第10回 | 2017.06.19

道の駅事業の推進に向けて④
〜道の駅の設計方針について考える〜

道の駅を整備する立地や用地が決まり、おおむねの規模や機能などを決める基本構想を策定した後には、基本設計及び実施設計に取り組むことになる。全国の道の駅を見ると、意匠や構造、利用する建材などの面で、特徴的で工夫を凝らした設計内容となっている。こうした業務を請け負う設計会社にとって、道の駅の設計は、その能力を十分に発揮できる、まさに冥利尽きる仕事であろう。私は、2級建築士の資格しか持っていないが、これまで数多くの設計支援に携わる中で、道の駅の設計上のポイントがわかってきた。本日は、道の駅シリーズの第3弾として、道の駅の設計方針についてコメントしてみたい。

(駐車場の配置について)
先ずは、施設の配置計画上のポイントついて述べる。道の駅は、駐車場、トイレ・情報発信などの休憩施設、直売・飲食などの振興施設の3点セットで構成される。基本的な配置は、国道側に駐車場、その奥に休憩施設・地域振興施設となる。立地条件や方位、風向きなどの気象条件によっては、道路側に施設、その奥に駐車場という配置の方が適切な場合もあろうが、国交省との一体型の場合、この配置はタブーである。なぜなら、駐車場は国交省にとっては「顔」になる施設であり、これが建物に隠れて見えないような配置は国交省のプライドが許さないからである。

(休憩施設の配置について)
また、トイレ・情報発信などの休憩施設についても、駐車場と同様の論理で、敷地の端ではなく、利用者にとって最も利用しやすい場所に配置する必要がある。休憩施設は、24時間利用可能が原則であるため、以前は防犯対策などに考慮し、独立棟として整備するケースが多かった。しかし、近年は、利用者の利便性や管理運営効率をあげるため、振興施設と一体的に整備するケースが増えている。夜間はシャッターを降ろすなどの防犯対策を講じれば管理上の問題はないし、図面上のアロケーションにより、国交省と市町村の整備費用の負担も明確に出来る。

(基本構造について)
次に、基本的な施設構造についての意見を述べてみたい。道の駅は地域の顔となる施設であることから、地域の森林資源をふんだんに活用した木造建築を志向する傾向が強いが、個人的にはあまり賛成できない。なぜなら、木造の場合、構造計算上、6~8mぐらいのピッチで柱を何本も立てる必要があるからだ。梁や桁に集成材を活用したり、補強策を講じたりしてピッチの間隔を長くすることも可能であるが、木造では所詮限界がある。ではなぜ、施設の中に木の柱が何本も立っていてはならないのか。それは、道の駅は商業施設としての性格が強いからだ。柱があればあるほど、利用者動線・作業動線が分断され、デッドスペースを産み出し、売上効率は落ちる。木造づくりで何本も柱が立っているスーパーやファミリーレストランがあるだろうか。そのような商業施設は現実的に存在しない。木造は、利用者にも管理者にも使い勝手が悪く、売上効率・管理効率を悪化させることになる。したがって、道の駅の基本構造は、木造ではなく、長いスパンによる建築が可能な鉄骨構造が望ましいと私は考える。鉄骨構造であっても、内装・外装や陳列什器などの材料として地域木材を活用すれば、木の温かみが伝わる地域らしい施設にすることは十分可能である。

(施設の階数について)
特殊な場合を除き、1階平屋建てが原則である。階段やエレベーターで2階にあがるような構造は、利用者の利用機会を著しく減少させ、管理運営効率を悪化させる。眺望をウリにしようと2階にレストランを配置した道の駅の事例も見られるが、ことごとく運営に失敗している。立地条件などから、どうしても2階建てにせざるをえない場合は、2階には研修室や職員の更衣・休憩室、事務室などの非収益施設を整備し、収益施設はすべて1階に配置するよう工夫するべきであろう。

(施設の一体的な配置について)
「田園プラザ川場」のように、道の駅の敷地が広大で、道の駅全体が観光客向けの公園としての機能を発揮しているような特殊な事例を除き、各施設は分散配置ではなく、一体的に配置することが望ましい。分散配置は、利用者にとっては魅力的に思えるが、かえって購買機会を減少させることに加え、管理運営効率を著しく低下させる。雨の日も、風の日も、猛暑の日も、極寒の日もある中で、それぞれの施設を回って商品を購入する利用者は少ない。また、分散配置の場合、利用者がいてもいなくても、接客要員を各施設に張り付ける必要があることから、管理運営コストは増加することになる。

(大屋根構造について)
設計上の面白みには欠けようが、本来は大屋根の下に、トイレ・休憩施設に加え、物販・飲食・軽食などの収益施設はもとより、事務・倉庫などの管理施設を含め、全ての施設が配置されることが望ましい。道の駅によっては、農産物の直売施設と、土産品・工芸品などの販売施設が別棟になり、レジも分散されているような事例も見られる。しかし、その運営実態を分析すると、販売施設は大赤字になっているなど、設計が悪いゆえに解決できない運営上の課題に直面している。また、物販・飲食施設では、一部テナント出店方式をとるケースもあろうが、その場合もやはり大屋根の下で、売場を区分し、直営部門との一体的な配置とした方が、利用者動線が円滑になり両社の相乗効果は高まる。

(人件費抑制策について)
収益施設・公益施設を問わず、施設の管理運営では、固定費となる人件費をいかに抑えるかが大きなポイントになる。人件費を抑えるためには、管理運営に要する人員数を減らすこと、並びに一人あたりの作業時間を短縮させることが必要である。したがって、要員が分散配置ではなく集中配置できるような設計にすること、作業動線がなるべく短くなるような設計にすることなどがプラン策定上の留意点になる。具体的には、物販コーナーにおけるレジの一元化、飲食・軽食コーナーの厨房の一体化、情報発信コーナーの案内業務と一般事務業務の兼務化、さらには、商品・食材の搬入・保管・搬出動線の短絡化などキーワードになる。

(バックヤードについて)
細かな話になるが、軽視されがちな物販施設のバックヤードの設計についても述べておきたい。農産物や加工品などを販売するためには、十分なバックヤードの面積と作業内容に配慮した設計が必要である。搬入口については、施設の外側にコンクリートを打ち、その上には屋根を配置することをお勧めする。軽トラが3台程度は止まれて、雨の日でも商品が濡れることなく商品が搬入できるよう工夫する。少しでも段差があると台車が通れないことから、出入口部分の高低差はなくす。農産物や要冷蔵品の補完などに必要不可欠な施設として、少なくも20㎡以上のプレハブ冷蔵庫を設置する。また、商品のパッケージ、値付け、カット作業などのために、十分な広さの作業台(理想的には10㎡程度)を設置する。その他、段ボールなどのごみ置き場の設置や、バーコードラベラー発券作業のためのスペース確保などにも留意されたい。このように考えると、室内外を含め、バックヤードスペースの面積は、50㎡程度は必要になろう。物販部門の商品は、出荷者が自らパッケージし売れ残りはその都度引き取るという委託販売品だけでなく、仕入品も非常に多い。スーパーなどでの職務経験者であれば、誰でも分かるような簡単な話であるが、このあたりの作業内容を無視して設計されている道の駅が実に多い。

(飲食・軽食の厨房について)
飲食・軽食共にオペレーションの方式や提供するメニュー・商品によって、導入すべき厨房機器や厨房のレイアウトは異なってくる。利用者が集中する昼時の回転率が成否を決める道の駅の飲食・軽食施設は、券売機で券を購入してもらって、料理などが出来た時点で利用者の番号をコールするフードコート方式や、丸亀製麺のようにトレーに好きな皿を載せてもらい、その内容に従い清算するという「イケヤ方式」などが採用されるケースが多いが、こうした運営方法によって厨房の什器・機器の配置は異なる。また、麺類、揚げ物類、パン・ピザなど、メニューによっては導入する厨房機器は異なるし、団体用の弁当などをつくる場合は、広いコールドテーブルなども必要になる。このように、飲食・軽食の運営計画が決まらないと、厨房の設計は出来ない点に留意する必要がある。なお、厨房機器専門メーカーでないと厨房の設計は困難なことから、予めこうしたメーカーと連携して臨むことが肝要である。

(陳列什器などのレイアウトについて)
設計を進める上で、物販施設の陳列什器やPOSレジ、飲食施設の椅子・テーブルやレジまたは食券機などのレイアウト計画は、運営計画と併せてなるべく厳格に行う必要がある。特に、主通路・副通路の幅、陳列什器の種類・規格、テーブルのサイズなどを検討した上でレイアウトを作成しないと、什器などを入れる段階で、十分な通路幅がとれないなど各種の問題が生じることになる。本来は設計会社に、什器メーカーと連携して厳密なレイアウト作成までの業務を担わせたいのであるが、公共建築の場合、設計と什器は別発注で、設計が終わった後に、什器の選定・購入が行われることから、ミスマッチを招きやすい状況にある。

他にも、道の駅の設計について留意すべき点をあげれば切りがない。留意点として共通的に言えることは、デザイン先行、設計士の思い先行の設計であってはならず、あくまでも、利用者視点、管理運営者視点で、利用シーン・作業シーンを想定した設計内容とすることである。しかし、管理運営は専門外である設計会社に、ここまでのレベルを求めることは難しいであろう。そこで、多少委託費を上乗せしてでも、道の駅の設計にあたっては、管理運営の専門家やコンサルタントなど招聘し、アドバイスを受けることをお勧めする。