第15回 | 2017.07.24

卸売市場の経営展望③
~青果部の基本戦略について考える~

前回のコラムでは、卸売市場の経営展望の基本方針は、①集荷力の強化、②販売力の強化、③機能力の強化、④組織力の強化の4つであると述べた。しかし、青果部と水産部とでは、4つの基本方針は変わらないものの、基本方針を踏まえた戦略の内容は大きく異なる点も見られる。そこで、今回は、青果部の基本戦略や行動計画の策定にあたり、特に重点を置くべき内容を述べてみたい。

集荷力の強化では、市場が団結して産地との取引パイプをいかに太くしていくかがポイントとなる。近年産地は、出荷する市場を絞り込む傾向が強いが、絞り込みのポイントは、安定した取引量、価格形成力、そして信用力であろう。特に、相対取引が主流である昨今、産地は、どこのスーパーに、どれだけ、いくらの価格で売ってくれるのかと言う情報を求めている。また、A品が高値で売れるのは当たり前で、B品、C品相応の価格で安定的に買い支えてもらえる市場を求めている。

こうした産地ニーズに対応するためには、卸売業者が確実でかつ多様な売り先を担保して荷受け業務にあたる必要がある。しかし、販売を担う仲卸が脆弱だと、売れ残りが怖くて、卸売業者は荷を受けたくても受けられず、取引が不安定になり、結果として産地からの信用を失墜させることになる。また、口約束を信じて卸売業者が荷を引いてきても、物を見て約束をたがえるような仲卸も多い。仲卸が売ってくれないのなら、卸売業者は第3者販売を強化せざるを得ないが、現在の市場法のもとでは限界がある。こうした状況が繰り返されることで、その市場の集荷力は年々減少し、品揃えを力のある市場からの転送に頼らざるを得ず、価格形成力は低下することになる。

このような状況を打開するためには、卸売業者と仲卸業者、及び力のある売買参加者がプロジェクトチームをつくり、産地・産品、数量、規格、価格などの取引条件を定め、各社の引き受け数量を定めた上で、引いてきた荷は必ず買い受けるというルールづくりを進めることが重要である。また、こうしたルールのもと、産地への共同営業を行い、それぞれが販売先や販売手法を産地に明示して交渉にあたることが効果的である。

しかし、理屈はわかっても、これがなかなか実現出来ない。その理由は、仲卸同士は競合関係にあり、自らの顧客情報は出さないばかりでなく、お互いが狸と狐の化かし合いのようなことを繰り返してきたからである。それが卸売市場の本質であり、右方上がりの時代は活力向上につながっていた経緯もあるものの、時代が変わりつつある昨今、根本的な考え方を変えないと共倒れになる危険性がある。

具体的には、トマト、レタス、いちごなどの大型商材を対象とした品目別部会の設置から始めたい。品目ごとの毎月の取引量を半年単位で定め、卸売業者はそれに併せて、産地に営業をかける。気象条件などにより市況は乱高下するし、品質低下などの危険性もあり、卸売業者も仲卸業者もリスクを抱えることになるが、リスク回避ばかりを考えていても、産地からの信頼は得られない。困難な状況でも買い支え、産地を支援するという姿勢を卸売市場が一丸となって示すことで、市場への信頼が高まり集荷力の向上につながる。

販売力の強化については、量販店対策に重きを置かざるを得ないが、その中で最も大切な顧客は地場密着型のスーパーであろう。これまでは、卸売市場と地場密着型のスーパーとは蜜月関係にあったが、イオンやイトーヨーカ堂など、業界のガリバーによる寡占化、系列化が進む中で、地場密着型スーパーも苦戦を強いられているところが多い。したがって、特色ある品揃えや効果的な販売促進活動などにより、地場密着型スーパーを支援し、共に発展する道を探る必要がある。一方、地場密着型スーパーの立場で考えると、これまで良好な取引関係にあったとしても、十分な品揃えが出来ない市場は見限らざるを得ず、不本意ながら遠方の有力卸売市場に頼らざるを得ない。

一方、大量取引が可能な大手量販店は、やはり重要な顧客である。しかし、大手量販店の場合、本部一括仕入れ、センター納品が基本であり、卸売市場が主導権を取りにくい状況にある。また、取引量が多いため、10tトラック単位で産地からセンターへ直接納品を要求されるケースも多いことから、商物一致を原則としている卸売市場は、本来の役割を十分に果たせない環境にある。したがって、一部の中央卸売市場が取り組んでいるように、市場自体が特定の量販店のパッケージセンターとしての機能を担うなど、大胆な戦略が求められる。ちなみに、市場法改正により商物一致原則の緩和が実現した場合、こうした足かせがなくなることから、卸売業者にとっては、手数料率のさらなる低下を招く可能性もあるものの、大手量販店との取引拡大のチャンスとなろう。

学校給食や産業給食、福祉施設などの業務用の実需者も有望な顧客である。八百屋を営む売買参加者は急速に減少したが、こうした実需者への納め業務を併せて行ってきた事業者は、未だに元気があるところも多い。一方、業務用の顧客としては、飲食店・居酒屋・宿泊施設などがあげられるが、こうした顧客一軒一軒の取引量は非常に少ないことに加え、取引には常に、倒産・貸し倒れなどの高いリスクが付きまとうことから、新規取引には慎重にならざるを得ない。

惣菜や漬物などの加工業者も今後開拓すべき顧客であろう。しかし、大手のメーカーは、限られた品目の大量取引が基本であり、産地からの直納を基本とした物流・商流体系は既に出来上がっていて、卸売市場が新規に参入する余地は少ない。そこで、地域の中小メーカーをターゲットにしたいところであるが、こうしたメーカーは、飲食店と同様に、多品種少量取引が基本で頻繁に納品することが求められることから、柔軟な機動力と効率的な物流網を持つ仲卸業者でないと、逆ザヤになる可能性がある。

このように、販売力の強化は、非常に難しい取組課題であるが、多様な顧客とニーズが存在することも事実である。卸売市場の従来のマーケットが縮小の一途をたどる中で、リスクを負い、新たな投資をしてでも、新たな販路開拓や取引拡大に果敢に挑戦していかなければ、生き残ることが困難な時代が到来していると言えよう。

機能力の強化では、先ずはコールドチェーンの充実が前提となる。豊洲市場のように完全閉鎖型による温度管理が出来ることが理想であるが、築30~40年を経過している既存の市場施設を改築して閉鎖型にすることは、予算的にも物理的(構造的)にも先ず出来ないであろう。そこで、卸売業者がカーテンレール方式など比較的簡便な整備手法により、温度管理が出来る売場の面積を、計画的・段階的に拡充させていくことが適当であろう。

また、スーパーのアウトパック化が進展する中で、卸売市場における加工・物流機能の充実は必要不可欠な取組課題となっている。この作業は従来、仲卸業者が荷捌き施設で行ってきたが、時代の変化に伴い、スーパーのニーズに対し、施設の規模・機能が不足しているのが実状である。スーパーのアウトパック化に対応するためには、搬入、保管、袋詰め、仕分け、配送という、パッケージセンターと同様の作業が発生するため、相応の施設面積と作業効率を上げるための機器の導入が必要となる。

そのために、開設者に施設を整備してもらうことが理想であるが、どの自治体も財政環境が厳しさを増す中で、容易に進む話ではない。そうであれば、仲卸が、定期借地権契約により市場内に自ら荷捌き施設を整備するか、市場外に自らセンターを整備することも検討するべきであろう。実際に、伸びている仲卸業者の多くは、こうした投資を行っている。荷捌き施設が出来ないことを全て開設者のせいだと決めつけているような仲卸業者は、今後生き残ることが困難であると思われる。

青果部の機能力の強化では、コールドチェーンへの対応と荷捌き施設の拡充が二本柱であろう。これらを検討するにあたっては、場内動線の整理と施設の利用ルールの明確化が重要である。施設内においては、商品の荷受・保管・売場やパレット置き場、荷捌き作業のための許容範囲などを明らかにする必要がある。また、駐車場においては、特定の事業者の既得権にならないよう、利用する場所や時間帯などのルールを定めることも重要であろう。卸売市場は、総じて広大な敷地と十分な施設面積を持っている。現在の利活用状況を整理し、利用ルールを定めることで、施設も駐車場も余裕が生まれるのではないかと考える。新たな施設整備を考える前に、今あるものを見直し、活かすことを考えたい。

組織力の強化においては、集荷力の強化で述べた品目別部会の設立のように、同じ目的のもと、卸・仲卸・買参人の3者がビジネスを前提とした新たな組織をつくることから始めたい。この際重要なのは、あくまでやる気がある有志による組織づくりを進めることで、市場関係者の全てを巻き込むような組織としないことだ。平等主義を政策の基本とする開設者にとっては不満であろうが、事業者によって思惑も力量を異なる中で、全ての関係者が合議制で組織運営にあたっても、うまく行くはずがない。先ずは、有志によって成功モデルをつくり、その成果を示すことで、後から希望者の参加を促せばよい。

組織力強化の2つ目のポイントは、新規の仲卸・買参人を積極的に受け入れる開かれた風土をつくることだ。仲卸も買参人も、それぞれ組合があるが、新たな加入は市場内競争を激化させるだけだという古い考えを持つ組合員が多い。その結果、高齢化や経営不振により、組合員が減少して市場全体の販売力が低下し、それに伴い集荷力も低下することで、自らの経営をより厳しいものにしているという現状をしっかり認識しなければならない。

3つのポイントは、次世代を担う若手の登用と活動の場の提供である。全国の農村は、担い手の高齢化が進み、世代交代が進まず、地域活力の低下を招いている。卸売市場も農村と同様、経営陣の高齢化が進んでいることに加え、古い歴史と伝統的な商売の上に築かれてきた場所故に、若手が口を出せないなど、老害を生みやすい環境にある。未来を切り拓く者は、いつの時代も高齢者ではなく若者達である。ましてや有事とも言える環境に置かれている卸売市場にあっては、斬新な考えを持つ若者達の頭脳と行動力が必要不可欠である。そこで、例えば、重要な検討会のメンバーに加えたり、市場祭りなどの特定のプロジェクトを一任するなど、若手人材の積極的な登用を図りたい。

今回は、青果部の基本戦略・行動計画を策定する上でのポイントを整理した。その中で、最大のポイントは、従来のように課題を整理し、課題解決型の計画をつくるのではなく、これまでとは違った発想で、新たなビジネスの創造をめざす計画づくりに重点を置くことだと考える。