第24回 | 2017.11.20

直売農家の育成に向けて①
~岐路に立つ農産物直売所、直売農家の育成を急げ~

地域の新鮮な農産物を販売する農産物直売所は、JAがファーマーズマーケット事業を力強く推進していることに加え、道の駅の建設ラッシュが続いていることなどもあり、依然としてそのマーケット規模は拡大傾向にある。また、多様化する消費者ニーズや時代性に合致した販売形態として、多くの消費者から支持を得ており、確実に市民権を獲得したと言えよう。

しかし、農産物を出荷する農家は、年々減少し、高齢化する傾向にある。このまま行くと、今は大盛況の直売所であっても、やがて売る産品が減り、顧客離れが進むことになる。また、道の駅などを新設する場合は、出荷者を確保しなければならないが、その地域で新たな出荷者が突然登場する訳ではなく、多くの場合、既存の直売所と出荷者の取り合いになる。そして、新設する道の駅の方が売れると分かれば、出荷者は既存の直売所から離れていくことになる。

このように、農産物直売所は、高い支持率を維持しているにもかかわらず、今後は出荷者の不足から衰退に向かう可能性が高く、岐路に立っていると言えよう。したがって、農産物直売所にとって、出荷者となる直売農家の育成が喫緊の課題になる。では、地域の農家の減少と高齢化が進む中にあって、誰を対象に、どのような方法で直売農家を育成するのか。そこで、私がこれまで携わった実践的な業務経験を踏まえ、直売所の重点品目になる野菜を中心に、「直売農家の育成に向けて」をテーマとして、何回かのシリーズでこのコラムを綴ってみたい。今回は、シリーズの初回であることから、育成するターゲット層と育成の視点について、簡単に述べておくことにする。

直売農家の育成に向けて、先ず取り組むべきことは、既存の出荷者の出荷品目・出荷量の拡大である。直売農家の育成策として、最もオーソドックスであり、かつ最初に着眼すべき取組みである。直売所の出荷者のABC分析を行うと、例えば200名の出荷者が存在した場合、10%にあたる20名が全体の売上高の50%を占め、20%にあたる40名が30%、その他の70%の出荷者が20%を占めると言った傾向が見られる。この場合、Aグループを形成するトップランナー達に加え、Bグループ、Cグループと、それぞれ経営規模や生産技術ななどのレベルに合わせ、異なる育成策が求められる。

次に考えるべきことは、稲作兼業農家の「米+野菜」の経営形態への転換である。特に、会社をリタイヤする兼業農家は重点ターゲットになる。こうした兼業農家は、農業のイロハは熟知しているし、耕運機や軽トラなどの機械、さらには農機具倉庫なども持っている。また、JAの組合員であることから、ファーマーズの出荷者となることも容易である。さらに、金銭的にも時間的にも余裕があり、直売農家として飛躍的に成長するための条件が揃っている。

次いで、働きけるべきターゲットは、集落営農組織であり、稲作・四穀作中心の経営から「+野菜作」への業容拡大を促したい。全国で、地域の農地と農業を守るための集落営農組織が多数設立されており、その多くは法人化している。法人化して、受託農地が増えるなど経営規模が拡大すると、雇用者を増やす必要性が高まる。しかし、稲作・四穀作だけでは、年間を通した作業量や収入が安定せず、周年雇用は困難である。そこで、野菜作を導入することで、経営の安定と周年雇用者の拡大を狙う。様々な課題があるが、集落営農組織が直売事業へ本格的に参入すると、すさまじいパワーになる。

施設園芸を主業とする専業農家に、直売用の野菜を作ってもらうことも検討したい。施設園芸の専業となると、とてもそこまで手を広げる余裕がないと考えがちであるが、施設園芸といっても、年中忙しい訳ではなく、農閑期は必ずあるし、パート雇用を行っている農家は、直売用野菜の栽培のための労働力も確保しやすい。さらに、メインとなるトマトやきゅうりなど規格外品の販売先として直売所に既に出荷している農家は、直売向けの売り方もよく知っている。施設園芸に取り組む専業農家であっても、現在の営農形態を踏まえ、品目・作型・数量を限定し、副業として直売向け野菜を生産することは可能であると考える。

農業への参入企業も育成対象であろう。多くの参入企業は、植物工場的な農業をやりたいのであって、直売向けの多品種・少量生産の農業をやりたい訳ではない。しかし、その一方で、地場密着型、土地利用型の農業を志向する参入企業も存在する。こうした企業は、地域農業の貴重な担い手であり、農地の守り手である。優良農地の確保や機械の購入、栽培技術の習得など、経営を軌道に乗せるまでには幾多の課題はあるが、県や市町が全面的に支援し、育成すべき存在であろう。参入企業の効率的な生産・販売体系を検討する中で、直売向けの野菜作の導入も促したい。

最後に、非農家や一般市民を新規就農させ、直売農家として育成することにもチャレンジしたい。しかし、そのためには、多大な手間と時間がかかり、実現性は低く費用対効果も定かではない。農家資格の取得、農地の確保、農業用機械や施設の購入、農業のイロハの習得、栽培技術の向上など、様々なハードルが存在する。しかし、非農家であっても、地域の女性や退職者などの中には、農業に取り組んでみたいと考える人は多い。不足する直売農家と、直売農家になってみたい非農家の存在という2つをマッチングさせるための仕組みづくりが重要であるが、仕組みづくりのためには、中長期的な展望に立った継続的な行政施策講じる必要があろう。

本日は、直売農家の育成対象として、既存の出荷者、稲作兼業農家、集落営農組織、施設園芸専業農家、農業への参入企業、そして非農家・一般市民などが考えられることを述べた。当然のことながら、直売農家の育成に向けては、それぞれ異なるアプローチや手法が求められる。次回からは、ターゲットごとに、具体的な育成プログラムの内容を紹介していきたい。