第28回 | 2010.12.13

食料給率向上に向けた国民運動へ! ~FANアワード本選会より~

去る12月6日、FOOD ACTION NIPPONの平成22年度アワード本審査会が開催された。食料自給率向上に寄与する優れた取組を表彰し応援するとともに、その取組内容を広く国民に知ってもらうことで国民運動のウエーブをつくって行こうというのがアワードの狙いだ。昨年は約1,200件の応募があったのに対し、今年の応募件数は3,000件を越え審査は大激戦となった。赤池委員長からは、昨年度のアワードの成果が今年の応募件数に結びついており、食料自給率向上運動は確実に普及していると開会の挨拶があった。また、消費者連合会会長の大木先生からは、昨年受賞した企業が、受賞を契機に多くのところから声がかかり、取引拡大につながったという嬉しい報告を頂いた。表彰式は来年2月1日に開催される。大賞1点、部門別最優秀賞4点、部門別優秀賞40点などは本審査会を通してほぼ決定したが、最終結果の公表はもうしばらくお待ち頂きたい。今回は、審査員の一人として、今年も熱い一日になったアワード審査会を振り返り、FOOD ACTION NIPPONについて思うところをコメントしてみたい。

東京大学の中嶋先生の総評にもあったが、今年の特徴の一つ目は、米に関わる活動が非常に多かったことである。米自体のブランド化を図る取組、米の消費を促進する取組に加え、米を輸出する取組などが全国に広がっていることがよくわかった。米は日本人にとって何千年来の主食であり、農業・農村そのものである。戸別所得保障制度やTPPなど米政策に激震が走る中、国民誰もが米という産業を守り、米文化を後世に持続させたいと考えていると思う。今回の応募内容には、そんな国民の思いが代弁されているように感じた。また、米粉に関する取組事例も非常に多かった。米粉米の消費拡大は国策として位置づけられているが、多くの企業・関係者がこれに呼応して商品を開発し、普及活動に力を入れている。商品開発に加え、米粉を活用した商品化に向けた技術開発も急速に進んでいる。製造技術が進化する中、パンをはじめ、麺類、菓子類などでもおいしい身近な商品として家庭で消費されるものに変化しつつある。また、多様な食品企業が米粉商品を本格的に製造・販売する動向も見られ、国民に定着しつつあると感じた。飼料米の活用についても、さらに加速していることを実感した。日本で育つ鶏や豚も、やはり日本人の主食の米が好きなようだ。昨年度の大賞は、飼料米を活用した「こめ玉」を生産・販売する常盤養鶏組合が受賞した。この受賞を受けて、全国で同様の取組が拡大したことは、委員としてとても嬉しく思う。ちなみに流研では、東北新幹線の青森開通に伴う新青森駅での常盤養鶏のアンテナショップの開設を支援してきた。こめ玉を原料としたバームクーヘンは飛ぶように売れており、常盤養鶏の更なる発展の一助となったと自負している。

二つ目の特徴は、6次産業化、農商工連携、あるいは地域内での産業クラスターなどの視点による取組がさらに拡大していることにある。前回このコラムで紹介したヤマキグループに象徴されるように、崇高な志や理念を掲げ、国産原料にこだわり抜き、生産者たちと長期的なパートナーシップを作ろうという姿勢が見られた。また、地域の異業種が大連合を組み、新しい生産・流通システムを作り上げて行こうという取組も目を引いた。川上と川下の連携、川上同士の連携、点と点ではなく面と面の連携など、連携方策での多様性が高まりつつあると感じた。生産者・メーカー・小売店そして消費者が同じ理念・意識を持って、お互いを尊重しながら生産から消費までの新しいフードシステムを作って行くことに成功のポイントがあると感じた。

三つ目の特徴は、生産者や流通業者だけでなく、食育・地産地消をキーワードに、広く消費者が、国民が主体的に活動に参加しようという姿勢が拡大している点にある。特に感心したのが、高校生が主役になっている事例だ。若者たちが大人より先にミッションに目覚め、バイタリティをもって行動している。一般に学生に対しては食育を施す必要があるといった上から目線を持ちがちだが、逆に大人たちを引っ張る存在になっていることに敬意を表するとともに、我々も大いに反省すべきであると感じた。彼らの方が私たち大人よりしっかり真実を見極め行動する力があるように思う。FOOD ACTION NIPPONは若者たちが盛り上げる。そんな潮流がさらに拡大することを多いに期待する。

消費者への参加というキーワードと関連して、近年「消費者力」という言葉をよく聞くようになった。もともと食品偽装事件などに端を発しているもので、食の安全性を見極める力といった意味合いが強いようだ。しかし真の消費者力とは、単に偽装をあばきクレームを言える能力を意味するものであってはならない。多くの消費者は、国産原料で安全でおいしくて安いものを求めているが、国産原料にも安全にもおいしさにもコストがかかるのであり、そんな商品が安く提供できる訳がない。もちろんより適正な価格で提供するために、生産・加工・流通段階での合理化・効率化を図らねばならないが、それには限界がある。消費者が安さだけを追求するあまり、農家は食べてゆけず、メーカーは輸入原料にシフトしなければならず、結果として食糧自給率の低下を招いているという構造を国民はしっかりと認識する必要がある。多くの消費者は、権利は主張しても義務は果たさない。消費者の義務とは、真に価値あるものに対し、その価値を認め、相応な対価を払うことである。つまり、消費者力とは、生産・加工・流通段階まで含めた商品価値を判断し、正しい消費行動をとることを意味する。そして国民に真の消費者力を持ってもらうことは、アワード審査員全員に共通する思想であり、FOOD ACTION NIPPONの活動理念でもある。

激論の審査会が終了した後、7名の審査員が集まりガード下の天ぷら屋でささやかな懇親の場を持った。私はこのメンバーの先生方が大好きで、一人ひとりを心から尊敬している。赤池委員長の言葉を借りれば、とてもチャーミングで、ミッションに燃え第一線で活躍されている方々だ。過去2回の審査会を通し、先生方との熱い議論の末、アワードに対する共通の価値基準ができ、我々が生産者に企業に地域に、そして国民に何を訴え、どんな社会の仕組みづくりを誘発すべきかという思想を共有できたことをとても嬉しく思う。私自身、知識・意識を大いに高めることができたことを、審査員の先生方、また事務局の方々に心から感謝する。そして私も審査員の一人として、恥じることのない志を持ち、社会貢献できる活動をして行こうと決意を新たにした。