第179回 | 2014.03.05

食品事業者が仕掛ける新たな価値の創造 ~バリューチェーン新展開構築事業より~

流通研究所は本年度、農林水産省の補助を受け、「バリューチェーン新展開構築事業」を推進している。「バリューチェーン」とは、まだまだ馴染みが薄い言葉であるが、調達から製造・加工、流通、販売のそれぞれの活動を効果的に連鎖させることで、新たな価値を生み出す取組を言う。例えば、オリジナルのパッケージを開発して商品名を付け、有利販売に結び付けたり、産地と原料を厳選して加工品を製造し、地域商標登録して販売することもバリューチェーンの形態である。農産物を市場経由で流通させスーパーに売るだけでは、生産から販売までの過程で100円の価値しか生まないものを、バリューチェーンに取り組むことで200円の価値に変えると言った考え方である。

本事業では、全国のバリューチェーンに取り組む先進事例を徹底的に調査し、全国8地区で開催した推進協議会での議論を踏まえ、千葉大学大学院の齋藤修教授を座長とした全国推進協議会において、「食品事業者のためのバリューチェーン構築の手引き」としてとりまとめた。全国推進協議会は、東京大学大学院の中嶋康博教授、パルシステムの栗田典子執行役員、オイシックスの坂下利久氏、及び神奈川農畜産物供給センターの高野芙由男専務と豪華な顔ぶれに委員をお願いした。ちなみに斎藤先生は、私も所属する「フードシステム学会」の会長で、中嶋先生はその№.2であり、日本を代表する頭脳を結集した陣容で臨んだと言える。

この手引きは、食品事業者を主な読者と捉え、非常に難解で高度な視点が要求されるバリューチェーンの構築手法について、言葉を整理して事例をたくさん盛り込むなど、極力分かりやすく解説した内容になっている。現在農林水産省では、農林漁業成長産業化ファンド(6次産業化ファンド)を核に、農商工連携による事業を促進するための政策に力を入れているが、事業の活用事例はことのほか少ない。総じて経営ノウハウが不足する生産者・産地が事業主体となることは、かなりハードルが高いことが判明しつつある中で、食品事業者が主体になって生産者に働きかけ、事業化を実現させたいと言う狙いがある。

手引きは、「第1章食品事業者の新しいバリューチェーン」、「第2章バリューチェーン構築に向けた視点」、「第3章業種別のバリューチェーンの特徴」の3章構成になっている。第1章では、1次産業の価値を活かしたバリューチェーンとは何か、バリューチェーン構築に必要な産地との関係をどうつくるか、事業拡大へのアプローチ手法はどうあるべきかなど、序論にかえてバリューチェーンという概念を丁寧に説明した。

第2章では、1次産業の価値を取り込む、パートナーシップ関係を築く、多様な主体と製品開発に取り組む、コーディネーターを活用する、地域プラットフォームを活用する、農業協同組合と連携する、企業の社会的責任を果たすなど、食品事業者がバリューチェーンを構築するための重要な視点を整理した。産地と価格重視の取引を行うだけではだめで、産地の課題を共に解決し、産地が持つ価値と食品事業者が持つノウハウやネットワークを結束するという姿勢が大切であることを力説した。

第3章では、小売事業者、食品製造業者、外食事業者、卸売事業者、その他業種等に主人公を区分し、それぞれの事業者がバリューチェーンを構築するために効果的な手法を整理した。また、例えば宅配・通販事業者によるバリューチェーン、高齢者福祉事業とのバリューチェーン、資材業者におけるバリューチェーンなど、極力主人公を細分化して、構築に向けた特徴的なポイントを解説した。

話は変わるが、今年は、卸売市場の活性化に関する仕事をいくつかさせて頂いている。そこで思うのは、時代は大きく変化しているにも関わらず、市場法や条例の中で、卸売業者も仲卸業者も売買参加者も、そして開設者も、既成概念にとらわれた昔ながらのビジネスから抜け出せないでいることだ。例えば、担い手の減少により産地との取引が縮小することが懸念されるなら、卸売業者が出資して生産法人を設立するなど自ら担い手を作るといった発想ができないだろうか。また、卸売業者・仲卸業者・売買参加者が連携し、特定の産地のフェアを定例開催し、産地と卸売市場の協働による商品開発や、新たなブランド展開などの取組は不可能だろうか。この手引きには、そうした新ビジネスを考える上でのヒントが満載している。

バリューチェーンは、ビジネスモデルが極めて多く、容易に説明が出来るものではない。ただし、共通して言えるのは、生産・加工・流通・消費に至るまで当事者が、単なる「取引」ではなく「取組」を行うことで、一次産品の付加価値を高め、WIN・WINのビジネスを創造していくことにある。斎藤先生のこれまでの膨大な研究成果をもとに、現地調査を行うことで、この難解なビジネスモデルを紐解くことが出来、手引きというかたちで成果を残せたことは、流通研究所にとっても大きな自信と資産になった。改めて斎藤先生、委員の皆様、及び調査にご協力頂いた全国の食品事業者の方々に深く感謝する次第である。

この3月14日からは、札幌、仙台、東京、金沢、名古屋、京都、岡山、福岡の全国8か所で、この成果の普及を目的とした研修会を開催する。齋藤先生には全ての会場で基調講演をお願いし、手引きの説明に続き、各地区の有識者・実践者をパネリストとしたパネルディスカッションも開催する。各農政局からのメールマガジン、食品事業者へのダイレクトメール、弊社のホームページなど、多様な経路を通して広報を行っているが、詳細については弊社の担当まで連絡願いたい。