第8回 | 2017.06.06

道の駅事業の推進に向けて②
〜道の駅の商圏・立地について考える〜

道の駅は、利用者の状況から、「地域型」と「観光地型」に区分できる。道路利用者の休憩ニーズへの対応という整備目的があることから、道の駅のメインターゲットは、日常面前道路を利用するドライバーであると考える方が多いと思うが、それは正解とは言えない。確かに、トイレ休憩や自動販売機の利用などを目的に、道の駅に立ち寄るドライバーは多いが、道の駅で金を落としてくれるのは、半径10㎞圏内の地域住民か、道の駅を目的に訪れる観光客である。

道の駅の利用者予測は、とても難しい。スーパーマーケットやコンビニエンスストアのように、商圏設定のための方程式が確立していないためだ。全国の道の駅を分析すると、その立地条件や施設の規模・機能、商品やサービス内容、周辺人口などは様々で、利用者数・売上高と整備立地などとの相関関係を統計的に分析すること自体が困難な状況にある。したがって、緩やかな相関関係があると考えられる、面前道路の交通量を基本に利用者数や売上予測を行うケースがほとんどである。

流通研究所においても、新たな道の駅の整備計画立案にあたっては、近隣の道の駅の調査・分析などを行い、その結果を持って利用者数や売上予測を行ってきたが、未だにこの難解な方程式を解くことは出来ていない。しかし、市町村が事業化するにあたっては、拠って立つ数字は必要不可欠である。そこで、事例調査などを踏まえ、面前道路交通量や地域の商圏人口、規模・機能・商品・サービスなどの視点から、導き出した数値を一つの目安・目標として設定することになる。

ちなみに、これまでの業務経験から私が捉える、大まかな目安を示しておく。普通車の駐車場マス数が100台分、施設規模は1,500㎡、物販・飲食・軽食などの収益機能を備えた道の駅を整備する場合、面前道路の昼間交通量が約10,000台、半径10㎞以内の商圏人口が10万人存在する立地環境の道の駅の年間売上高は、5億円程度が目安になると考える。面前道路の交通量が少なくても、商圏人口が多ければ、それ以上の売上高が期待できる。

しかし、売上高予測は、そんな単純なものではないし、当初の予測は外れることを覚悟する必要がある。栃木県の道の駅「もてぎ」や群馬県の道の駅「田園プラザ川場」などは、面前道路の昼間交通量は2,000~3,000台しかないにも関わらず、年間売上高は10億円を超えているし、前回紹介した福島県の道の駅「国見あつかしの郷」も、当初の売上予測の2倍程度を達成する見込みである。

冒頭、道の駅は地域型と観光地型に区分できると述べた。これまで流通研究所では、いくつかの道の駅に協力して頂き、その道の駅を訪れる利用者へのアンケート調査や、月別・曜日別の売上データの分析調査を行った経緯がある。その結果を踏まえると、2つのタイプには、利用者にかなりの差が見られることがわかる。

地域型の特徴は、平日と休祭日の売上の差が比較的少なく(1.5倍程度)、平日の利用者は半径10㎞圏内の住民が過半を超え、休祭日の利用者は半径30㎞圏内まで拡大する。一方、観光地型の特徴は、平日と休祭日の売上の差が大きく(3倍程度)、休祭日の利用者は半径100㎞圏内まで拡大する。また、前者は年間を通して比較的安定した利用者が訪れるが、後者は季節変動が激しいなどの特徴がある。

ちなみに、全国1,000箇所以上の道の駅の中で、地域型の割合は概ね8~9割を占め、観光地型は1~2割に過ぎないと私は分析している。観光地型の道の駅を成立させるためには、もともと観光資源が豊富な地域であるか、「田園プラザ川場」のように、ハード・ソフト共にかなりの投資を行い、道の駅自体を観光地化するなどの要件を満たす必要がある。

また、観光地型は、曜日や季節によって利用者の変動が大きいことから、それに対応した要員体制を整え、柔軟な商品・サービス政策を打たなくてはならない。そのため、地域住民にとって安定した周年雇用の場にならなかったり、出荷者にとって安定した出荷先にならなかったりなど、課題も多い。したがって、地域特性にもよるが、先ずは地域型の道の駅をめざし、地域及び周辺地域のリピーター確保に努めた上で、プラスαで観光客も取り込むようなハード・ソフト計画を立てることが無難であると考える。

かの有名な、山口県の道の駅「萩しーまーと」は、計画当初、県内でも随一の観光地「萩」(人口は約5万人)に立地することから、観光地型の整備をめざしていた。しかし、その後駅長に就任した中澤氏が、観光地型では経営が成り立たないとの理由から、その方針に猛反対し地域型へ方向転換した経緯がある。その結果は周知のとおり、地域住民が地域の新鮮な水産物などを購入し、食べられる拠点として、年間を通して高い利用率を誇る道の駅になっている。

道の駅の整備立地は、国道あるいは主要地方道に隣接していることが条件である。市町村の財政負担を軽減するためにも、市町村の単独型ではなく、国交省との一体型の整備をめざしたいが、その場合の立地は国道沿いに限定されることになる。地方主要道の県道などでも整備は可能であるが、県からの補助金はあまり多くを期待できないことから、その分整備主体である市町村の財政負担は重くなる。

道の駅の経営を考えると、交通量は多い方がよく、また大型車両の通行割合は低い方がよい。国交省が5年に一度更新する交通センサスで、対象立地周辺の交通量は容易に調べられるので、立地を考える上での参考にして頂きたい。トラックの運転手も重要な利用者であるが、道の駅に落とすお金は少なく、大型車両用の駐車場整備に多くの敷地面積をとられ、費用対効果は低い。さらには、夜間・昼間を問わず道の駅がトラック運転手の仮眠スペースになってしまい、全く回転せず他のドライバーから苦情が出るケースも多い。しかし、国交省との一体型整備では、大型車両の交通量に応じて、大型車両用の駐車場マスの確保が義務付けられるので、留意頂きたい。

立地選定においては、国道から出入りするための円滑な動線確保が求められる。特に、右折レーンの設置のための拡幅工事が可能な立地であること、交差点から道の駅の出入り口までの距離が概ね50m以上離れている立地であること、面前道路の勾配が少ない立地であること(勾配がきついと車両の出入りが滞り、交通事故を招く恐れがある)などが基本的な要件である。その他にも、国交省としての指針があるので、立地を選定するにあたっては、先ずは国交省の地方事務所に相談することをお勧めする。

敷地は、面前道路に対し、フラットであることが望ましい。傾斜地や棚田となると、国道からの円滑なアクセスを確保するため、切土・盛土などの造成工事に多大な予算が必要になる。また、駐車場から施設への歩行者動線を考えても、駐車場と建物は同じレベルのフラットな敷地に整備したい。なお、敷地の形状は、駐車場と施設の効率的配置、駐車場内の車両動線などを考え合わせると、なるべく四角形なものが望ましい。

敷地の面積は、最低1ha以上が必要で、理想的は2ha以上欲しいところである。普通車両の1台あたりの駐車場面積は35㎡、大型車両はその5倍の175㎡程度が必要になる。仮に、普通車両100台分、大型車両20台分の駐車場マスを確保するとなると、駐車場だけで7,000㎡の敷地が必要である。これにロータリー・車寄せや回遊路などが必要であり、車両関連だけで、10,000㎡以上の敷地が占有されることになる。加えて、施設が2,000㎡、建物周りの敷地が500㎡、職員・出荷者向けの駐車場が20台分で800㎡、調整池で1,000㎡、さらには閑地・緑地で3,000㎡などと計算していくと、必要な面積は2ha近くまで拡大することになる。

欲を言えばきりがないが、駐車場マスは普通車両だけで150台以上欲しいところである。特に土日の利用者が膨れあがると予想される道の駅では、臨時駐車場の確保も検討したい。なお、必要な駐車場マス数の算定については、駐車場占有率などの指標を用いた旧日本道路公団の設計要綱がオーソリティとなっているので参考にして頂きたい。

対象となる用地は、農地となるケースが多い。なぜなら、2haのまとまった用地は、農地をおいて存在しない市町村がほとんどだからである。その場合、優良農地をつぶすことになることから、直売事業を核とした農業振興という整備目的を標榜し、それを実現するための事業スキームを明らかにする必要がある。そうすることで、農地転用手続きも地権者との交渉も円滑に進むことになる。次回のコラムで詳しく述べるが、予算や手間をかけたくないからといって、貴重な優良農地を転用し、民間企業に土地を切り売りして、営利に走る商業目的の道の駅になってしまうような事業であってはならない。