第176回 | 2014.02.03

食によるまちづくりを進めよう ~たてやま食のまちづくりシンポジウムより~

今年度は、千葉県館山市からの仕事で、食のまちづくり計画の策定に携わらせて頂いている。先日は、この業務の一環として、「たてやま食のまちづくりシンポジウム」の開催を支援した。本日は、このシンポジウムの内容を紹介しつつ、食のまちづくりについて私見を述べてみたい。

館山市は、房総半島の最南端に位置する観光地であり、農林水産業が盛んな古い歴史を持つ安房地区の中核都市である。ここで、地域食材を活用した食を掘り起こし、あるいは創造し、地域活性化に結び付けようと考えた。現在策定中の計画には、食材を供給する農水産業者、それを活用する観光業者や商工業者、さらには市民の3者が連携して取り組む具体的な内容を盛り込む方針である。メニュー・特産品開発に加え、地域内流通システムの構築、市民参加型のPR活動の推進、全市横断的な組織づくり、拠点施設の整備を掲げていく。この度のシンポジウムは、食のまちづくりに向けた決起集会であり、キックオフイベントとして開催した。

話は変わるが、先般広告代理店でグリーンツーリズムを企画している担当者から、とても興味深い話を聞いた。旅行で感動的な体験をした時は、ドーパミンという脳内快感物質が分泌されるそうで、この物質の分泌により、人はその体験を一生忘れないそうだ。昨日食べたものでさえ忘れてしまうのに、あの観光地で食べた料理の味が忘れられない、もう一度食べてみたいと思う人が多いのは、こうした生理作用によるものであると言う。したがって、おいしい食事ができる観光地は、より魅力が高まり、リピーターの拡大につながることになる。

また、食事が心身の健康に直結することは、どこでも言われている。特においしい物を食べると、セロトニンという脳内物質が出て、楽しく幸せな気持ちになるそうだ。したがって、食のまちづくりにより、地域資源を活用したおいしい食事を食べ続ける市民は、心豊かな生活を送れることになる。食のまちづくりを進めることで、観光業者も農水産業者も市民も豊かになれる。館山市はそんな理念を持って、具体的な取組の第一歩を踏み出した。

シンポジウムは、第1部として、館山市の南総文化ホールで、市長、協議会長のあいさつにはじまり、千葉大学の斎藤教授による基調講演、食のまちづくり計画の骨子の説明、市内関係者によるパネルディスカッションを行った。観光業者・商工業者・農水産業者など、当事者に多く参加して頂き、理念や推進方針を共有化することを目的としたため、平日の13時から開催した。当初は100名程度の参加者を予想していたが、その2倍近くの参加者がおり市民の感心の高さが伺えた。

屋外では、市内のJA、漁協、直売所などによる模擬店が開催された。平日であったこともあり、客足はいまいち伸びなかったが、市民に対して館山の豊富な食材をPRする効果は上げられたと思う。今後はこうした生産者・生産団体が、市内の飲食店、宿泊施設、学校給食、福祉施設などに対し、安定的に地域食材を供給するための仕組みづくりを進めていくことになる。

館山の食のまちづくりを進める上では、協力な応援団が存在する。その一人が、料理研究家で館山クッキング大使を務めて頂いている川上文代先生だ。川上先生は、食の開発・普及をテーマに、市民レベルの活動に力を入れている。館山市は、保健推進員が150名近く存在し、川上先生を指導者として「おらがごっつお」という地域食材を活用したメニューを開発し、市民への普及活動に力を入れている。シンポジウムの第1部の最後に、先生が開発したメニューの紹介をされた後、別室で試食会を開催した。100食限定の試食会であったが、開場とともに長蛇の列ができ、あっと言う間になくなってしまった。先生の館山市での高い人気とカリスマ性を思い知った。

第2部では、あのさかなクンの特別講演を行った。さかなクンは、館山にも住居を持ち、館山おさかな大使を務められている。「館山の食の魅力とさかなのおいしさ」というテーマで、何枚もの模造紙にカラフルなマジックで絵を書きながら、魚種別の生態や多様な魚が生息する館山の立地性などにつき、ハイテンションで説明された。また、途中クイズを出したり、地元の生産者の方や海洋大学のスタッフの方の協力を得て、朝採りの魚を会場に持ち込み説明するなど、笑いと感動の1時間であった。エンターテインメントとしての素晴らしい演出と、話の奥深さには心底感心した。また、我々スタッフに対しても非常に礼儀正しく、人格者であることが伺い知れる。前からファンであったが、私はあらためて熱烈なさかなクンファンになった。

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*スタッフがさかなクンから頂いた名刺と記念品

豊富な食材資源を持ち観光地としての誘客力があることに加え、こんな強力な応援団がいる館山市は、食のまちづくりを進める上で圧倒的な優位性があると思う。実践的な取組を進めるためには、まだまだ課題は多いし、成果を上げるためには相応の期間を要するものと考えられる。しかし、この度のシンポジウムをきっかけに、行政、関連団体、市民などのベクトルを合わせ、一歩ずつ前進していくことで、全国屈指の「食のまち」を実現できるものと信じている。