第73回 | 2011.11.21

青果物卸売市場の再生に向けた道筋 ~負のスパイラルから脱出せよ!~

今年は多くの仕事で、青果物卸売市場の再生という課題に直面している。地域の農業振興を図る上では、本来卸売市場が持つべき機能の発揮が必要不可欠であることを実感している。卸売市場の目的・使命は、消費者に迅速かつ効果的に生鮮食料品を供給し、生産者に対しては販路を確実かつ迅速に提供して、小売り・仲卸業者には安定的で効率的な取引の場を提供することが卸売市場の役割である。

改めて、卸売市場が持つべき機能を以下に整理する。
①多数の生産者から青果物を集荷して、必要な産品を小売店などに分荷販売する「需給調整機能」。
②需給バランスを踏まえ、せり・相対売りなどの販売方法で公正な評価と価格形成を行う「価格形成機能」。
③産地から荷を受けて販売し、販売して概ね3日目には支払することで、青果物の流通を円滑に維持する「決済機能」。
④消費者ニーズを産地に伝え生産に生かしてもらうことに加え、小売業者などには、産地の生産状況を伝え、円滑な取引を促進する「情報機能」。

卸売市場は、これまで日本の経済の発展に大きく寄与してきた、日本が世界に先駆けて作り上げた芸術的システムである。現在も、産直品でも市場から調達して販売したり、配送は直でも価格は卸が決めているなど、卸売業者が関与しているケースも多い。またスーパーが市場を通さず農家と直接契約を行う場合でも、価格は市場価格を参考にしているなど、その役割は依然大きい。特に野菜などの生鮮品は、品質維持が難しく、できるだけスピーディに売買する必要があるため、需給バランスをすばやく一致させる卸売市場は、青果物の取引に最も適したシステムを持つことに変わりはない。日本は少量多品種の食材が求められる国であり、少量多品種の食材供給に適した卸売市場のシステムは、今後とも重要な存在である。

問題は、周辺環境が急速に変化しているにもかかわらず、「卸売市場法」のもと保護策に甘んじて、合理化や生産性向上といった改革を怠ったために、零細な中小企業のまま高コスト体質になっている市場が多いことである。公設市場などは、荷受・仲買・買参によって構成されており、これらは一蓮托生で、構成員の何人かやる気をなくすと、市場全体が地盤沈下する傾向にある。その結果近年は、「生産者からの集荷力の減退→顧客の減少と販売力の減退→価格形成力の減退」といった負のスパイラルに陥っている卸売市場が急増している。ひとたび負のスパイラルに陥ってしまうと、再生は容易ではない。

現在青果物の流通は、従来の伝統的な仕組みから、新しい時代への仕組みに大きく移り変わろうとしている。かつて卸売市場の買い手は、町の八百屋や果物屋といった専門店が主だったが、現在は概ね7割がチェーン店やスーパーなどの量販店になっている。このため卸売市場も、生産者からリスクを背負って産品を買い、それに値段をつけて専門店に卸していくスタイルではなく、買い手であるスーパーなどに産地の情報(規格、品質、価格、収穫時期など)を流し、ニーズを聞いた上で産地に問い合わせ、価格交渉をして仕入れるという仲介業務が中心になりつつある。そのため現在は、せりより相対取引の方が圧倒的なウエイトを占めるようになった。

流通圏の広域化が一段と加速してきており、市場間競争が激化するとともに市場間格差も広がってきている。また、農協の合併などにより大型化する産地と、スーパーマーケットの台頭などで淘汰が繰り返される小売業の間にあって、川上・川下が強い市場を選別しようという動きも強まっている。川上では全農・経済連・農協などの合併化による大型化、川下ではスーパーの大型化が進む中で、その中間事業者である卸売市場は、新たな戦略を打ち立てていく時期にきている。

また、近年は、卸売市場を経由しない物の流れが拡大している。これらは、流通コストの削減、産品の鮮度のアップ、企業間競争の差別化、低価格の実現など、消費者を重視した潮流であると言える。こうした潮流を否定しても負け犬にしかならず、むしろ消費者などのニーズを敏感に感じ取り、自由競争という新しい時代にも対応していく必要であろう。こうした背景から、生産団体と実需者間の契約取引のためのコーディネート機能や、あるいは大手スーパーの物流センター機能を果そうとする動きが活発になっている。

反面、地方卸売市場は、従来からの多くの個人生産者や個人経営されている小売店が依然多く存在する中で、こられをどのように守っていくかも問われている。こうした背景から、卸売市場が地域の生産者からの集荷機能を強化し、地域の小売店や飲食店へ配達するという、地産地消を担う中間事業者としての役割を果たそうとする動きが見られる。そのためには、卸売業者と仲卸売業者との連携強化や、小ロットに対応した集荷・分荷・保管・配達機能が求められる。

さらに、青果物の自由競争化が進む要因のひとつにインターネットの普及があり、取引のIT化が大きな潮流となっている。しかしこの潮流は卸売市場にとって、コストの削減・商圏の拡大・新しいビジネスのチャンスであると言える。近年は、インフラ整備とノウハウの習得に力を入れることで、IT取引にチャレンジしようという卸売市場も見られる。

冒頭に述べたように、卸売市場は、「需給調整機能」、「価格形成機能」、「決済機能」及び「情報機能」という、他の企業では持っていない武器を持つ。この武器を最大限活かし、時代の潮流に合わせた+アルファの機能を付加することで、市場再生に向けた道筋は見えるはずだ。施設の老朽化や買参人の高齢化、市況の低迷、既存顧客の購買力の低下など、課題をあげたら切りがない。負のスパイラルを、「生産者からの集荷力のアップ→顧客の増加と販売力のアップ→価格形成力のアップ」という正のスパイラルに転じるためには、高いリスクを負って、多大の苦労を覚悟してでもチャレンジしようという決意が必要である。