第2回 | 2017.04.24

農産物のブランド化戦略①
~ 総論 ~

ブランドとは、商品自体が価値を持ち、その価値を利用者に評価され、価値が管理され続けることで、生産者と利用者との信頼関係が築かれることをいう。農産物のブランド戦略もまた、この基本を踏まえたものであることは間違いない。しかし、気象条件や生産者の栽培技術などにより均一な品質を保ちにくいこと、生産者ではなく卸売市場やスーパーなどの実需者が価格形成力を持つこと、同じ品目・品種が全国で生産されており産地間競争が激しいこと、コールドチェーンを前提とした特殊の流通経路を持つことなど、いくつかの特異性を持つ。こうした特異性を踏まえたブランド戦略は、工業製品とは異なる視点を持って考える必要がある。

先ずは、農産物のブランド戦略を進める目的を明らかにしておきたい。ブランド戦略を進める目的は、「生産者所得の向上」にあると私は考える。生産者所得の向上は、地域の担い手の確保・育成や農地の保全・活用にもつながることになる。ブランドとは、希少価値を持つ少量の産品を高価格で売ることであると考える人が多いようだ。また、行政マンの中には、シティセールスのための手段の一つとして、農産物のブランド化を進めようと考える方もみられる。こうした考え方が間違いであるとは言わないが、結果として生産者の所得向上・担い手育成につながらないのではあれば、ブランド戦略を進める意義はないと思う。

例えば、糖度やかたち・色合いなどで非常に高い基準を設け、幻の逸品としてブランドを位置付け、10,000分の1の割合しか基準を満たす産品が出現しないような制度を導入する例もみられる。その産品がどんなに高く売れたとしても、残りの9,999が依然として安値しかつかなければ、生産者所得の向上に結び付くとは考えらにくい。したがって、少なくとも、全生産量の1〜2割をカバーするブランド基準が必要であり、そのブランドをつくることにより、残りの8〜9割の価格も引き上げられるような制度設計とする必要がある。良いものが高い価格で売れるのは当たり前である。特A品はもとより、B品もC品も、そこそこの値がつくようにするようなブランド戦略でなくてはならない。本来は、出荷する全ての産品をカバーできる基準とし、その全てが高値で取引できるような仕組みが理想であろう。

農産物のブランドは、①市場流通を基本とした全国ブランド、②地域内流通を基本とした地域ブランド、③消費者への直売を基本とした個人ブランドなど、販売エリアとターゲット層並びに生産ロットなどによって分類できる。①は大都市圏の中央卸売市場を経由し、JAなどが主体となり大手量販店などで販売されるブランド産品、②はJAや大型農業法人などが主体となり産地の都道府県内の地場密着型のスーパーや直売所などで販売される産品、③は農業法人や個人の農家が主体となり地域直売や通販によって販売している産品としてイメージできる。なお、①の上に、輸出戦略を前提とした国際ブランドも存在するが、話が混在するので別な機会にコメントしてみたい。

いずれの場合も、農産物のブランド戦略の立案にあたっては、生産面と販売面の両面で考える必要がある。しかし、上記の区分により、生産主体とターゲットが異なることから、とるべきブランド戦略もまた異なることに留意する必要がある。本日のコラムでは、総論を語る上で話を単純化したいので、以下は、①のJAの生産部会などが取り組むブランド戦略の基本方針について整理する。

生産面で最も大切なことは、品質の高位平準化と、ロットと安定供給である。JAの生産部会は複数の組合員が組織をつくり、JAのリーダーシップのもと、統一的な栽培方法を導入するが、個々の生産者の技術力や意識の違いによって、品質にばらつきが出るケースが多い。市場出荷にあたっては、特A品~D品までに選別されて出荷することになるが、品質にばらつきが出るとブランド基準とする産品の出現率が下がってしまう。そもそも同一の品質を持つものがブランド品といえるが、農産物ブランドの場合、「同一」にすることは困難でも、「均一」を実現するための生産努力が強く求められる。

ロットが少なく安定供給が困難な産地は、いかなる流通事業者からも相手にされない。なぜなら、彼らは「手数料商売」であり、取扱数量が少ない産品などを扱っても「うま味」がないからだ。また、流通事業者にとって、商品が入ってきたり来なかったりという状況は、最もストレスを感じることだ。流通事業者にはブランド化の一翼を担う意思は十分あるが、利益がとれず物もないような状態では、その気になれるはずがない。相応のロットと安定供給が出来てはじめて、流通事業者の取組意欲を喚起でき、高値取引を実現できることになる。

したがって、生産面では、土づくりや施肥・防除、保管・選別に至るまで、統一した栽培・出荷方法を全部会員に徹底させると共に、研修や情報交換などの部会活動を活性化させる一方で、部会員の増員と栽培面積の拡大に努め、増産体制と安定供給を実現することで、流通事業者の賛同を得られるような産地づくりを進めることが、ブランド戦略の基本方針となる。

一方、販売面におけるキーワードは、パートナーの選定とターゲット層への効果的な販促活動であろう。パートナーの選定にあたっては、エリアと卸売市場の両面で考える必要がある。全国ブランドをめざす産地は当然首都圏に打って出ようとする。確かに首都圏での情報発信力は、他の経済圏に比べて群を抜いている。しかし、最も競合が激しい首都圏へ、物流・販売効率などを無視してまで打って出ることが、果たして生産者所得に向上につながるかどうかを検討するべきであろう。

重点エリアを定めた後には、どの市場をパートナーとして選ぶかがポイントになる。野菜・果実の大型産地のほとんどは、首都圏ならば大田市場を第一にあげるだろう。確かに大田市場は、取引の幅も深さも際立っており、ブランド戦略を進める上で力強いパートナーとなろう。しかし、市場間競争が激化し、各卸売業者が産地獲得に凌ぎを削っている昨今、各市場の提案力・販売力を見極めながら、より深く固い絆づくりをめざしてして、パートナーの再選定を行うことも選択肢のひとつであると考える。

ターゲット層への効果的な販売促進活動を展開する上では、先ずターゲット層の選定から始める必要がある。ブランド品であることから、富裕層がメインターゲットで、高級販売店で販売しようと考える傾向があるが、そんな安直に答えを出してはならない。産品に、競合を踏まえたマーケティング環境はいかなるものか、差別化できる商品特性は何か、どんな用途やシーンで食べて欲しい産品なのかなどを調査・検討の上で、ターゲット層と販売チャネルなどを設定するという手順が重要である。

次に、定めたターゲット層とチャネルに対し、限られた予算で、効果的な販売促進活動を展開する必要がある。インターネットや業界誌、パンフレットなどを活用してPRする「空中戦」、小売店でのマネキンによる試食販売や、飲食店でのメニュー化などの「地上戦」をミックスさせながら効率的に展開し、ブランド産品の価値を伝え続け、消費喚起を図ることが肝要である。販売促進活動は、絞り込みによる集中投下と、費用対効果を見据えた持続的展開がポイントになると考える。

本日のコラムは、総論として、ブランド戦略の目的、生産面・販売面でのポイントなどについて述べた。当然のことながら、野菜、果実、食肉などの産品によって、商品特性や流通特性などが全く異なることから、同じ視点でブランド戦略を語ることは出来ない。次のコラムからは、可能な限り産品を細分化すると共に、具体的な手法や事例を織り交ぜながら述べて行きたい。