第35回 | 2011.02.14

JAの生き残り戦略! ~営農を基本とした3つの戦略~

JAは地域農業や地域社会にとって必要不可欠な存在である。これまで豊かな日本の食を担ってきたのも、美しい農村の協働社会を築いてきたのもJAであり、その貢献度は計り知れない。しかし、農業を取り巻く環境が大きく変わり、流通構造の地殻変動が相次ぐ中、JAの存在意義が改めて問われている。JAに限らず株式会社や公益法人など全ての組織に共通していることであるが、社会にそんな組織はいらないと否定されれば、自ずと消滅する運命にある。そこで今回は、今後のJAの生き残り戦略についてコメントしてみたい。

●JAにしかない総合力を活かし地域NO.1の存在をめざす
JAは営農事業はもとより、金融・共済・開発・福祉・生活と地域の総合商社的な幅広い事業領域を持ち、それぞれ古い歴史と多くの実績を持つ。こんなに多様な地場密着型の事業ができる組織はJAだけであり、民間企業では到底無理である。その結果、JAは地域において圧倒的なブランド力を形成している。同じ共済商品の飛び込み営業をしても、「○○生命です」でより「農協です」の方がよほど利用者に安心感を与える。これまでは組合員の所得を守り、生活を守るための事業であった。
しかし今後は「農」を機軸に組合員だけでなく、地域住民を守り・高める事業展開が望まれる。その一つの視点が事業領域と活動領域を表裏一体とした展開だ。青年部活動・女性部活動・年金友の会・地域活動などそれ自体収益を生まない活動は、民間企業はほとんどやらないし出来ない。企業が今取り組み始めているCSRはJAは昔からやっていたが、これらの活動領域はJAしかできない最大の強みであり活かすべき武器である。
私は、市民農園・農業塾・地産地消・グリーンツーリズム・食育・食文化・農商工連携など、「農」に関連する事業は全てJAの仕事だと考えるし、これをやらなければJAの存立意義はないと思う。このような活動を通してより多くのJAファンをつくり、准組合員を拡大して、主要事業との相乗効果を高めていく。金融・共済単発の事業を見れば、ノウハウ・実績の点で他の民間金融機関や保険会社にかなうわけがない。「農と食」を機軸に活動領域まで含めた総合力を活かし、地域NO.1の存在をめざすことが第1の戦略である。

●JAのジレンマから脱却し平等主義から公平主義へ転換を図る
平等主義とは高齢者でも若者でも、やるべきことをやってもやらなくても平等に扱うという組合主義(旧社会主義)を言い、公平主義とは、経営規模・実績・技術・やる気などに応じて、やったらやっただけ評価し厚遇するという企業主義(現在は当たり前の資本主義)を言う。平等主義のもとでは、やる気のある生産者は育たないし、これが結果としてJA離れを起こす要因となっている。
このような組織特性を踏まえると非常に難しいことではあるが、以下のイメージのように、販売・購買・指導ともに階層別支援策という概念が必要である。既に甘楽富岡をはじめ、いくつかのJAでは同様の取組をはじめ成果をあげている。一度に改革するのは難しいが、新ブランド品種部会、販路別部会、GAP部会などをつくり、やる気のある農家を再組織化し、段階的にふるいにかけるやり方が効果的だと考える。そして組合員からの批判を恐れることなく、JA内に法人別部会をつくり、逆に大規模農業法人を育成し取り込んでいくという勇気が欲しい。

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●市場取引・直接販売・地域直売など多様な販売事業で組合員を引っ張る
市場取引では、どこにも負けないブランド産地の形成を目指したい。ブランドとは、高位平準化とロットの実現、クレームがないことを意味する。そのためには、統一基準による、栽培指導の徹底、選果の徹底、意識と技術水準が高い組合員の組織化、意思を持った部会の主体的運営が重要になる。加えて有力市場との連携強化、小売店でのマーケティング力の強化、効果的な販促活動・PRの強化が必要である。直接販売では、まず従来の市場取引から脱却した販路開拓を進める英断を下すことである。加工・業務用取引については何度も詳細に述べてきたが、主要野菜の55%が加工・業務用需要であり、大規模生産法人のほとんどが直接取引に力を入れているという現実に目を叛けてはならない。直接取引では代金回収のリスクや契約数量に対するリスクなど課題は山積みであるが、リスクのない商売などありえないし、リスクを恐れていては世の中の動きに遅れるばかりである。
そしてもう一つが直売事業である。全国に5,000件を超える有人直売所が整備されているが、その中でJAは、指導事業と既存の販売事業を踏まえた直売事業ができるという圧倒的な優位性を持つ。現在多くの直売所が地域の高齢者のための身近な換金の場、地産地消の場という概念で運営されているが、その結果安全管理が不徹底、売るに耐えない商品が品揃えされるなど致命的な課題を抱えている。JAは直売事業を販売事業のひとつとして明確に位置づけ、部会活動を徹底して消費者の信頼に応えていくべきである。
つまり、JAは販売のプロとして市場取引・直接販売・地域直売など多様な販売事業で組合員を引っ張ることが、大きな生き残り戦略となる。

詳細についてはまた別の機会にテーマを決めて特集していきたい。これまでいくつものJAにコンサルタントとして関わってきたが、私は大のJAファンだ。JAにしか出来ないことがある、JAにしか開けられない時代の扉がある。農業・農村の専門コンサルタントとして、今後のJAの活躍に大きなエールを送り続けていきたい。