第116回 | 2012.10.15

6次産業化の現状と展望 ~農業・農村の6次産業化総合調査結果より~

先般農林水産省大臣官房統計部から、平成22年度の農業・農村の6次産業化総合調査結果が公表された。この調査は農業経営体及び農協などによる農産物の加工、直売所、観光農園、農家民宿、農村レストランを「農業生産関連事業=農業・農村の6次産業化」と定義し、その動向を統計的に整理したものである。

平成22年度の全国の農業生産関連事業による年間総販売金額は、1兆 7,213億円で、農業経営体(農家、農家グループ、農業法人など)による農産物の加工は、全体の16.4%で2,825億円、農産物直売所は6.4%の1,096億円、観光農園が2.0%の341億円、農家民宿が0.3%の51億円、農家レストランが1.1%の184億円という販売規模である。一方、農協などが行う農産加工場は全体の31.6%の5,445億円、農産物直売所は42.4%の7,263億円で、農協などが占める販売割合が73.8%と極めて高いことが分かる(統計数値については、表示単位未満で四捨五入)。

販売金額の規模別に事業体数割合をみると、農業経営体による農産物の加工、観光農園及び農家民宿では販売金額 500万円未満の規模でいずれも8割以上となっており、特に、農家民宿では販売金額 100万円未満の規模で60.9%を占めている。一方、農協などによる農産加工場及び農産物直売所では、販売金額1億円以上の規模でそれぞれ25.4%、18.0%となっている。

いわゆる6次産業化と言われる市場規模は、1兆円を超えており、今後農業振興を図る上では無視できない取組であることが分かる。経年変化が分からないことが残念であるが、過去10年間で、最も売上を伸ばしているのは農協による農産物直売所ではないかと考える。その昔、農協にとって直売所は、組合員への活動の場の提供が目的であったが、7~8年前を境に、直売所を販売形態の一つと捉え、活動事業から販売事業へと方向転換した経緯がある。それ以降、農協が持つ組織力、指導力などを生かした直売事業が全国で本格的に始動することになった。

今後期待したいのは、農業経営体による6次産業化であろう。しかし、繰り返し言うが、分業体制が求められることから、6次産業化をするなら、少なくとも家族経営協定の締結による家族での運営、あるいはグループ化が必須条件である。また、事業規模を拡大するためには、事業認可、補助金導入、資金確保、人材確保などの面で、圧倒的に有利である法人化を目指すべきである。

農業生産関連事業の従事者数は 39万6,500人で、農業経営体によるものが全体の60.2%の23万8,600人で、このうち、農産物の加工を行う農業経営体が28.5%の 11万3,100人と最も多く、観光農園が15.5%の6万1,600人、農産物直売所が12.5%の4万9,400人となっている。一方、農協などの農産物直売所は全体の32.7%を占め、従業者数は12万9,800人、農産加工場は7.1%の2万8,100人となっている。また、全体の雇用者の雇用形態をみると、全体では常時雇用が35.7%、臨時雇用が64.3%であり、男女別でみると男性35.4%、女性64.6%の構成である。

6次産業化により、多くの雇用が発生しているが、その取組を支えているのは、女性の臨時雇用者であることが分かる。しかし、ひと昔前には、農業生産関連事業は農家女性が片手間で行うものと言う概念があったが、これが農業・農村の主力事業として成長し、6次産業と名前が変わったことにより、常時雇用者の増加、男性の増加につながったという傾向が見られるのではないかと考える。

農業生産関連事業の地場産農産物の利用割合をみると、農業経営体による農産物直売所が95.0%と最も多く、次いで農協などによる農産物直売所が85.0%、農業経営体による農産物の加工が84.7%となっている。農協などによる農産加工場は地場産の使用割合が40.6%と低いものの、所在する都道府県内産を含めた割合は73.2%となっている。

地場農産物にこだわる展開は、大手加工メーカーやスーパーとの差別化を図る意味でも重要な要素である。しかし、特に加工事業では、馬路村のゆずドリンクに代表されるように、事業が一定の規模を超えると地場物だけでは賄い切れなくなり、他産、さらには輸入物に原料を求めることになる。実は、こうしたレベルまで達すると、事業利益が飛躍的に高まる経営構造に転換できる。6次産業化は、地域内発型のアグリビジネスの領域を超えたところに、安定した原料調達と販売が実現でき、真の産業へと転換すると言う矛盾が存在することもまた事実である。

最後に農産物の直接販売に取り組んだ農業経営体が、卸売市場、小売業、消費者、食品製造業等に直接販売している状況についても整理されていて、興味深い。販売金額は合計2兆4,634億円で、これを販売先別にみると、卸売市場が全体の32.8%の8,077億円で最も多く、小売業が19.2%の4,740億円、消費者が18.9%の4,655億円、食品製造業が15.5%の3,806億円となっている。

かつて圧倒的であった市場流通が減少し、スーパーへの直売販売、加工メーカーや外食チェーンとの直接取引、あるいは消費者への直販などの市場外流通が伸びているものと考えられる。また、本レポートでは、農協などの出荷団体への販売額が、1兆1,632億円存在するとしており、これも含めた農産物の直販に取り組んだ農業経営体の年間総販売金額は3兆6,226億円であると言う。仮に、農協へ販売したものが全量市場経由で流通するとした場合(現実的には農協の直販も拡大傾向にある)、農産物の総販売額に占める市場流通の割合は、54.4%と驚くべき数字が出てくる(※1)。私自身は、市場流通の割合は、未だに7割程度を維持していると考えていた。この数字を鵜呑みにする訳にはいかないが、農産物の流通構造は日々変化を遂げており、市場外流通は今後もさらに拡大すると予測できよう。

以上6次産業化の現状を、統計資料から追ってみた。どうやら6次産業化は、社会に定着してきたようで、農業経営を改善するためにも、重要な取組課題になってきたと言えそうだ。2年後、3年後、6次産業化がどの程度まで進展するのか、次回の調査結果が楽しみである。

※1:農協などの出荷団体への販売額1兆1,632億円を農協による市場出荷と解釈し、これに農産物の直接販売に取り組んだ農業経営体による卸売市場への年間総販売金額である8,077億円を加えると、農産物の直販に取り組んだ農業経営体の市場出荷額は1兆9,709億円となる。農産物の直販に取り組んだ農業経営体の年間総販売金額は3兆6,226億円であるので、ここで求めた市場出荷額の割合は約54%と解釈できる。
鵜呑みにする訳にはいかないという点については、第一に農協などの出荷団体への販売額1兆1,632億円には、農協以外の集出荷団体も含んでいるということと、第二にこれらの農協や農協以外の集出荷団体の販路は市場流通以外も十分に考えられるということなどには留意する必要があろう。