第17回 | 2017.08.07

卸売市場の経営展望⑤
~卸売市場の未来予想図について考える~

これまで過去4回、「卸売市場の経営展望」というテーマに沿ってコラムを綴ってきた。今回はその最終回として、卸売市場が、これから10年後、20年後、どのような姿になっているのか、私が描く未来予想図について述べてみたい。

未来予想図を考える上で、最大の指針になるのが第13回のコラムで述べた市場法改正の動きであろう。全国の卸売市場で取引量が減少し、その社会的な位置づけや役割が減退している現状に対し、国がようやくメスを入れることになる。改正の骨子は、「第三者販売・直荷引き・商物分離の自由化」であり、これまで「特例」として行われてきたことが「公認」されることになる。もちろん全くの自由化という訳ではなく、様々な規程によってある程度縛りがかけられることになると思われるが、この度の改正によって、卸売市場の根幹をなす伝統的な取引形態が変わることになろう。

第三者販売及び直荷引きの自由化により、卸売業者も仲卸も、自ら荷を引き、自ら販売する訳であるから、卸と仲卸の業種の垣根がなくなる。しかし、力のない仲卸は自ら荷を引く力がないため、卸売業者か有力仲卸の傘下に入らざるを得ないし、さらに非力な仲卸は廃業を余儀なくされるだろう。また、仲卸に比べ経営規模が大きい卸売業者も安泰ではない。今後は、卸売業者だけでなく、仲卸とも荷の取り合いになることから、販売力がない卸売業者は生き残れないことになる。これまで仲卸との親子関係と仁義を守り、第三者販売を控え、荷受業務に徹してきた卸売業者ほど、その危険性は高いと言える。

こうした動向を踏まえると、卸売業者間はもとより、仲卸業者間の合併や資本提携が急速に進むことが予想される。さらには、卸売業者による仲卸の吸収合併や、仲卸による売買参加者の吸収合併なども進む可能性もあろう。卸売市場での取引は、成熟したビジネスであり、そのマーケットは一貫して縮小していく運命にある。その中にあっては、強くて大きい者が生き残り、弱くて小さいものは去っていかざるを得ない。これまでも、こうした動向が続いてきたが、市場法の改正により、自然淘汰が一気に加速することになろう。

商物分離の自由化とは、卸売市場が市場外取引を行うことを容認することを意味する。産地の荷は、卸売業者が帳合と物流車の手配を担うだけで、市場を通さず実需者に納品されることになる。こうした取引が拡大すれば、卸売市場の売場には荷が来なくなる。売場に荷がなければ、仲卸も買参人も荷を買い求めることは出来ず、商売は成り立たなくなる。したがって、仲卸自ら荷を引かなければならず、直荷引きはさらに拡大することになろう。

また、青果部においては、これまでも、第三者販売により、産地からの大手量販店のセンターへの直接納品が行われてきたが、市場法の改正により、こうした取引形態はさらに拡大することになろう。そうなると、大手量販店にばかり荷が集まり、スケールメリットにより価格優位性が向上し、中小量販店や小規模小売店との商品力の差が拡大することになる。この度の市場法改正においては、このような事態に陥ることを避けるため、売場に置くべき荷の割合や、商物分離取引のルールなどの規程が盛り込まれることになろうが、一度切られた堰は元に戻らず、その流れを止めることは出来ないだろう。

また、大手量販店のセンターは、卸売市場の開設区域外にあるケースも多いことから、センターへの直納取引が拡大することで、開設区域という概念自体がなくなる可能性が高い。既に有力な卸売市場においては、他市場の開設区域を侵食することを戦略の柱に据えており、今後は一層市場間競争が激化することになる。

都道府県や市が開設者となっている公設卸売市場において、力のない業者が消え、力のある業者のみが残り、開設区域内の住民への食糧の安定供給という社会的な目的より、区域を超えた企業間競争に明け暮れる時代がやってくる。外部環境が大きく変化する中で、こうした流れは時代の必然と言えようが、その場合、開設者の存在意義自体も希薄になることに加え、開設者が敷地を提供し施設を整備する理由づけも希薄になる。限られた事業者の利益追求のために、これ以上行政機関が予算を投下し続けていくことは、県民・市民への説明が困難になろう。

しかし、卸売市場が社会に果たしている役割は依然として大きく、全国の産地も小売店も消費者も、卸売市場なくして生きていくことは出来ない。かつてどなたかが声高に叫んでいた、卸売市場不要論などは、全く流通実態を知らない者の暴論に過ぎない。では、10年後、20年後の卸売市場の未来予想図をどのように描くか。これもまた暴論になる可能性が高いが、以下に私が思うところを述べてみたい。

先ずは、市場法の改正に伴い、中央卸売市場と地方卸売市場の区分がなくなるのでないかと予測する。これまでは、前者は国が所管し、取引規程などが厳格であったのに対し、後者は県が所管し、それらは比較的緩やかであった。市場法改正の内容にもよるが、自由化・規制緩和が進むことによって、実質的に、中央では出来ないこと、地方でしか出来ないことの違いが曖昧になってくるであろう。両社の違いが曖昧になれば、将来的には法的に中央・地方の区分自体も撤廃するような政策的な動きも出てくるものと思われる。中央卸売市場の看板があってこそ、産地や実需者の信頼を得られると思っている市場関係者は多いが、これまで弊社が行った調査によれば、産地も実需者も、中央という看板にこだわっていないことが判明している。

次に、市場取引と市場外取引という区分がなくなると予測する。既に有力な仲卸は、産地と加工業務用の実需者を結ぶ市場外取引を進めている。一方、主要青果物の過半以上が加工業務用に仕向けられており、卸売市場が主として取り扱ってきた一般小売用のマーケットは縮小する傾向にある。こうした消費動向の変化を踏まえ、産地と太いパイプを持つ卸売業者や納め業務を行う仲卸業者は、市場法の改正を追い風に、加工業務用の市場外取引に力を入れることになろう。そうなると、卸売市場が公然と市場外取引を行うことになる。

また、公設公営から公設民営へ、さらには民設民営へと整備・運営手法が変化するものと予測する。先に述べたように、市場関係者の淘汰が進み、強い一部の事業者しか残らず、取引の広域化が進み、開設区域という概念自体がなくなり、市場外取引が公然と行われるようになれば、開設者である都道府県や市は、卸売市場に予算を投下し、職員を配置して管理することに対する大義名分がなくなる。既に、多くの地方卸売市場にあっては、PFIやPPPなどの民間資金を活用した整備手法や、卸売業者を核とした管理会社設立による指定管理者制度の導入も検討されている。既に有力な卸売業者や仲卸は、自ら多大な設備投資をしていることを踏まえると、将来的には、公設卸売市場はなくなり、全て民設民営市場に移行することも考えられる。

ちなみに、新たに整備される卸売市場は、完全閉鎖型で、最新の物流システムが導入され、全てがIT管理されるような施設となろう。なぜなら、これまでのような平屋建て開放型で温度管理・在庫管理が困難な施設は、民間企業が整備する流通センターと比べると、機能・システムなどの面であまりに古く、時代にそぐわない施設であるからだ。ビジネスの高度化が急ピッチに進行する中にあって、50年以上も前に設計された古典的施設が、今後の経済情勢の変化に対応できるとは考えられない。

そして最後に、民間商業施設との一体型の卸売市場が数多く誕生するものと予測する。多くの卸売市場の老朽化が進み、建て替えを検討する局面を迎えている。一方、市場での将来的な取引量はさらに減少することが予測されることから、これまでのような広い敷地や施設は必要ではないと判断できる。そこで、現在築地で検討されているように、市場用地の一部を除外して、民間の商業施設などを誘致し、土地の賃借料あるいは売却費を持って、市場施設を建て替えるための財源に充てるような事業スキームが考えられる。また、このスキームでは、商業施設の一角に、築地の場外市場のようなイメージで、買参や仲卸の商業集積ゾーンを整備したり、商業施設の核店舗になる食品スーパーへ卸売市場から商品を直納するような仕組みも考えられる。つまり、卸売市場と商業施設を一体的に整備することで、地域における食のテーマパークを創造するという考え方である。

いずれの未来予想図も、全国の動向を分析したもので、私なりに根拠のあるものである。しかし、今後の国の政策や社会・経済情勢の変化によって、それぞれの予想図がいつ、どうようなかたちで具現化するのかわからない。はっきり言えることは、卸売市場は、ハードもソフトも今後様々にかたちを変えるだろうが、日本の社会の中で常に必要不可欠な存在であり、永遠に不滅であるということである。