第77回 | 2011.12.26

食料自給率向上というキーワードで何かが動き出した! ~フード・アクション・ニッポン アワード2011表彰式~

ninoken78
私が委員を務める、食料自給率アップに向けた先進的な取組を表彰する「フード・アクション・ニッポン」の第3回目のアワード表彰式が、去る12月14日に開催された。今年も1,000件を超える応募があり、その中から4つの部門ごとに優秀賞10件・最優秀賞1件、大賞1件の計43件が表彰された。加えて今年は、東日本大震災への支援活動に対し「食べて応援しよう!賞」が設置され、10件が表彰された。

プロダクト部門の最優秀賞は、「米粉練りこみラーメン」を開発し、年間1,000万食販売という大ヒットを飛ばしたエースコックが受賞した。国民食とも言える即席麺で米粉の消費量を高めた取組は、食料自給率アップに向けて貢献度は大きい。米粉については、昨年度大賞を受賞した「ごぱん」をはじめ、パン、スィーツ麺類等様々商品が普及しつつあり、国民活動として自走し始めた感がある。

製造・流通・システム部門の最優秀賞は、国産野菜の宅配事業を開始したセブン・ミールサービスが受賞した。セブン・ミールサービスでは、セブン・イレブンで販売しているおにぎり、弁当に加え、独自の商品として「日替り弁当」や「お惣菜おまかせ7日間メニュー」など中食を中心に宅配事業を行っている。2010年7月からは国産野菜も併せて取扱を開始した。コールドチェーン網の整備により、産地から消費者まで、鮮度が高い野菜を届けるシステムを整備した。また、これらの野菜は、セブン・イレブンの店舗で販売されているサラダや惣菜にも活用している。現在セブンミールの顧客は全国で25万人、取扱店舗は13,589店(全店舗)である。今後、「買物難民」が全国で増加することが予想される中で、この取組は社会的課題の解消に貢献するものとして、今後大いに期待できる。

コミュニケーション部門の最優秀賞は、くじらの食文化の普及活動を長年行って来た「和田浦くじら食文化研究会おかみさんの会」が受賞した。国際的には神経質な問題があるが、激論の末、海外の基準に迎合するのではなく、日本人が誇る食文化の象徴として、堂々と発信していくことが審査会としての使命であるという結論に至った。東日本大震災、TPP交渉など日本の農林水産業を根底から揺るがす出来事が続いているが、日本人として「良いものは良い、正しいことは正しい」と言い切っていく勇気が求められている。そんな審査委員の思いを込めたアワードであった。

研究開発・新技術部門の最優秀賞は、「生鮮魚介類のリアルタイム品質可視化技術」を開発した東京海洋大学が受賞した。鮮魚などにバイオサーモメーターを取り付けると、リトマス試験紙のように色が変色し、変色度合いによって鮮度がひと目で分かるというものだ。鮮度の判定が手軽に出来れば、鮮魚などを安心して販売・購入・消費できるようになり、その過程で廃棄される食品が減ることが期待できる。現在生鮮野菜の流通試験も行われており、鮮度・品質重視の流通システムの確立や地域振興、輸入産品との差別化などの効果も期待される。コストが高いため、実用化まではまだ相応の時間がかかるが、普及した場合の無限の可能性に期待したい。

そして大賞は、農業の担い手を本気で育てている農業高校・愛農学園が受賞した。愛農学園は、半世紀近い歴史を持つ日本で唯一の、私立の全寮制農業高校である。学校給食では、生徒自ら生産した農畜産物を食材として利用しており、校内自給率は70%に達する。この高校の卒業生の実に45%が就農している。卒業生で組織される「全国愛農会」では、新規就農者を支援するための「大学講座」を開催しており、東海・関西を中心に広く受講生を受け入れている。さらに、東日本大震災発生後、移住先を探している被災者のために、農地や空き家探しなどの支援を行っており、「全国愛農会」や愛農高校のネットワークを活用して、被災者が農業を断念しないよう、各種の活動に取り組んでいる。

受賞式では校長先生から、「経営的には非常に厳しく、何度普通高校に替えようと思ったか分からない。こんなに素晴らしい賞を頂き、これまで信念を曲げずに歯を食いしばって来て本当によかった」というコメントがあった。その言葉に小泉実行委員長、赤池審査委員長をはじめ、委員全員が涙がこぼれそうになった。逆に、何でこれまで、このような素晴らしい取組が評価されず、世の中に埋もれてしまって来たのだろうと思った。

今年のアワードは、当初は小粒な取組が多いというのが、当初の率直な感想だった。しかし、審査・受賞式を通して、過去最高の受賞内容であったと、委員として胸を張って言えるようになった。受賞に漏れた取組を含め、いずれも素晴らしい内容であったし、フード・アクション・ニッポンという活動が、本当の意味で国民に定着してきたと思った。しかし、やまけんさんのコメントにもあったように、小麦や食用油など、まだまだ取組が遅れている分野が見られることに加え、風評被害対策など、フード・アクション・ニッポンに残された課題も多い。次年度以降の更なる取組の広がりを期待したい。

個人的には、「食料自給率向上」だけが、フード・アクション・ニッポンの目的ではないと理解している。真の狙いは、食料自給率向上という御旗のもと、日本の農林水産業や農山漁村の価値や素晴らしさについての相互理解と、次世代型の社会形成に向けた取組を促すものであると考えている。私が夢見る次世代型社会とは、国民全てが自国の文化・歴史・自然を心から愛し、農林水産物の適切な流通と、世界でナンバーワンの豊かでおいしい食を通して、農山漁村の持続的発展を実現するとともに、生産者も加工業者も流通業者も、そして消費者も幸せになれるような社会である。そんな思いを胸に、フード・アクション・ニッポン、アワード審査員として、今後も可能な限り知恵を絞り社会に働きかけていきたいと、新たな誓いを立てた。