第103回 | 2012.07.09

青果物の流通構造を知ろう    ~食品流通段階別価格形成調査より~

去る6月28日に、農林水産省の大臣官房統計部から、毎年恒例の食品流通段階別価格形成調査結果の概要(平成22年度結果)が公表された。この調査は、定量的な手法を用いて、青果物の価格形成の状況、流通段階別経費の構成をとりまとめたものであり、青果物の生産・流通に携わる方々が、経営計画や販売戦略などを検討する上で参考になるデータである。
小売価格に占める各流通経費等の割合(100kg当たり)(試算値)
及び各流通段階の経費の構成割合
ninoken-104
*農林水産省HPより
これらのデータは信憑性が高いものであるが、全国の集荷団体(主としてJA)、卸売市場、小売店を対象に調査を行った集計結果であり、いわゆる系統出荷により流通した青果物の取引構造を明らかにしたものである。したがって、直売や直接取引など近年拡大する流通形態を含んだものではないし、市場規格に乗らない青果物は調査対象とはなっていない点にも留意する必要がある。また、青果物については、だいこん、にんじん、なす、レタス、ばれいしょなど主要14品目を対象としており品目数が充実しているが、果実についてはみかん、りんごの2品目しか調査対象としていない点にも留意されたい。

先ずは、平成22年度結果から、青果物の流通構造を概観してみたい。この調査結果は、例えば小売価格が100円の青果物の場合、農家は46円、JAが15円、卸売市場が14円、そして小売店が26円の手取りを得ているということを意味している。農家が個人で市場に持込むようなケースは、総じて卸売価格が低く設定されることから、多くの生産者はもっと手取り比率が少ないのではと感じることだろう。しかし、JAによる共販体制により市場出荷したものは、概ね小売価格の5割弱の農家手取りを確保できるというプラス思考で捉えることもできる。

調査結果の概要では、流通段階別経費等を基に試算すると、青果物の小売価格に占める生産者受取価格の割合は45.5%(流通経費は54.5%)となり、小売価格に占める生産者受取価格の割合は、前年度に比べ0.8ポイント上昇したと総括している。しかしこれは、生産者有利の構造に変化しつつあると言うよりも、東日本大震災の影響により総じて青果物価格が上昇し、一時的に売り手市場になったことの影響もあろう。(今回公表された平成22年度の食品流通段階別価格形成調査の実際の調査は平成23年11月から平成24年2月に実施されているが、各流通経費などは平成22年の期間のものを調査している。)

また、各流通段階の経費の最も大きな構成要素として、集出荷団体経費では出荷運送料が33.3%、仲卸経費及び小売経費では給料手当が41.0%、51.1%で、それぞれ最も大きなコストとなっているという総括も書かれていた。昨年度と比較しても、小売価格が上昇したにも関わらず、小売経費の構成割合に大きな変化は見られないが、仲卸については、給与手当が下がる一方で支払運賃が上昇する傾向が見られ、経営環境が厳しさを増していることが伺える。

16品目別に見ると、生産者の受取価格が最も高い品目はきゅうり(54.5%)で、最も低いのはだいこん(35.1%)となっており、品目別にかなりばらつきが見られる。一方集出荷団体の経費(マージン)で、高い品目はだいこん(22.6%)、りんご(22.3%)で、低い品目は、ピーマン(8.7%)、みかん(10.7%)となっている。経費の内訳を見ると、だいこんは重量に比べ、包装・荷造材料費や選別・荷造労働費が割高になっているし、りんごの場合は予冷費なども大きなコストとなっており、品目別では流通コストに差異が見られることがわかる。これとは対照的に卸売マージンはもちろんとして、小売経費には品目別に大きな差異は認められず、小売価格に対して25%から30%程度が小売側のマージンである。

品目別の数字を追っていて、非常におもしろかったのが、選別・荷造労働費の内訳であり、生産者、集出荷団体のどちらがどれだけ、経費を負担しているのかについてである。集出荷団体の販売収入(生産者の受取収入+集出荷団体の経費)を100とした場合、ほうれんそうでは45.9%が選別・荷造労働費が占めており、うち生産者の負担割合は45.6%で、集出荷団体は0.3%である。これは、ほうれんそうの選別・荷造が、生産者の手作業にゆだねられており、いわゆる個選共販売体制がとられていることを意味する。このような視点で数字を見ると、個選共販が多い品目は、ほうれんそうに加え、ねぎ、はくさい、レタスなどであり、共選共販が多い品目は、みかん、りんご、ばれいしょなどである。また、どちらの方法も存在する品目は、なす、きゅうり、トマト、さといもなどである。ここまでは当然の知識である。この経費が最も高い品目は、ほうれんそうが45.9%でトップで、だいこん19.4%、ねぎ17.5%と続く。これらの作業の効率化を進め、経費を圧縮することが、農業所得を上昇させる鍵となり、逆にこれが低い傾向にある品目では生産者自身によるパッケージング等により農産物の付加価値を高めることになろう。

近年は、市場が安定しない、JAが手数料を取りすぎであるなどの理由から、JA離れが進み、個人で直接販売をして行こうとする生産者が多い。生産者の所得向上に向けて当然起こりうる動きであるが、個人販売の方は、自分の経費構造を分析しているだろうか。包装・荷造、物流・配達、交渉・伝票処理などの労務費・諸経費と、実際に売れた価格・売上の関係を是非とも分析して欲しい。もしかすると、個人販売では、系統出荷以上に経費がかかり、経営を圧迫してしまうかもしれない。