第25回 | 2017.11.28

直売農家の育成に向けて②
~既存の出荷者を対象とした育成プログラム~

前回のコラムでは、直売農家の育成に向けて、先ず取り組むべきことは、既存の出荷者の出荷品目・出荷量の拡大であり、出荷量によって出荷者をいくつかのグループに分け、グループごとの育成策を講じるべきであると述べた。Aグループは常時出荷し年間出荷額が200~300万円以上の出荷者、Bグループは常時出荷しているが出荷量にはムラがあり年間出荷額は100万円程度の出荷者、Cグループは出来た時にだけ出荷する出荷者、もしくは出荷者登録はしていてもほとんど出荷していない出荷者をイメージして頂きたい。今回は、こうした既存の出荷者を対象とした、育成プログラムについて述べてみたい。

Aグループの出荷者は、少ない人数で売上高の過半をあげている、直売所の中核的な担い手である。栽培技術は高く、直売向けの作付体系や出荷方法などは十分習得済みであろう。しかし、こうした出荷者であっても、まだまだ育成の余地はあり、出荷品目・出荷量の拡大は見込める。その育成策として、Aグループの属する出荷者達により研究会を発足することを提案する。高いレベルにある出荷者達は、お互いライバル関係にあることから、思いのほか、出荷者同士の情報交換が出来ていないのが実状である。しかし、それぞれが持つ技術力を共有できれば、更なるレベルの向上が期待できる。

研究会は、トップレベルの出荷者達の情報交換の場という位置づけに加え、特定の目的を持った研究の場にすることで、より大きな効果が期待できる。特定の研究目的として有効であると考えられるのは、その直売所のオリジナルブランドに資する品種の選定と安定供給や、促成・抑制栽培による特定品目の出荷期間の延長などである。

流通研究所が取組む「金次郎プロジェクト」では、「湘南ポモロン」という品種のトマトを対象に、3名のトマト農家に生産を委託することで、長期のリレー出荷体制をつくりあげた。また、郡山ブランド野菜協議会では、価値が高く地域の風土にあった品種を選定し、品種ごとの栽培マニュアルを作成して、篤農家達が栽培に取り組む方式で、これまで10品目以上のオリジナルブランドを創出している。

研究会では、新品種や新たな作型などを提案できるアドバイザーの存在が必要不可欠である。アドバイザーとして最も適切なのは、幅広い情報収集力を持ち、地域の農業や風土・気象条件を熟知している、地域の種苗会社の担当者である。弊社は今年も、道の駅などの出荷育成支援の業務を数件請け負っているが、いずれの地域でも、地域の種苗会社のキーマンを探りあてて、アドバイザーとして協力して頂いている。出荷者個人でも、ある程度の情報収集は可能であるが、種苗会社は、その地域に適した品種や栽培方法、作型などに関する情報量はもとより、種苗メーカーの新品種の最新の開発動向などの情報を入手するスピートは卓越している。

直売所のマーケットの拡大を背景に、種苗メーカー各社は、直売向けの新品種の開発に力を入れているし、メーカーから種苗を仕入れ販売する販売店も、直売向け出荷者を重要な顧客として捉えている。したがって、研究会のアドバイザーとして、出荷者を支援する役割については、概ね好意的に引き受けて頂けるだろう。

次に、Bグループの出荷者を対象にした育成プログラムについてである。Bグループの出荷者は、Aグループの出荷者と比較して、栽培技術が未熟である可能性が高い。土作づくりや防除の基本や、品目別の栽培のコツなどは分かっていても、ハウス・トンネル栽培や作型に応じたマルチ栽培などにかかわる経験や基礎知識は不足している出荷者が多い。露地栽培で作りやすい作型でつくるため、同じ時期に同じ品目が大量に出来てしまい、直売所内での価格競争を招いてしまう出荷者は、このBグループに属するケースが多い。

そこで、栽培技術を改めて学び直してもらうような、研修会を開催することが効果的である。農業は、経験や勘だけで成果があがるものではなく、科学的な視点も踏まえた基礎知識や技術を元に、日々の努力によってはじめて結実するものである。したがって、出荷者を対象に、土づくりや施肥設計、品目の栽培特性、育苗や定植方法、病虫害や防除、作型や栽培方法など、農家が持つべき基礎知識を習得させることを目的に、座学研修やほ場での実践研修などを実施するべきであろう。

出荷者の高齢化に伴い、研修会への出席率の低下や研修内容への理解不足などが懸念されるが、Bグループの中から、意欲があり比較的若い出荷者を一本釣りして研修会への参加を促したり、研修内容を極力単純化して楽しく学べるよう工夫したい。また、毎月実施するとなると、実施する側も受ける側も大変で、間延びしてしまう懸念があるので、例えば2カ月ぐらいの期間で5~6回のテーマ別研修を、集中して実施するようなプログラムを検討したい。

研修会の開催にあたっては講師の確保が課題になるが、先に述べた種苗会社の担当者に加え、JAの営農職員、県の改良普及員、JAや県のOB、技術力が高い篤農家などを選定して、テーマ別に講義を担ってもらうような体制を整えたい。人材は、遠くまで探しに行かなくても、思いのほか身近に存在するものだ。

そして最後にCグループに属する出荷者である。このグループは宝の山であり、将来的に中核的農家に育つ人材が埋もれている可能性がある。先ずは、登録者リストを精査し、年齢や現在の営農形態などをチェックする必要がある。現在は兼業の自給的農家であっても、60歳以下であれば、会社を退職後、農業に本格的に取り組んでいこうと考える人も少なくないだろう。こうした視点を踏まえ、有力と考えられる出荷者をリストアップしておくことが重要である。

その一方で、Cグループ全員を対象としたシンポジウムやイベントなどを開催することをお勧めしたい。その目的は、やる気にさせる、その気にさせることにある。やれば出来る、まだまだ出来るという意識を芽生えさせ、生産意欲の向上につなげるような仕掛けが必要である。シンポジウムでは、分かりやすい基礎講演や、出荷者を交えたシンポジウム、季節ごとの野菜の品種の紹介に加え、種の無料配布など、意欲を喚起させる内容が効果的である。

また、Bグループの育成策で述べた、各種のテーマ別の研修会についても、Cグループの中から有志を募り、あるいは一本釣りして参加を呼び掛けていきたい。さらには、出荷者の意欲や基礎知識のレベルによっては、Aグループの研究会に参加させることも検討できる。Cグループの出荷者が、短期間のうちにAグループへと昇り詰めるようなミラクルも期待できよう。

このように、レベル階層に合わせた育成策を講じることで、既存出荷者の底上げが可能になるばかりではなく、その直売所の運営者と出荷者との信頼関係が強固になる。出荷者の高齢化や減少を、嘆いてばかりいても何も始まらない。出荷者のせいにして、その結果、売上が落ち、客離れを起こしてしまうような直売所は、無策の運営者に責任がある。既存出荷者には、まだまだ伸びしろがあるし、育成に向けて出来ること、やるべきことは無限大にある。