第191回 | 2014.06.02

JAグループと連携しよう! ~Aコープとファミマが一体的店舗を全国展開~

JA全農とファミリーマートは、包括的な業務提携のもと、Aコープとコンビニエンスストアの複合店舗を全国展開すると発表した。5月31日には、愛媛県伊予市で1号店を開店することを皮切りに、今後3年間で30店舗まで増やす計画である。1号店の特徴としては、地場野菜などの直売コーナーの設置、全農ブランドなどのオリジナル商品や精肉・鮮魚など生鮮食品の品揃え強化、地域の会合にも使用できるイートインコーナーの設置などがあげられる。

店舗の開発手法は、中規模以下のAコープの店舗を改装するなど、JAグループの資産の有効活用に視点をおいたものだ。Aコープは現在、全国に531店舗を持ち、これまで農村地域のライフラインの役割を担ってきたが、経営状況は年々悪化の一途をたどってきた。閉店を余儀なくされる店舗も多く見られたが、店舗の閉店が一層の活力低下や過疎化を招く地域も見られる。一方、全国で10,635店舗を展開するファミリーマートの業績は、依然好調であるが、競合企業が店舗の差別化戦略を展開する中で、新たな業態店の開発を模索していた。

この度の包括的業務提携では、買い物弱者が多い地域での移動販売店の運行にも取り組む。既にローソンなどが試験的に取り組んでいる、こうしたサービスは、過疎化・高齢化が進む地域におけるニーズが、確実に高まっていくことが予想される中で、地域貢献というJAグループの社会的使命を果たす上でも重要であろう。また、伊予市の1号店のように、イートインコーナーをコミュニティースペースとして活用することで、地域の高齢者などのサロン的な利用も期待できる。

また、国産農産物を活用したオリジナル商品の開発にも着手する。JAグループでは、農産物原料の調達網を活かせることに加え、確実な売り先が確保できることから、スケールが大きいバリューチェーンシステム(付加価値連鎖)を創造できる可能性は高い。Aコープはこれまでも、『安全で健康を守る』というコンセプトに基づいて、独自の品質基準を作り、環境問題にも配慮した商品を「エーコープマーク品」というブランド名で販売してきたが、今後は惣菜類など、ニーズの高い商品分野の開発にも力を入れて欲しいと思う。

さらに、台湾を中心に海外展開しているファミリーマートの店舗では、国産の農畜産物や加工品を販売する構想もある。全国の産地で、農畜産物の輸出に向けた取組が活発化しているが、その多くは、海外の有名百貨店などに限定した販路での展開や、単なるプロモーション活動に留まってしまっている。この構想が実現すれば、継続性・発展性が高い輸出事業の展開が期待できる。

JAグループは、かねてから民間企業との包括的な提携を、経営改革のテーマとして掲げていた。しかし、協同組合法に基づいて設立されたJAグループにとって、利潤追求が目的となる民間企業との垣根はとても高かったのだろう。この垣根を排除して手を結んだことは、称賛に値するビッグニュースである。一方、コンビニエンスストアは、地域の生活拠点として定着し、地域貢献型の運営が社会的使命となりつつあり、JAもコンビニ大手も、同じベクトルを志向する時代が到来したと言える。

この10年間、農商工連携は、一貫した政策テーマであったが、思うような成果は出ていない。JAグループとファミリーマートは、より一層の相互理解を深め、単なる複合店舗の展開に留まらず、農商工連携による多様な事業展開を進めて欲しい。そして2者の取組がモデルとなって、全国的に農商工連携の活発な取組につながることを期待したい。

昨年弊社は、農林水産省からの補助を受けて、食品事業者が主体となって産地に働きかけることで、新たなバリューチェーンを構築していくための手法について、調査・研究を進めた。その中で私が特に感じたことは、お互いの価値を知り、認め合う姿勢が、バリューチェーン構築のための、最初の第一歩になるということだ。農業関係者は、商工業者のことをよく知らないし、知る努力が不足している。商工業者もまた同じことが言える。お互い素晴らしい価値を持っていても、知る努力、認める努力を怠っているために、チェーン(連鎖)に結びつかない。資本主義社会が成熟した今日、農業と商工業、農村部と都市部が、連携しながら新たな価値創造を目指すことが、時代の必然性であると思う。なお、昨年度の事業成果である「食品事業者のためのバリューチェーン構築の手引き」は、流通研究所のホームページにアップしているので、参考にして欲しい。

前回のコラムでも特集したように、JAグループは、これまで、再三にわたり、社会的なバッシングを受けて来たし、国の規制改革会議からは、JAグループ解体に向けたスキームまで突きつけられた。こうした記事を見て、「さもあらん」と、したり顔の方も多いと思う。しかしJAグループは、現在も日本の食糧自給を担っており、全国に張り巡らせた高度な流通システムを持っている。また、農村部では、血管のように細部まで伸びる組織網や、地域のよりどころとしての求心力を持っている。未だに日本の農業・農村にとって必要不可欠な存在であり、その社会的資産は計り知れないものがある。どんな大企業も生み出せない価値をJAグループは持っている。全国の企業は、JAグループについて、もっと研究し、JAグループが持つ価値を活かし連携することを考えて頂きたい。