからないので、要綱・要件をにらみながら比較検討することをおすすめする。

続いて、PFIによる整備手法についてポイントを述べる。1997年にPFI法が施行されて以来、日本でも欧米同様、教育・文化施設などを中心に、この手法を導入した公共施設の整備が行われている。道の駅についても導入する事例が出てきたが、現在のところまだ5~6件に過ぎない。PFIにはいくつかの事業方式があるが、道の駅の場合、BTОと言われる方式が採用される。BTОとは、民間事業者が建物を建設し、完成と同時にその所有権を市町村に移行して、市町村は複数年に渡り(概ね15年)民間事業者に整備費を分割払いする方法である。言わば、住宅ローンのようなもので、市町村にとっては単年度で整備費を拠出するという負担がなくなり、財政的なメリットが生まれる。

しかし、ここで留意しなければならないのは、SPC(特別目的会社)という名の複数の企業による構成されるPFI事業者が、契約期間中は、整備した施設の管理・運営まで担うルールになっていることだ。PFI事業者が建設して(Build)、権利を移行して(Transfer)、施設を運営する(Operate)という事業方式の意味がここにある。建設だけ民間事業者に任せて、管理・運営は第3セクターで行うということは出来ない。

PFI方式導入の判断基準の一つとして、VFM(Value For Money)と言われるものがある。平たく言えば、PFI方式を導入することにより、市町村が整備する公設方式と比較して、どれだけコスト削減につながるかという意味で、その削減率を20%、30%などと算定する。公共仕様だと建設単価は高くなる傾向にあり、民間仕様を採用することで単価が抑制出来るというものだ。その数値を持ってPFI事業の良さをPRするような風潮が見られるが、民間企業にとってVFMを出すことなどは簡単なことである。必要に応じて建築物のグレードを落とせばよいだけの話だ。ちなみに、PFI方式で建設したある道の駅は、極めてお粗末な建物であり、VFMが出て当たり前の建築内容である。市町村の顔となる道の駅が、軽量鉄骨づくりのバラックのような建物でよいのか疑問が残る。

ではなぜ、民間事業者はPFIによる道の駅事業をやろうと思うのか。それは、儲かるからである。利益追求が社会的使命である民間事業者にとって当たり前のことであろう。では、どうやって儲けるのか。SPCは、主として地域の建設会社や設計会社及び小売店や飲食店などにより構成される。先ずは、土木・建設工事で儲ける。工事にあたっては金融機関から融資を受けることになるが、貸し倒れのリスクが全くない市町村が金利を含めて毎年確実に返済してくれるのだから、金融機関も大喜びで資金を貸し付けてくれる。次に、施設の管理運営で儲ける。SPCに参加した小売店や飲食店は、道の駅という金看板を掲げながら、比較的安いテナント料で、長期間に渡り商売が出来るという特権を得る訳である。

道の駅におけるPFI導入の可能性や要件についても触れておく。端的に言えば、民間事業者が、土木・建築工事だけでなく、施設の管理・運営でも儲かるかどうかが導入可能性の可否を決める。道の駅の損益分岐点売上高は5億円程度であると考えられるが、これ以上の売上が見込める商圏があることが一つ目の条件と言えよう。次に、相応の利益率が見込める運営が出来ることが二つ目の条件となる。例えば市町村との協定の中で、販売商品の地場産品比率が70%以上、農産物の販売委託手数料は15%などと規定されると、民間事業者の収支は非常に厳しくなる。民間事業者は利益を上げるために、粗利30%以上で比較的高単価な仕入品をたくさん売りたいのである。多くの売上が期待できない、または市町村が過度な足かせをはめるような場合は、トイレなど公益施設の管理にかかわる相応の委託料を市町村が支払うなど、民間事業者に有利な条件を示さないとPFI事業は成立しない。

PFIは、道の駅事業にそぐわないと言うのが私の持論である。道の駅事業の目的は、農業振興や交流促進による地域活性化であるが、PFI事業者の目的はあくまで利益の追求である。両社は必ずしも相反しないが、利益追求は公益性を損ねる結果となり、事業目的から乖離する傾向にある。また、15年間にもわたり、特定の事業者に管理運営するという特権を与えることは、事業者の専横や地域との軋轢など、様々な問題を引き起こす温床となる。さらには、特定の事業者を潤すために、市町村は道の駅事業を行ったのかという批判も噴出する可能性もあろう。

ちなみにPPPについては様々なパターンがあり、道の駅としての事例もないことから(検討・計画中の案件はある)、今後の研究テーマである。イメージとして、用地の確保や開発は市町村、公益部門の造成・建築は市町村、収益部門の造成・建築は民間事業者、収益部門の所有と管理・運営も民間事業者などと言った事業スキームが考えられる。官民一体になった取組みと言えば聞こえはよいが、その本質は、民間のスーパーマーケットの新規出店を、道の駅という公共的な名目で、農地転用や開発行為を市町村が手助けするだけであるとも言えよう。

道の駅の整備財源や整備手法を検討する上で、PFIやPPPなどの手法を調査・研究することは必要だと思う。しかし、民間活力の導入というもっともらしい理屈を盾に、最初から民間事業者による整備・運営ありきで考えるのであれば、道の駅事業などやらない方がよい。道の駅事業は、地域活性化を目的とした市町村の重点政策であり、首長と議員、職員が、腹をくくって取り組まなければ成功しない。他力本願で成し遂げられるような甘い事業ではないことを、関係者の方々は肝に銘じて頂きたい。