第16回 | 2017.07.31

卸売市場の経営展望④
〜水産部の基本戦略について考える〜

本日は、前回のコラムの続編として、卸売市場の水産部の基本戦略を考える上において、特に重点を置くべき点について述べてみたい。漁獲量の減少、魚食文化の衰退、大型量販店の台頭と専門小売店(魚屋)の廃業など、取り巻く環境が一段と厳しさを増す中で、青果部と同様に、水産部の基本方針も、①集荷力の強化、②販売力の強化、③機能力の強化、そして④組織力の強化が四本柱になると考える。

青果部の取扱い品目が野菜と果実に区分されるのに対し、水産部は、鮮魚、冷凍、加工(塩干類など)に区分される。このうち、冷凍品、加工品については、一般の食料品と同様に、商社などを通して同類の商品が全国どこででも流通されていることから、市場経由率は低く、卸売市場においては商品面などでの差別化は難しい状況にある。かつては、マグロをはじめとした冷凍品をいかにストックして安定供給できるかが、卸売市場の基本戦略の柱になっていたが、昨今は、ストックを持たない流通が主流になっており、冷凍品では優位性を発揮しにくい状況にある。

したがって、水産部の集荷力の強化においては、鮮魚の集荷戦略に重点が置かれることになる。築地市場の最大の強みは、全国から集荷する鮮魚の魚種と物量が、他市場に比べ圧倒的に豊富なことにある。鮮度管理が重視される鮮魚の集荷力を高めるためには、卸・仲卸の連携を強化して、集荷から販売までの効率的な商流・物流ルートを構築し、適正価格を維持できる体制づくりを進める必要がある。また、鮮魚の場合、大漁・不漁の変動が大きいことから、卸売市場には柔軟な需給調整機能が求められる。

鮮魚の場合、JF及び産地市場から消費地市場までの流通ルートが特定の事業者により固定化されている傾向が強く、新たなルートを開拓して集荷を拡大することは容易ではない。一方、産地では、漁業者の減少に伴い、JFによる定置網漁や巻き網漁などの自営事業や、養殖や活魚事業などが拡大傾向にあることに加え、荷捌き施設の高度化などを進める動きが見られる。また、固定的な買い付け人による浜買いによって安値取引が続いてきた歴史を変えようと、新たな有利販売先を模索する動きも見られる。

そこで、こうした産地の動向をいち早く察知し、早い段階から産地の取組みを支援することが、卸売市場の集荷力強化に向けた一つのポイントとなろう。産地に対する具体的な支援策としては、例えば、定置網で水揚げした魚の丸買いや、養殖魚の契約的取引、ブランド化に向けた販売促進策の展開、配車の手配による新たな物流システムの構築などが考えられる。いずれにせよ、卸売業者が、各産地の取組み動向に対し、広くアンテナを張り巡らし、タイムリーな提案をし続けていくことが集荷力強化に向けての鍵となる。

一方、販売力の強化のためには、青果部同様、量販店対策に重点を置かざるを得ない。しかし、多くの量販店では、商品の差別化や幅広い品揃えよりむしろ、安定した価格、さらには安値での提供を求める傾向にある。したがって、取り扱う魚種が絞り込まれ、どんなに大量でも、一定の数量しか買い取ってもらえないケースが多く、大手の量販店ほどその傾向が強い。

鮮魚はその時々によって、大漁・不漁があり、天候によっては漁自体が出来ないといったことは日常茶飯事である。そこで、こうした供給状況に対し、融通が利く中小規模の量販店や、対面販売などによって売り切る力を持つ専門小売店、さらには臨機応変なメニュー対策をとれる飲食店などの顧客をどれだけ持っているかが、卸売市場の販売力の指標となる。水産部は、青果部と比較し、買参人や買出人の取扱比率が依然として高いことが特徴であり、これらの事業者を確保・育成することが、販売力の強化に直結することになる。

産地としても、大規模量販店だけを志向しているのではなく、中小規模の事業者であっても、丁寧な売り方をしてもらえる顧客を求めている。したがって、地魚フェアや産地フェアなどのプロモーションを展開するなど、個人飲食店や専門小売店などの顧客を産地と結びつける取組みは、効果的な販売力の強化策になるものと考えられる。

大手の量販店では、商品の差別化と鮮度の向上を目的に、JFや産地市場との直接取引に力を入れた時期が見られた。しかし、いくつかの量販店がチャレンジしたものの、そのほとんどが失敗に終わった経緯がある。青果物については、既に契約的な取引を前提に、実需者と産地などと直接取引が進展している。一方、鮮魚の場合、極めて不安定な供給状況にあることから、量販店などが自ら需給調整することは困難な状況にある。したがって、養殖ものなど安定供給が比較的容易な魚種を除き、鮮魚の直接取引が拡大するとは考えにくい。

販売力の強化の一環として、輸出戦略があげられる。農産物と異なり、水産物の輸出は既に、多くの産地市場で取組実績がある。私が知る産地市場では、漁連経由の多様な魚種を冷凍し、船便で東南アジアに向けて、毎年数億円単位で輸出しており、引き合いは増加傾向にある。輸出した水産物は、東南アジアのマーケットだけでなく、内陸ルートを通って中国でも消費されているようだ。また、インバウンドの増加に伴い日本の魚食が見直されていることから、高級魚や加工品に対する海外での需要も増えており、今後は空輸による輸出戦略も期待できよう。

輸出に対応できる市場とするためには、輸出先国の衛生管理基準をクリアできる加工・保管機能の完備、円滑かつ効率的な輸出入手続きが可能な通関機能などの充実などが必要になる。また、ソフト分野では、実績がある商社や物流会社の確保、海外見本市や海外のバイヤーの招聘、輸出を担う仲卸の育成、さらには輸出対象産品を出荷する国内産地との連携強化などが必要になろう。いずれもハードルは高いが、海外にニーズがある限り、チャレンジする価値はあると考える。

機能力の強化に向けては、青果部同様に、コールドチェーンの充実と加工機能の強化が二本柱となろう。総じて量販店は、作業の効率化やコストダウンを目的に、パック商品で納品させるアウトパック化を進める傾向があると言われている。したがって、卸売市場では、加工機能の強化を図ることが、機能力向上に向けた基本方針と言えよう。

話は変わるが、消費者、特に若者の魚離れが言われて久しいものの、実は日本人は魚がとても好きだと思う。確かに、惣菜や冷凍食品、刺身など調理の手間がかからない商品を好む傾向は見られるが、歳をとるに従い、総じて肉より魚を好み、旬の鮮魚のおいしさに魅了されるようになる。私がその典型であると言えよう。ただし、家庭で三枚に下ろすところから調理するかと言うと、そうした習慣は激減している。私自身は、出刃包丁もあじ捌き包丁も持っており、そこそこの腕はあるものの、キッチン全体が臭くなるとの理由から、妻は家庭で調理することを嫌う。したがって、店で捌いてもらって購入するか、切り身や刺身の商品を購入するケースが多くなる。

統計的な確認をした訳ではなく、私の感覚による話であるが、このような消費者ニーズに対応できる専門小売店がテナント出店している量販店などは、依然として水産物の売上は好調なように思える。ちなみに私は、全国屈指の仲卸が直営店を出店している量販店の常連客である。こうした状況を踏まえると、量販店でのアウトプット化が今後も続くとは言えない面もあると考える。

一方、コールドチェーンや加工機能については、低温売場や加工場の整備だけでなく、市場全体の衛生管理体制の強化が問われていると言えよう。あるバイヤーの話であるが、ネズミが出るような築地市場には、衛生上加工事業は任せられないという。築地のように、どれだけブランド力がある市場でも、老朽化に伴い衛生管理が出来ない市場に未来はない。私は、かつての豊洲移転の論争時から、順次改築を重ねても、衛生管理の問題が付きまとうことから、築地では卸売市場としての未来はないと考えていた。

機能力の強化においては、冷凍冷蔵庫や製氷所についても触れておく必要があろう。これまでは、どの卸売市場の水産部においても、冷凍冷蔵庫は商品を保管し、需給調整を行うために必要不可欠な施設として、全国各地で第3セクター方式により整備・運営されてきた経緯がある。しかし近年は、流通コストを削減するため、卸も仲卸も在庫の圧縮に努めていることに加え、取引量は減少傾向にあることから、冷凍冷蔵庫の利用率は低下する傾向にある。一方、製氷事業については、仲卸が小型で安価な製氷機を自社で導入するケースが増えており、共同事業自体が成り立たない状況に陥りつつある。

こうした背景から、冷蔵事業などを担う第3セクターは軒並み大幅な赤字経営を強いられており、その多くが経営再建に向けた道筋を付けられない状況にある。市場関係者のために、市場区域内に整備された施設で、多分に開設者の資金が投入されているため、柔軟な対応が出来ないことが経営改善を阻む要因となっている。施設の老朽化に合わせて規模の縮小あるいは撤去、第3セクターは解散などの措置をとるか、利用規程を根本的に見直し、例えば外部事業者へ賃貸するなどの運用方策を検討する必要があろう。

組織力の強化に向けては、販売力の強化で述べた買参人や買出し人の確保・育成が鍵になる。青果部と同様に、組合の力が強く、保守的な体質を持つ卸売市場では、組合に新規加入させること自体に抵抗する勢力が存在する。組合員が増えれば、パイの取り合いが激化し、自分の取り分が減ると考える事業者が多いためだ。仲卸組合でも同じ体質にあり、仲卸棟が歯抜け状態になっているにもかかわらず、新規参入者を拒む傾向が見られる。その結果、市場全体の販売力と集荷力が減退し、取引量は減少の一途を辿ることになる。

経営展望を作成するにあたっては、仲卸業者や買参人を対象にアンケート調査を実施し、今後の経営意向を把握する。その結果を見ると、10年後には経営規模を縮小する、あるいは廃業するなどと回答する事業者が実に多い。実は、このように回答している事業者が抵抗勢力の中核をなしている。やる気のない者、未来を描こうとしない者とも、共にビジョンを描こうということ自体に無理がある。これが水産部、青果部を問わず、卸売市場が衰退する根本的な原因であろう。開設者は、弱い者、去ろうとする者も含めて市場関係者全員を守ろうとするが、それによって、やる気がある者まで負のスパイラルに巻き込んでしまうことは罪悪である。

卸売市場は、あくまで弱肉強食のビジネスの戦場であり、福祉施設ではない。私は、中小企業の社長として、やる気のない者、弱い者とは決して組まない。そんなことをしたら、会社は衰退することは確実で、従業員とその家族の夢と生活は守れない。生き残りたい者は、やる気のある者、強い者と組むことがビジネスの原則である。そうした者同士だけで、切磋琢磨することを前提に、ビジネスレベルで連携していくことが、組織力強化のポイントであると考える。