第282回 | 2016.05.16

JAは准組合員を農業振興に活用せよ!
~ 准組合員制度の再構築を急げ ~

農業協同組合は、農家である正組合員と非農家である准組合員によって構成される組織である。農家の減少に伴い正組合員もまた年々減少傾向にあり、現在全国で約1,000万人存在する組合員のうち、約450万人が正組合員、約550万人が准組合員で、准組合員数が正組合員数を上回る状況にある。つまり、農家でない者がJAという組織を支えていると言えるが、准組合員は議決権を持てず、JAの経営には参加できないルールになっている。こうした矛盾に対し、農林水産省は一連の農協改革を通じて、JAから准組合員を切り離す姿勢を明らかにしているし、社会的な批判も高まりつつある。

そもそも、どうしてここまで准組合員は増えたのであろうか。JAには、農家である組合員の、事業の共同利用による共同の利益を確保するための組織という理念があり、組合員以外のJAの事業利用は法的に制限されている。一方、JAの経済事業(販売・購買・指導事業)は恒常的な赤字で、その赤字を金融・共済事業などの稼ぎで補っているのが実状である。しかし、減少が著しい正組合員だけを対象に金融・共済などの営業(JAでは「推進」という)をしても、集まる貯金額も共済の加入額も必然的に右肩下がりになる。したがって、非農家にも営業対象を広げないとJA職員は食べていけなくなる。

ここで問題になるのが員外利用規制である。員外利用規制をクリアし営業成績をあげていくためには、JAの事業を利用してもらったお客さんに、JAの組合員になってもらうしかない。JAにもよるが、准組合員になるためのハードルは極めて低く、定額の出資をすれば准組合員になれる。そこで、例えば「おじいさん、農協に貯金してもらうにあたって、5,000円ほど出資してもらい准組合員になってもらえませんか。様々な特典がありますよ。」といった営業トークで、准組合員を増やし続けている訳である。

JAに対して、地域の農業振興に寄与する地場密着型の団体という良いイメージを持つ人は多く、特に中高齢者のJAへの信頼感・安心感は高い。したがって、○○銀行や□□生命の営業より、その「金看板」ゆえに営業力は高いと言えよう。一方、准組合員になった人は、天下のJAの構成員だという自負を持てるし、地域農業に貢献できると考えるケースも多いはずだ。では、准組合員のメリットは何か。多くのJAでは、広報誌を配ることに加え、温泉旅行や歌謡ショーへの割引招待券などを配っているに留まっており、准組合員を意味不明の「パートナー」として位置づけているのが実態である。

准組合員制度に対する農水省の態度が厳しさを増す中、JAは未だ具体的な対応策を示すこが出来ないでいる。その根源的な理由は、JAが持つ閉鎖的な組織体質にあると言えよう。JAは、せっかく与えられた准組合員制度を、これまで員外利用規制を逃れるため、自らの組織利益のために利用してきたのであり、准組合員は単なる顧客という姿勢をとってきた。しかし、本来、准組合員は、JAを支える経営基盤であると同時に、地域農業の応援団であり、JAにとっても地域農業にとっても重要な役割を果たす存在であると考える。

この矛盾を解決するためには、准組合員を経営のパートナーとして位置づけ、農業振興のために、共に力を合わせる存在へと格上げする必要がある。そのためには先ず、JAは農家によってのみ構成される組織ではなく、地域農業を共に支える准組合員を含めて構成される組織であるという、JA自体の意識改革が必要不可欠である。

その上で、准組合員に議決権を与えることを検討すべきであろう。JAには、「庇を貸して母屋を取られる」という閉鎖的な意識が強く、准組合員に議決権を与えることは、保守的なJA組織にあって、極めてハードルが高い取組課題であるといえる。しかし、株式会社などでは出資者が議決権を持つことは当然であることから、一般の国民に、なぜそうしないのかという強い違和感を募らせることになる。農家である正組合員の利益が最優先されと言う理屈があって当然だが、准組合員に対して制限付きの議決権を与えるという考えがあってもよいのではないかと思う。制度的には、農協法を変えなくても、JA独自の定款改正で、准組合員に議決権を与えることは可能である。

次に、准組合員をもっと地域の農業振興に活用することを考えて頂きたい。余談になるが、このコラムで紹介した(株)おだわら清流の郷が取り組む市民農家育成プロジェクトは順調に滑り出した。「将来農家になることをめざして、一緒に農業に取り組みながら農業技術を習得しませんか。」とタウンニュースで広報し市民に募集を呼びかけたところ、13名もの募集があった。農業をやってみたいと思う潜在的な市民は非常に多いと思うし、JAが准組合員を対象に同様の取組を行えば、さらに大きな成果が期待できるのではないかと考える。

多くのJAは農産物直売所を開設している。JAによる栽培指導や品質・安全管理を徹底することを条件に、農家資格を持つ准組合員には農産物の出荷者資格を与えることを検討するべきであろう。また、生産・販売実績に応じて、准組合員が正組合員になるような道筋を示すことも重要である。さらに、准組合員向けの加工品講習会を開催し、准組合員に製造許可を取得してもらい、作った加工品を直売所で販売するという6次化のプログラムを示してもよい。

さらに、准組合の多くが利用者になっているJA開設型の市民農園についても、更なるてこ入れが必要であろう。単に農園を貸すのではなく、利用者のニーズに応じて、練馬方式のような栽培指導会や食育講座を盛り込んだコースを別途設定し、将来的に地域農業の担い手・守り手へ育成するようなプログラムも検討するべきである。なお、かかる取組を進めるにあたっては、市町の農業振興計画の中で明確にJAの役割を位置付けるなど、市町との連携を強化していくことが重要である。

地域の農地はもはや農家だけでは守れないし、今後の農業は広く地域の人びとに支えられてもらう必要がある。こうした理念は、「食料・農業・農村基本法」にも「都市農業基本法」にもうたわれている。そしてJAは、かかる理念を具現化するための、准組合員制度という大きな宝を持っている。今後も増加する准組合員は、活かし方によって、地域の農業振興に向けた大きなパワーになることは間違いない。しかし今のままでは宝の持ち腐れである。国の圧力が本格化する前に、全国のJAは、JA改革の本丸である准組合員制度の再構築に着手する勇気と英断を持って頂きたい。