第230回 | 2015.03.23

飼料用米増産は実現するのか? ~ 全農の体制整備で本格始動なるか ~

JA全農はこの度、飼料用米の増産に向けた今後の方策を明らかにした。全農が農家から直接飼料用米を買い取り、販売先の飼料メーカーや畜産農家を全農が確保し、JAグループで保管して、工場などまでの供給を一手に担う体制を整備するというものだ。飼料工場が近くにあるなど、輸送費が還元できる地域は、農家からの買取価格をある程度上乗せするとしている。配合飼料の年間流通量は年間2,400~2,500万トンであるが、全農はその約3分の1のシェアを占め、飼料の取扱では高い実績とノウハウを持っている。飼料の国産化による食料自給率向上、米の需給調整の目的もある水田フル活用対策などの政策を受け、全農が本格的な仕組みの構築に動き出したといえる。

一方、農林水産省は、食料自給率向上に向けた10年後の品目別の生産努力目標を公表した。これによれば、主食用米は2013年の859万トンに対し2025年は725万トンに引き下げる反面、飼料用米は2013年の11万トンに対しその10倍の110万トンに設定している。平成24年度の実績を見ると、備蓄米2万トン、ミニマムアクセス米36万トンの計38万トンが配合飼料メーカーへ供給されており、110万トンという飼料用米の生産目標は、必ずしも実現不可能な数字ではないと考える。減反制度の廃止が濃厚な中、米価の安定のためにも、主食用米の生産抑制と、主食用米に代わる農家の収入源の確保が喫緊の課題といえる。

配合飼料の原料では、とうもろろこしが約1,000万トンを占めるが、飼料用米は、とうもろこしに代替できる原料として実証されている。しかし家畜に与える飼料を全て飼料用米で替えられるわけではない。農林水産省は、その利用可能割合は採卵鶏で20%、ブロイラーで50%、養豚で15%、肉牛で3%であり、全体では45%という数字を公表している。主食米の生産量が850万トンであることから、飼料米の需要量450万トンはとてつもなく大きなマーケットとして捉えることができる。

全農は昨年9月、2015年の飼料米の取扱目標を60万トンに定めると公表していた。2014年の結果がまだ出ていないが、多く見積もっても20万トンには届かないものとみられており、計画通りには進まないようだ。ではなぜ、飼料用米は拡大しないのか。その理由は、生産面、流通面の両方にあるようだ。先ずは、なぜ稲作農家は飼料米の増産に踏み切らないのかという生産面の課題から整理しておく。

1つ目の理由は、飼料用米をつくっても、必ずしも所得向上につながらないことにある。平成25年度の飼料用米の平均反収は約8俵で、主食用米と大差がない。多収性の専用品種を使えば収量は増えるだろうが、全農でも農家が作りなれた主食用米品種を基本とした生産を推奨している。周知の通り、飼料用米の交付金は10aあたり最大10.5万円であるが、収量に応じて助成される現在の制度のもとでは、8俵の反収では7万円程度の交付金しかもらえない。一方、飼料用米の販売による農家の手取りを、20円/kg程度と考えると、8俵出荷しても9,600円にしかならない。交付金+販売代金で、10aあたり8万円の収入にしかならないのであれば、価格が下落している現在でも主食用米を作り続けていた方が得である。

2つ目の理由は、この制度がいつまで続くのかという不安感である。これで様々な制度が打ち出され、ころころ変わって来た経緯があることから、政府への不信感は強い。平成27年度の予算編成においても、財務省とひと悶着あったことも報道されている。ちなみに、私の試算では、飼料用米の生産目標110万トンを達成した場合、必要な交付金は1,500億円程度になる。農林水産省の全体予算は2.3兆円であることから、それだけの財源を恒久的に確保できるのかという疑問は誰にでも浮かぶだろう。屋根に上っても、いつ梯子を外されるか分からない。そんな不安が、農家が飼料用米の増産に踏み切れない理由の1つになっている。

3つ目の理由は、農家の精神的な問題である。農家は、よりおいしいものを消費者に提供しようと日々努力することがプライドである。このプライドを捨てて、家畜に食わせる米を作ることに大きな抵抗感がある。もう1つは、金のために飼料用米を作ることに対する抵抗感だ。飼料用米を作った場合、農家の収入の9割は交付金でまかなわれることになる。様々な制度を活用することは悪いことではない。しかし、交付金をもらうためだけの農業などやりたくはないし、それをやったら農家ではなくなると考える方も多いようだ。

次に、飼料用米に関する流通面の課題を整理しておく。1つ目の課題は物流経費である。飼料用米の飼料メーカーとの取引価格は概ね1トンあたり30,000円(30円/kg)と言われている。しかしこの価格は、工場渡し価格であり、物流費は供給側が負担しなければならない。配合飼料工場は全国で118か所あるが、このうち飼料用米を利用する工場は22か所にしか過ぎない。したがって、産地によっては工場までの物流距離が長くなり、物流費だけで1トンあたり10,000円近くかかってしまうケースもあるようだ。JAなどの仲介を通せば当然マージンが発生することから、販売価格に占める流通経費の割合が非常に高くなってしまう構造にある。近隣の畜産農家へ直接供給することで、流通経費を圧縮しようという取組も見れられるが、平成24年度の供給実績を見ると9トンにしか過ぎず(飼料メーカーへの供給実績は47万トン)、この供給ルートは大幅な拡大は期待できないだろう。

2つ目の課題は、産地側での保管体制の整備である。飼料工場は在庫を持たないことが原則であり、製造計画に基づき、その都度必要量を産地側に発注し工場に納品してもらうシステムをとっている。したがって、農家もしくはJAなどが、飼料用米の保管庫を確保する必要がある。主食用米の生産量が減少するなら、その分既存倉庫の保管スペースが空くだろうが、主食用米の減産が実現しないなど、現実的にはうまくはいかないようだ。したがって、飼料用米の増産にあたっては、産地側は遊休施設の有効活用や新たな保管庫の整備を進める必要がある。

3つ目の課題は、畜産農家の利用意向である。輸入原料は国際相場に左右されることが多いことに加え、円安で価格は高騰しており、畜産農家の経営を圧迫している。しかし、これまで利用して来た配合飼料に替えて飼料用米の飼料を使うことには、抵抗感があって当然である。畜産農家が飼料用米の飼料を使う条件として、現在使っている配合飼料より価格が安いことがあげられる。価格が安いなら、試しに使ってみてもよいというのが本音である。飼料用米の飼料を使うことで、品質が向上するなどの実証結果が出ているが、その結果が普及するまでには相応の時間がかかりそうだ。

このように整理すると、飼料用米の増産にあたっては、課題ばかりが浮上する。私は、多大の予算を投じるこの国家プロジェクトがどこまで進展するのか。そもそもこの政策自体が正しいのかどうか、全くわからない。全農が取り組む体制整備を含め、しばらく今後の動向を見守っていきたいと思う。