第157回 | 2013.08.26

KABS本格始動! ~新たな神奈川型アグリビジネスへの挑戦~

このコラムでも何度か報告してきたとおり、流通研究所は2年前に県内の若手農家とともに、新たな神奈川型のアグリビジネスを創造することを目的に、「かながわアグリビジネスステーション(KABS)」というプラットフォームを設立した。これまで、初年度は研究段階、2年目は実証段階にあったが、本年度は予定通り事業化に着手する。その事業の内容がほぼ固まってきたことから、本日はその報告をさせて頂く。

基本的なフレームは、流通研究所が生産者から農産物を買いとり、庭先集荷を行い、ファームドゥ(株)のあざみ野店まで一括して物流し、委託販売してもらうというものである。

93F182CCE7DD82AA8Ea82E991E61588D8628907D029.png

ファームドゥ(株)については、このコラムでも何度か紹介しているが、農産物直売所のチェーン展開を主な事業領域としており、年商は80億円を超える優良企業である。これまで、お膝元の群馬県から始まり、埼玉県、東京都に27店舗の直売所を開設してきたが、この10月に横浜市での新規出店を足掛かりに神奈川県へも本格的に進出することになった。ファームドゥ(株)の岩井社長とは、日頃から懇意にさせて頂いていたが、未知のマーケットである神奈川県を開拓したいという岩井社長の思惑と、県内の篤農家が生産する高品質の農産物を適正価格で販売したいという私の思惑が合致し、出店計画段階から一緒に話を進めてきた経緯がある。

この10月3日にオープンするあざみ野店は、これまでの直売所の概念とは全くことなる店舗である。店舗は、東急グループが開発するスポーツゾーン「あざみ野ガーデンズ」の中にできる。各種の飲食店などが集積するショッピングプラザでは、鮮魚、惣菜、精肉などの専門店も出店するが、ファームドゥあざみ野店は、このプラザの核店舗として出店することになる。

私も工事現場を視察したが、最も驚いたのは、商圏のすごさだ。周辺は高所得者層が暮らす閑静な住宅地がどこまでも広がり、商品の価値を適切に判断してくれる消費者層を確実に取り込むことができる。東急グループからも、安売り禁止、高品質・高価格帯での品揃えといった商品政策が打ち出されているが、ここではまさに高いものから先に売れていくという購買行動が期待できる。また、店舗の利用者は、一般の直売所とは異なり、午前中ではなく、午後、特に夕方が多くなる見込みである。

93F182CCE7DD82AA8Ea82E991E61588D8628907D129.jpg
(ファームドゥ・あざみ野店イメージ)

流通研究所が集荷した農産物は、この店舗の中にKABS専用コーナーを設け、「金次郎野菜」というブランド名をつけて販売する。まだ確定はしていないが、野菜ソムリエコミュニティかながわの皆さんとも連携し、店頭での試食や商品説明など、積極的な販売促進活動も展開していく予定だ。潜在性の高い消費者を対象に、こだわりの農産物の味・品質、それをつくる生産者の理念や技術を知ってもらうことで、生産者と消費者をつなぐ絆を作っていきたいと考える。さらに将来的には、消費者向けのコミュティ誌の発行や農家との交流会なども手掛けていきたいと考えている。

93F182CCE7DD82AA8Ea82E991E61588D8628907D229.jpg
(金次郎ブランド農産物ラインナップ)

みどりの会や秦友会など、若手農家グループを始めとして、現在20名程度の生産者にこの事業に手を挙げて頂いている。まだまだ出荷者は増えそうだが、崇高な理念と高度な技術を持った専業農家・篤農家に出荷者を限定する方針である。一般的な直売所のように、誰もが参加できるような仕組みにはしない。大変申し訳ないが、技術力が低い高齢農家・小規模農家・定年帰農者などには遠慮頂くことにしている。本気で農業に取り組む生産者と連携し、最高の県産農産物を横浜市の消費者へ届けることを原則としたい。

買取価格は、生産者と合意の上で決める。各生産者ともに、すでに販路を持っていることから、現在の取引価格より少しでも高く買い上げたいと考えている。また、現在調整中ながら、期間中一発値決めの数量取引についても実施していく方針である。物流費や販売促進費、ファームドゥの販売手数料などを上積みすると、小売価格はかなり高くなってしまうが、それでも買い取ったものは売りきるという覚悟を持って臨みたい。

生産者の要望に応じて、委託販売方式との併用も考えていきたいが、オペレーション上の課題があり、10月のオープン当初は買取一本でスタートする方針である。また、加工品についても取り扱っていくが、はじめから買取をするのは困難であると考えている。さらには、花卉も扱っていく意向があるが、物流面などの課題が多く、オープン当初は見送らざるを得ない。こうした品目については、一緒に検討してきたメンバーには大変申し訳ないが、先ずはイベント販売から始め、段階的に着手していく方針である。

庭先集荷については、これまでの検討結果から導き出された手法である。若手農家には売り先は持っていても配達に時間をとられてしまい、生産現場が追いつかないという課題がある。庭先までとりに行くことで、配達の時間を短縮して生産現場に集中し、規模を拡大して欲しいという思いがある。朝、小田原を出発し、午後2時前には店舗に到着するために、全ての農家の庭先までは回り切れず、数名の生産者には近くのデポまで持って来てもらうことになる。現計画では、週3回、13か所の農家・デポで集荷して回る予定であるが、物量に合わせて集荷回数・集荷拠点数を増やしていきたいと考える。

この度、参加して頂いている生産者には、「取引」ではなく「取組」という認識を持ってもらうことにしている。KABSが単なるひとつの販売先ではなく、理想的な販売システムの確立と農業経営の向上に向けて、ともに取り組んでいこうという姿勢である。初年度は、採算性も厳しく、流通研究所がその多くを持ち出しで実施することになろう。これよりスタッフ一同で、精一杯の努力をしていくが、ビジネスである限り100%成功ということはありえないし、今後大きな軌道修正を余儀なくされることもあろう。また、参加農家に詫びを入れる結果になることだってありうる。しかし、全てのリスクは流通研究所がかぶり、先ずはこの10月から最低半年間、この取組をやってみようと腹をくくった。先ずはやってみないことには、次の答えは見つからない。流通研究所の、KABSの新たな挑戦にご期待頂きたい。