第27回 | 2017.12.11

直売農家の育成に向けて③
~集落営農法人を対象とした育成プログラム~

第24号では、直売農家の育成対象として、集落営農組織、特に集落営農法人が有望であり、こうした組織が直売事業に本格参入すると、すさまじいパワーになると述べた。流通研究所の金次郎プロジェクトにおいても、いくつかの集落営農型の農業法人が主要な出荷者になっており、多品種安定供給の仕組みづくりに大きく寄与している。

全国で、地域の農地と農業を守るための集落営農組織が設立されており、その多くは法人化している。法人化して、経営規模が拡大すると、雇用者を増やす必要性が高まるものの、稲作・四穀作だけでは、年間を通した作業量や収入が安定せず、周年雇用は困難な状況になる。そこで、直売向けの野菜作を導入することで、経営の安定と周年雇用者の拡大をめざしたい。

集落営農型の農業法人の多くは、早生から晩生までのいくつかの米の品種や、業務用米、飼料用米のミックスにより、作業期間の分散と安定収入の確保に努めている。また、米の裏作として、麦や大豆などを導入すれば、概ね周年を通した作業量が発生する。しかし、それでも、農繁期と農閑期が生まれ、夏場や冬場は作業量が激減しているのが実状であろう。

規模拡大に伴い雇用した人材に対し、「農閑期は作業がないので休んでくれ、でも賃金は払えない」とは言えないだろう。そこで、雇用はせず、メンバーだけでなんとか作業を回すことを考える訳であるが、その場合、組織の発展は見込めず、後継者も育成出来ない。ちなみに、経営展望が描けず後継者も育たない組織は法人化するべきではない。法人とは、個人に代わり組織自体が人格を持ち、未来永劫に持続・発展する事業体であることが定義である。

こうした状況において、直売向けの野菜作を導入する訳であるが、機械化による大規模経営を志向している集落営農法人が、多品種少量生産にチャレンジすることにはかなり抵抗がある。さらには、収穫後の細かな調製作業や、パッケージや配達・引き取り作業までやるとなると、手間がかかりすぎるし、そのような面倒なことはやりたくないと考える法人も多いだろう。むしろ、たまねぎやにんじんなどの大型作物を導入し、コンテナで裸出荷できるような加工・業務用取引を志向する傾向が強い。

したがって、集落営農法人を直売農家として育成するためには、行政機関を含めた働き掛けと仕掛けが必要である。では、どのように仕掛けていくか。先ず、やるべきことは、集落営農法人の主要メンバーとの話し合いであろう。集落営農法人の現状・課題を正確に把握し、直売向け野菜作導入の意向や要件を整理する。話し合いの際は、可能であれば専門家も招聘し、適切な助言により取組み意欲を喚起させたい。その専門家としては、地域種苗会社の技術者や県の改良普及員、または手前味噌ながら私のような者が適任だろう。

まず、話し合いでは、その集落営農法人の、年間の農作業の状況を適切に把握することから始めたい。その方法としては、以下のようなイメージに農作業カレンダーをつくり、現在の月別(可能であれば週別)の作業量を整理することが重要である。

上記のモデルの場合、4月~5月、8月~10月に作業量が集中し、11月~3月までの冬場や6月~8月中旬までの夏場は作業がない、あるいは作業量が少ないことがわかる。自社精米して自社販売しているような集落営農法人や、米の集荷後に麦作を行うような法人は、冬場も相応の作業はあるが、それでもピーク時と比較すれば作業は非常に減るだろう。

そこで例えば、キャベツ、レタス、はくさい、ブロッコリー、カリフラワーなど、田をほ場としても、ある程度の品質が期待できる品目にチャレンジしてみる価値はあろう。これらの品目の場合、7月~8月中旬までがセルトレイ育苗の期間、そこから40日目程度が定植時期、10月の後半から収穫時期となる。定植期は一部繁忙期と重なることもあるが、その他の作業期間は余裕があるものと考えられる。同じような考え方で、とうもろこしやなす、おくらなどの夏野菜や、だいこんやほうれんそうなどの秋冬野菜についても、作業内容や作型などを調整することで生産は可能になろう。さらに、トンネル栽培やハウス栽培にチャレンジすれば、冬場の野菜づくりの幅は大きく広がる。

稲作に特化してきた集落営農法人では、野菜栽培のノウハウが少なく、手間がかかることから、野菜作に対して始めから否定的な見解を持つところが多い。しかし、作業の季節性が高く、発展性に欠ける現状を打破するためには、何かにチャレンジしなければならいし、物理的に野菜作が不可能な訳ではない。集落営農法人との話し合いにおいては、感情論ではなく、月別労働日数など具体的な数値を整理した上で、理論的な結論に導かせることがポイントとなる。

次に、米+野菜作の実証試験に取り組みたい。そのためには、品目・品種の選定、牛糞堆肥や適正農薬の調達に加え、栽培指導などの面での支援が必要になる。また、最初から100点が付く訳がなく、病虫害が発生したり、秀品率が低かったり様々な栽培上の課題に直面することになろう。そこで、作型ごとの課題と対策について、十分協議を重ね、集落営農法人のメンバーの取組み意欲を高めていくようにしたい。協議の過程で、法人のメンバーから、栽培方法の創意工夫や、新たな品目・品種、作型などの発想も生まれてくるはずだ。

試験栽培を行った品目・品種の中から、集落営農法人のメンバーが手応えを感じたものについては、順次本格的な生産を促すようにしたい。先ずは、小規模であっても、野菜作の専用ほ場を確保し、作付計画をつくり週ごとの作業内容を整理したい。こうして、一つひとつ成功体験を重ねることで、野菜づくりへの不安は自信となり、やがて確信に変わるだろう。

品目・品種ごとの生産量が拡大すると、直売所だけでは販売先として不足になり、卸売市場や地域スーパーなどの販路開拓が必要になろう。加えて、雇用者の確保や、野菜づくり用の機械や施設の確保など、新たな課題も生まれるだろう。しかし、ここまで来れば、当初の目論見は達成したに等しい。その農業法人は、直売所にとって中核的な出荷者として成長することが期待できると共に、法人自体も経営の発展と安定に向けた確かな道筋をつかんだと言える。