第164回 | 2013.10.16

6次産業化・農商工連携の究極のシステム ~とみうら枇杷倶楽部の視察より~

先日、沖縄県読谷村の視察研究のコーディネーターとして、千葉県南房総市を訪問した。この度の視察のメインテーマは加工事業であり、びわを原料とした枇杷倶楽部の取組に重点をおいて研修させて頂いた。南房総市とは、長年に渡り仕事をさせて頂き、全国的にあまりに有名な枇杷倶楽部の取組などについても熟知しているつもりだった。しかし、改めて担当者の話を聞き、現場を見て、この仕組みのすごさに驚嘆するばかりだった。

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(道の駅「とみうら枇杷倶楽部」)

その内容については、様々な教科書に記載されているが、私見を含め概要を示す。ビジネスモデルを単純化すると、地域特産品であるびわを原料に、道の駅を運営する第3セクターが、ジャムやシロップ漬けなどを自社製造する一方、びわジュース・びわゼリー・びわカレーなどを食品メーカーに製造委託して、枇杷倶楽部のブランドで、道の駅やアンテナショップなどで販売するというものだ。

先ず第一の特徴は、地域では温暖な気候を背景に、様々な果実や野菜が生産されている中で、「びわ」という原料に絞り込んだ加工事業を行っていることだ。関東ではこの地域がダントツの産地であったこと、多くの農家が大なり小なりびわを栽培していたこと、びわという商品に地域住民全員が愛着と誇りを持っていたこと、生産量の約3割が出荷できない規格外品であったこと、などからびわに特化した加工事業に着眼した。

全国的な取組を見ると、地域で出来る様々な農林水産物を加工・製品化して売り出そうと考える地域は多いが、概ね失敗に終わっている。これは、原料の安定的な調達体制が組めないこと、原料自体にブランド力がないこと、製品自体もブランド力を発揮できないこと、などが理由である。地域ぐるみで合意形成ができ、認知度が高く、安定的な供給が可能な地域資源は「キラーコンテンツ」などと呼ばれているが、こうした原料を核に、多様な商品を開発する手法をとったのが枇杷倶楽部の特徴であり、勝因と言える。

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(道の駅内の加工場)

これまで廃棄していた規格外のびわを買い取ってもらえるのだから、地域の農家はこれほどありがたいものはない。規格外品は、その品質レベルを踏まえA、B、Cの3つのランクに選別され、買取価格が設定されている。Aランクは、びわのかたちが残るシロップ漬けのビン詰め商品となり、Cランクはピューレ化してゼリーやジュースなどの商品となる。なお、買取価格は毎年の作況や市況を踏まえ、柔軟に設定されている。

近年では、剪定の時に出る「びわの葉」を1kgあたり500円で買い取っている。びわの葉を活用し、お茶や入浴剤など様々な商品が開発され、販売されている。とことんびわにこだわり、産業廃棄物である剪定時の葉っぱにまで目をつけるという発想は、なかなか持てるものではない。

視察では、びわの実と葉を保管している低温冷蔵庫を見せて頂いた。びわは、5月上旬から6月上旬までの1ヶ月間しか収穫できない。この時期に買い取ったびわを、ここで大量に保管し、一年を通して計画的に加工に回すという方法である。ブランド力の維持と競合回避のため、この原料は枇杷倶楽部の製品にのみ活用し、他のメーカーには販売しないルールになっている。この冷蔵庫の中身がまさに枇杷倶楽部の財産であると、担当者は語った。
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(びわ原料の保管倉庫)

製造方法は、自社製造、委託製造の双方を採用している。自社製造は、道の駅「とみうら枇杷倶楽部」に併設されており、主として手作業で、シロップ漬けやジャムに加工されている。加工場も見せて頂いたが、規模は小さく、機械設備も限られている。他の商品についても自社製造することも考えられるが、投資対効果や自社製造の様々なリスクを勘案し、委託製造方式を選択した。農商工連携という御旗を掲げつつ、商品企画と原料供給は枇杷倶楽部が担い、製品の販売も枇杷倶楽部が行うことで、安定した経営と品質の高い商品づくりに成功している。

加工事業を行う場合、陥りやすい穴は、地域雇用の確保という目的を優先するあまり、全てを自社製造しようと考えることだ。新商品が思ったより売れない、年間を通した製造ラインが組めず周年雇用体制を維持できない、製造技術や製造能力が不足して高品質でかつ適正価格の商品ができない、など加工事業には様々なリスクが存在する。これを回避するために、自社製造と委託製造を併用することを英断する必要があろう。

枇杷倶楽部の加工事業の成功要因として、原料・商品のブランド化に加え、地域のブランド化に力を入れた点も欠かせない。もともと風光明媚な南房総市は、首都圏近郊の観光地として多くの観光客でにぎわっていたが、アクアライン及び高速道路の開通により、宿泊客が激減した。そこで、町村合併前から、道の駅という日帰り型の拠点を整備し、経済活動の拠点にしていくという基本政策を進めてきた。現在市内には8箇所の道の駅が整備されているが、その中で、道の駅「とみうら枇杷倶楽部」は、加工品の開発・製造・販売拠点という位置づけにあり、大ヒット商品であるびわソフトを販売する軽食コーナー、びわ加工品を中心とした特産品売場、びわカレーを提供するレストランで日々情報発信を行いブランディングに成功している。

また、枇杷倶楽部は、「一括受発注システム」という名の旅行代理店事業を行っている。枇杷倶楽部で地域の団体・企業を組織し、例えば、びわ狩り体験+飲食+宿泊+地域観光などの旅行企画を立てる一方、旅行代理店からの受注を一元的に受け、ツアーのコーディネートまで行う仕組みである。この仕組みにより、観光産業の維持・拡大を実現しているとともに、地域全体のイメージや認知度向上に成功している。こうした観光事業の取組が、加工品のブランド力向上・売上アップにつながっている。

視察に回っていた当日も、テレビ局が取材に来ていた。観光地としてだけでなく、地域活性化の成功事例として、南房総市は全国的に有名になった。この地域でつくりあげた仕組みは、非常に参考になる。しかし、果たして他の地域で、同じことができるだろうか。現在の南房総市の仕組みをつくりあげることができた最大の要因は、間違いなく人材である。カリスマと言われた行政マンと、深夜労働・休日出勤も厭わない熱き職員達、そしてそれを支援した著名なコンサルタントなど、多くの有能な人材が、不退転の決意のもと長い年月をかけて思いをかたちにしてきた。人が商品をつくる、仕組みをつくる、そして地域をつくる。当たり前だが、これが加工事業においても、最も需要な点であることを心に刻み付けて頂きたい。