第215回 | 2014.11.25

食品関連企業の農業参入の動向と参入条件 ~「フードシステム研究」より~

先に開催されたフードシステム学会の2104年大会でのミニシンポジウムのテーマは、「食品関連企業の現状と展望」であった。この度発行された会報誌「フードシステム研究」では、そこで発表された論文などがきれいに整理されている。東北大学の盛田先生をはじめ、一線級の学識経験者達が、これまでの研究成果をとりまとめたものであり、非常に緻密で読み応えのある内容となっている。この度のコラムでは、これらの論文を読んで、私が特に着眼した、食品関連企業の農産参入の動向と参入条件について述べてみたい。

先ずは、近年の食品関連企業の農業参入の状況について記載する。

【近年の食品関連企業の主な農業参入事例】
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出典:「食品関連企業の経営戦略と農業参入」秋田農業試験場齋藤文信氏

2005年に特定農地貸付事業が創設され、2009年には農地法が改正されたことを契機に、企業の農業参入の動きは加速している。建設業や非食品製造業など、一時は非食品関連企業の参入も多々見られたが、総じて失敗事例が多く、近年はもっぱら食品関連企業による参入が大半を占めていると言っても過言ではない。

非食品関連企業の参入事例を見ると、ほとんどシナジーが期待出来ないにもかかわらず、発展性が見込める分野として農業を選択し、経営の多角化を図っていこうという思惑が先行する傾向が見られた。これに対し食品関連企業の参入の場合、自社で利用する安定的な原料・食材の調達、小売するための商品の確保などを、第一の参入目的としている。作った農産物の売り先を自社で持っていることから、非食品関連企業が苦労する販路開拓の必要性は少ない。また、原料・食材・商品の生産・調達から本来業務である製造・飲食・小売までの一貫したシステムを構築でき、シナジー効果の発揮も大いに期待できる。

また、食品関連企業が農業参入を進めるその他の目的としては、企業としてのブランド力強化、商品の差別化などあげられる。農業・農村を守り、新たな農業の仕組みをつくり社会に貢献するという大義名分を打ちたてることで、企業イメージ・商品イメージは、必然的に向上することになる。

参入方法は各社様々であるが、おおまかに言えば、自社による単独型と、生産者などとの共同型に区分される。単独型では、事業で生み出された利益は全て参入企業のふところに入ることになるが、生産技術の不足・人材の確保などが経営課題となるケースが多い。一方共同型では、利益は生産者などと配分することになるが、生産技術・人材などの農業に欠かせない経営資源を確保できる。農業自体をもうかる産業と位置づけて参入した非食品関連企業の多くは、前者の参入方法を選択したが、目論み通りに成功した事例はほとんどない。もうけ主義ではなく、シナジー効果の発揮、企業・商品のブランド力向上などの目的を優先させるのであれば、後者の方式をとる方が安定的であり発展性も高いと考えられる。

「フードシステム研究」では、数多くの参入事例が紹介されている。その中で私が最も注目したいのは、やはり「ローソンファーム」である。ローソンファームは、2010年6月に、(株)ローソンファーム千葉を設立した後、同様の方式で、鹿児島、十勝、大分、大分豊後大野、広島神石高原町、鳥取、宮崎、愛媛、山梨、秋田、石巻、茨城、熊本と、この4年で10箇所を越える地域で農業生産法人を設立しており、その動きは現在もなお続いている。

設立方式は非常にユニークである。出資構成を見ると、地元の生産者や生産法人の出資比率が75%、ローソンが15%、残りは卸売会社・仲卸会社などが出資者となっている。また、各社とも代表者は地元の農家であり、あくまで地元農家主体の経営を基本としている。地域の若くて意欲的な生産者を代表に登用し、社員の確保・育成に取り組むとともに、中嶋農法など独自の生産方法を採用して生産技術の向上と品質の確保に努めている。

全国レベルでのリレー出荷体制の構築を目的に、計画的に生産された農産物の多くは、ローソングループに販売されることになる。ローソンファーム千葉の場合、約3haの農場を代表者である生産者から借り受け、ハウスではこまつな・ほうれんそう、露地ではだいこん・にんじんを生産している。野菜を洗浄・パッケージ・箱詰めし、ローソンの配送センターまで運搬する。その後は関東地区で生鮮品を取り扱うローソン・ローソンストア約100店舗に納品され販売される。

しかし、ローソン側の需要を上回る量が出来てしまうなど、生産される数量には、当然過不足が生じる。この過不足に対応するため、出資者となっている卸売会社・仲卸会社の役割が重要になる。農業に参入した食品関連企業の共通課題である生産量の需給調整機能を、卸売会社・仲卸会社を出資者とすることで解決している。

まだまだ課題は多いであろうが、ローソンファームは、店舗側の生鮮品の取扱拡大に伴い、今後も発展していくことだろうし、将来的には各県最低1法人といった展望も描ける。生産者主体の法人であること、若くて意欲的な生産者を代表としていること、代表者を核に人材育成と技術向上に取り組んでいること、需給調整のために卸・仲卸業者も会社経営に参加させていることなど、ローソンファームの取組は、まさに食品関連企業が農業参入をするための条件を示唆していると言えよう。