第26回 | 2017.12.05

卸売市場の経営展望⑥
~卸売市場法の改正について考える~

先般の日本農業新聞では、農林水産省がとりまとめた卸売市場法の改正案が、トップ記事として掲載されていた。これから各種の審議や法改正の手続きなどが必要で、施行までには相応の時間を要するだろうし、この度新聞報道された改正案がそのまま法令化されるとは限らない。しかし、改正案自体、かなりインパクトがある内容であり、もし、この内容が施行されれば、全国の卸売市場の事業者・開設者への影響は計り知れない。そこで本日は、第17回目のコラムまで5回シリーズで綴った「卸売市場の経営展望」の続編を、急遽差し込ませて頂く。

まずは、農林水産省の改正案の骨子を以下に整理する。

(1)は、これまで、中央卸売市場は、卸売市場法に基づき国の「認可」を受けて都道府県が開設する制度であったが、一定のルールを守る市場を国が「認定」する制度に変わることを意味する。中央、地方の区分はそのまま残すが、どちらに区分するかは、新たに設定される規模基準などに基づき国が判断するという。現在も、中央卸売市場では、取扱量などの下限基準が設けられており、基準を満たすことが困難で地方化を検討している中央卸売市場が多く存在することから、この度の制度改正に伴い、現在67箇所存在する中央卸売市場の数は、大幅に減少する可能性がある。

では、認定するための共通ルールとは何を意味するのか。共通ルールとは、①売買取引方法の公開、②差別的取扱いの禁止、③代金決済ルールの公表、③取引条件の公表、⑤取引結果の公表などである。②の差別的取扱いの禁止では、産地の出荷物の受入を拒めない、「受託拒否の禁止」原則が踏襲されることになる。また、④の取引条件の公表では、委託手数料や出荷奨励金など、実務的な内容まで含めて透明性を高めることとしている。共通ルールとは、一言でいえば、「公正で透明な取引」であると整理できる。

(2)は、これまで、中央卸売市場の開設者は、都道府県か人口20万人以上の市町村に限定されていたものが、地方卸売市場と同様に、民間事業者も開設者となれる制度に変更することを意味する。いくつかの中央卸売市場では、柔軟かつ活発な市場取引への転換をめざし、地方化・民営化を検討している例も見られたが、この度の制度改正により、中央卸売市場のままで民営化出来るルールになる。

なお、地方卸売市場の場合、現行法のもとでも都道府県知事の「認可」を前提に、民間事業者が開設者になることは出来るが、この度の改正では、「認可」ではなく「認定」されることになる。開設者になっている多くの市町の財政環境が厳しさを増す中で、今後は全国の地方卸売市場が、コスト削減が期待できる民営化に向けて大きく舵を切ることになろう。

(3)では、現在第三者販売、直荷引き、商物不一致は原則禁止であるが、どの市場においても、多かれ少なかれ行われてきたことであり、開設者が現行の市場法や条例を柔軟に解釈・運用する中で、卸・仲卸が行う行為を追認、あるいは黙認してきているのが実状である。これらの規制は法的に撤廃する一方で、市場ごとに自主的に独自のルールを定め、その内容の公表を義務付けるとしている。

市場ごとの独自のルールとは、何を意味するのであろうか。この点が、その実現性を含めて非常に不透明であると感じる。例えば、第三者販売を行う卸売会社も、直荷引きを行う仲卸も、開設者と市場関係者への報告を義務付けるといったものなのか。それとも、卸・仲卸が、運営委員会などの機能を活かして紳士協定を結ぶと言うイメージなのか。農林水産省としては、各市場の自主性に任せるという姿勢であるように思う。

生産サイドでは、卸売会社がJAの系統出荷での荷受けを強化している足元で、仲卸はJAの組合員を取り崩し組合員から直接荷を引くような動きが増えている。一方、販売サイドに目を転じると、コスト縮減と柔軟な取引を求め、仲卸を排除し卸売会社との直接取引を要請するスーパーも増えている。また、センターを持つスーパーは、産地からセンターへの直納を求め、伝票だけは市場を通すといった取引が既に中心になっている。法的な足かせがとれた場合、こうした行為はさらに助長され、もはや歯止めはかからないのではないかと考える。特に青果部においては、これまで親子の関係にあった卸・仲卸は、仁義なき戦いに突入することになろう。

農林水産省の基本的な考えは、現行の卸売市場法を廃止し、食品流通構造改善促進法に組み込むというものだ。この法律は、その名のとおり、食品流通の合意化が目的であるが、現行の卸売市場法が、食品流通の合理化を妨げるものと判断した結果と言えよう。この度の大改革案に対しては、与党や市場関係者からの慎重論・反対論が強いようだが、強い安倍政権のもと、実現に向けて早期に動き出す可能性もあると考える。なぜなら、社会・経済情勢が変化する中で、卸売市場の取引量は今後も減少することが確実であるし、現在の制度の中で市場関係者の経営状況がV字回復する見込みは立たない状況にあり、卸売市場法にメスを入れざるを得ない時代が到来しているからだ。

市場法改正の柱となっている「許可」から「認可」への転換とは、国は規制しないかわりに守ることもしないという意味だ。そして、競争原理・経済原理を最優先する中で、消える市場は消えてもらい、体力がない事業者は撤退・廃業してもらってかまわないと、暗に言っているのだと思う。さらに言えば、卸売市場はこれまで、食の安定供給という大義名分のもと、公的な役割を果たす拠点施設と位置付けられて来たが、もはやその役割は終わったと、国は考えているように思う。

さて、市場法改正の結果、今後の卸売市場は、どのように変貌していくのか。その姿は、私が第17号で書いた「卸売市場の未来予想図」と概ね同じではないかと考える。ちなみに、第17号で記載した未来予想図の骨子は以下のとおりである。それぞれの詳細については、17号を読んで頂きたい。

開設者、市場関係事業者は、当面市場法改正の動きを見守るしかない。しかし、その一方で、このような未来予想図を想定しながら、開設者は研究・検討を重ねる必要があろうし、市場関係事業者は集荷力・販売力、そして他社との経営統合も視野に入れて経営力を強化していく必要があろう。そのために残された時間は、ことのほか短いように思う。