第28回 | 2017.12.19

直売農家の育成に向けて④
~給的農家を対象とした育成プログラム~

直売農家の重点的な育成対象として、自給的農家があげられる。全国的にも販売農家の割合が減少し、自給的農家が増加する傾向にあるが、とりわけ都市部においては、自給的農家が過半を占めるような状況さえ見られる。その中で、自給的農家は、出荷者登録はしているものの、ほとんど出荷していないケースが多いことに加え、出荷者登録さえしていない農家も多いと思われる。

かつて直売所は、高齢農家や地域女性にとっての手軽な換金の場と位置づけられ、庭先でつくった少量の農産物が販売されているケースが多かった。こうした農家は、栽培技術が低く、農薬の知識はほとんどなく、生産履歴など付けていなかった。その結果、売場には病害虫だらけの粗悪な農産物が、安値で並ぶといった状況が見られた。しかし現在、直売所は販売農家の有力の販路のひとつとして位置付けられ、直売所間競争が激化する中で、相応の品質と安全性の担保が求められるようになり、自給的農家はもはや、直売事業に参加する資格がなくなってしまったと言える。

こうした自給的農家を直売農家として育成するためには、直売事業に真剣に取り組む姿勢、しっかりした栽培技術、そして肥料・農薬などの資材の正しい知識を習得させることが重要である。では、どのような育成プログラムを組むべきか。育成プログラムを考える前に、まずは、ターゲット層を定める必要がある。ターゲット層は、ずばり70歳未満という年齢層で考えることが手っ取り早い。

もちろん個人差はあるが、人は70歳を超えると、自分の考え方やこれまでやってきたやり方を変えることは容易ではない。心身ともに高齢化し、新しいことを積極的に吸収していこうと意欲と体力が枯渇してしまうようだ。私の親父も80歳を超えるが、野菜の栽培方法の間違いを何度注意しても言うことを聞かないし、その結果、毎年同じような失敗を繰り返している。

育成プログラムを実施するにあたり、「70歳以上は対象外です」とは言えない。そこで、誰でも参加できるという大義は立てつつ、70歳未満の自給的農家に対しては、別途電話をしたり、個別訪問をしたりして参加を呼びかけるようにしたい。出荷者登録の際には、生年月日などを記載していると思うので、予めリストアップして、一歩釣り方式で、ターゲット層に働きかけるべきである。

育成プログラムは、やる気を起こさせるためのシンポジウムと、しっかりした栽培・出荷などの知識を付けてもらうための研修会、実際に作らせ売らせてみせる実証栽培・実証販売などに区分されよう。以下は、それぞれの具体的な内容について、流通研究所がこれまでやってきた業務実績を踏まえて説明する。

シンポジウムは、ターゲット層が、おもしろそうだ、やればできそうだ、そしてやってみようと思わせる、きっかけをつくることが狙いである。出荷者組合の活動の一環として実施してもよいし、地産地消や食育などのテーマを盛り込んで、市町村とJAの共同企画にして、出荷者だけなく非農家の地域住民にも参加を呼び掛けてもよいだろう。シンポジムの基本的なコンテンツは、基調講演、活動の発表会、パネルディスカッション、ミニイベントなどが考えられる。

基調講演では、集客力のある講師を招きたいところである。しかし、予算の問題もあるので、例えば、成功している近隣の直売所のカリスマ店長や、地域の種苗会社の担当者など、協力を頂ける方に依頼してもよいだろう。講演テーマは、「こんなに儲かる直売事業!」、「まだまだ出来る直売向けの野菜づくり」など、ストレートで分かりやすいものがよい。

活動の発表会では、現在の出荷者の中から2~3名程度を選定し、各自の直売向けの野菜づくりや加工品開発などの活動の内容を、10~15分程度で発表するような内容が効果的である。特に、自給的農家から直売農家へ成長した出荷者や、リタイヤしてから農業を始めた農家の成功談などは、聞く者の心を捉えるだろう。

パネルディスカッションでは、基調講演の講師に加え、直売所の店員、出荷者の代表者、消費者の代表者などをパネラーとし、直売所で求められる商品・サービスと、それに対応した生産・出荷方法などをテーマに、気さくな意見交換を行う場としたい。進行にはファッシリテーターの能力が問われるが、パネラーの意見をうまくまとめよとするのではなく、本音をぶつけ合えるよう議論を誘導したい。

ミニイベントでは、新品種の野菜の紹介や、こだわり産品や開発中の加工品の試食・即売会のようなもので構わない。シンポジウムの会場に、実物があることで、臨場感が湧くし、シンポジウムへの参加意欲を高める効果も期待できる。

次の育成プログラムは、栽培研修会である。シンポジムに参加した自給的農家などに声をかけ、研修会の受講を積極的に呼びかける。栽培研修会は、受講する方も実施する方も間のびしないよう、なるべく短期間で、基礎知識をきっっちり習得させるような内容にしたい。例えば、春作講座、秋作講座など年2回の研修コースを用意して、1回のコースは、週1回実施で、1回は2講座制、4~5回で完結させる(計8~10講座)ような内容が理想的である。

講師には、県の改良普及員、JAの営農担当者、種苗会社の担当者、既存の出荷者のうち実績・ノウハウが高い篤農家などを充てたい。講義の内容は、土づくりや施肥、農薬の基礎知識にはじまり、主要品種の栽培方法、収穫・調整・出荷方法など、家庭菜園向けに市販されている書籍のレベルで構わない。なぜなら、自給的農家の多くは、このイロハ自体が分からないために、第一歩が踏み出せない状態にあるからだ。また、講義の中には、セルトレーやポットの育苗、播種・定植、間引きや芽かき、防除などの実習を盛り込むとさらに効果的である。

最後のプログラムとして、実証栽培・実証販売のやり方について説明する。実施させる対象者は、栽培研修会の受講生とすることが円滑かつ効果的である。栽培研修会の折に、いくつかの品目・品種の栽培方法を教えると共に、その種や苗を受講生に提供して、各自のほ場で作らせるといった仕掛けをしたい。そして、講師側に余裕があれば、実証栽培に取り組んでいる受講生のほ場を巡回し、現地指導にも取り組みたい。

実証販売は、つくった産品を直売所に出荷することに他ならない。その上で、自ら袋詰めして値段をつけた産品が、売場でどのような品質レベルにあるのか、消費者がどのような評価をするのか、自分の目で確かめてもらうことが重要である。また、マルシェ方式の店頭イベントを企画し、自ら売って、消費者と会話する機会を提供する方法も効果的であろう。

自給的農家を直売農家に育成するためには、手間と時間がかかる。しかし、一旦このような育成プログラムを完成できれば、一過性の育成策に留まらず、そのノウハウを後年度にも活かせるし、その直売所の伝統ともなる。無理だ、大変だと何もやらなければ、出荷者も出荷量も減るばかりである。こうした取組みは、地域の農業振興にも直結する。直売所単独ではなく、市町村・県などとの連携を強化し、地域ぐるみでチャレンジして頂きたいと思う。