第155回 | 2013.08.13

JA直売所の役割と展望 ~千葉県JA農産物直売所連携・戦略会議より~

去る8月5日、JA千葉中央会とJA全農ちばの共催による「JA農産物直売所連携・戦略会議」に、オブザーバーとして参加させて頂いた。この会議は、千葉県下のJA直売所担当者が一堂に会し、県内直売事業の発展に向けて、今後の戦略を検討していくことを目的に開催されたものである。会議では、県下のJA直売所の実態調査の報告に続き、県衛生指導課の篠崎技師による「食品衛生法に基づく食品管理について」というテーマの講義があった。

この会議の一つ目の重点テーマは、安全対策の徹底である。全国的に残留農薬基準の超過という不祥事が、未だに多数発生している。また、直売所に出荷する生産者の多くが、農薬自体に関する知識や取扱方法に関する知識の不足、多品種小ロット生産による農薬飛散の発生、などの理由で安全な農産物を作れていないという現実がある。未だに生産履歴さえつけていない直売所出荷者も多く、このままでは直売所の存在自体が社会問題になる可能性も否定できない。日本人は中国産の食品の安全性を否定するが、私が知る限り、日本の直売所ほど安全対策がゆるいところはない。

講義の後、全農ちばの担当者から、JAグループとして、絶対にできていなくてはならないものとして、安全対策の具体的な説明があった。

散布前の対策は、生産者に農薬に関する正しい知識を持たせることである。トマトとミニトマト、根しょうがと葉しょうがでは、使用できる登録農薬が異なる。専業農家は当然分かっていることでも、多品種を生産する直売所出荷者はこうした知識が乏しく、どの作物にも同じ農薬を使っているケースが多い。また、農薬は、専用の秤や軽量カップを使用して適正な量を計測して使用するべきだが、目分量で薄めて使っている直売所出荷者も多い。

散布時の対策は、農薬飛散の抑制である。直売所出荷者の多くは、一つのほ場でいくつもの野菜を作る傾向にあり、ブロッコリーにかけた農薬が、収穫前のほうれんそうに飛散するなどのケースが多発することになる。散布後の対策では、噴霧器などの洗浄が重要になる。十分に洗浄しないと、前に使った農薬が噴霧器などに付着して、次に使う農薬に混入してしまうことになる。

JAの直売所担当者は、こうした指導を徹底するとともに生産履歴をつけていない直売所出荷者の出荷停止など、厳しい姿勢でのぞむ必要がある。出荷3日前までの生産履歴を提出してもらい、それをJA担当者がチェックして、OKになって初めてバーコードラベルを打ちだせる仕組みにしているJAもあった。また、全農ちばでは、以下のような農薬使用についてのポスターを作り、直売所のバックヤードに貼ってもらうなど、安全対策の徹底運動に力を入れている。

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この話を聞いて、私は非常に感心したし、JAグループの取組に共感した。直売所で売られている農産物は、農家の顔が見えて安全・安心などと言うが、私が知る限り、全国の半数以上の直売所出荷者が、こうした安全対策を行っていない。現在、直売所で売られている農産物は、非常に危険なものであることに消費者は気づいていないが、食の安全に対する社会的要請が高まる昨今、直売所の運営責任や出荷責任が厳しく問われる時代がすぐにやってくる。

二つ目の重点テーマは、直売所の活性化策についてであり、活発な議論が繰り広げられた。具体的には、集客対策、商品開発、商品の融通のための物流の仕組みづくりの3つであった。その中で、私も最後にオブザーバーとして意見を述べさせて頂いた。

私は、商品となる農産物の安全性担保と、鮮度・品質の向上と適正価格の維持が最大の集客対策になると発言した。直売所は、高鮮度でおいしい農産物を通じて、生産者と消費者をつなぐ絆である。スーパーなどとの競合は厳しさを増しているが、価格競争に巻き込まれることなく、生産者の思いがこもった農産物を出し続けることで、直売所のブランド力を高めることが重要であると考える。

商品開発では、県下の全ての直売所が、共通のテーマで一斉に商品開発し、商品化する手法を検討して欲しいと発言した。例えば「米粉ロール」、「ちまき」、「アイスクリーム」などの共通の開発テーマを掲げ、各直売所が地域の素材や個性を活かして、オリジナル商品を開発し、同時期に発表するといった手法である。開発テーマを決めることで、開発意欲も高まるし、農商工連携を進めるきっかけともなる。また、話題性が高い取組になることから、マスコミに取り上げられるなど、集客効果に結びつくことも期待できる。

商品の融通のための物流の仕組みづくりはとても難しく、相応の物流量が安定的に期待でき、効率的なシステムを作ることが必須条件であると述べた。私の試算では、1日の物流額が30万円以上にならないと、物流費をカバーするだけの採算性は確保できない(物流費は物流額の10%未満にする必要がある)。したがって、個々の直売所同士の取組では限界があり、より多くの直売所が仕組みに参加し、専用コーナーを設けるなど、他産地の農産物を一定数量取り扱うルールを定める必要がある。また、その受発注やルート配送などは、全農ちばが担う必要があると述べた。

当日は発言しなかったが、直売所に出荷される農産物を融通するというより、JAの共同販売品目を融通させる方が、現実的であると考えている。また、この場合、併せて加工・業務用品目も取り扱い対象に含め、各JAの農産物を集出荷するセンターを県内3か所程度設置し、必要に応じてパッケージや一次加工まで行い、県内直売所や実需者への流通拠点とするような構想が描けないかと考える。この構想については、さらに詳細なアイデアがあるのだが、関係機関と実現可能な手法を調査・検討した上で、機会があればこのコラムでも報告していきたい。

千葉県及び全農ちばとの付き合いは長い。また、私の母が千葉県出身であり、子どもの頃から訪問していたことから、千葉県への愛着も強い。今後も千葉県JAグループの取組に大いに期待するとともに、精一杯支援していきたいと考える。