第234回 | 2015.04.20

集落営農法人のビジネスモデルを考える ~ 米価低迷で求められる稲作経営の姿へ ~

春が来て緑の色が日々深まり、巷ではうきうき気分であるが、今年は平成27年度米の価格に大きな不安を感じながら、代掻き・田植え作業に入る稲作農家が多いであろう。米価がさらに下落したなら、もはや米では食べていけない。これが最後の米作りになるかもしれないなどと考える農家も少なくいはないだろう。

4月1日の日本農業新聞には、全国の集落営農法人などを対象に、今後の経営展望などを尋ねたアンケート調査結果が掲載されていた。記事によれば、調査対象法人の9割以上が、米価の先行きが不透明であることなど理由に、将来の経営状況は悪化すると回答していた。その対策として、多くの集落営農法人が飼料用米への転換や畑作との複合への転換を進めるという。さらに、所得補償の充実など、政府からの支援強化を求める回答割合が非常に多かった。

米価の低迷により、経営的に耐えられない小規模農家は離農し、手放された農地は大規模農家に集積される。大規模農家はスケールメリットの発揮によりコストを削減することで、強い経営体へと成長するというのが、長年描かれてきた農業構造改善のシナリオである。さらに、米価が下がることにより、消費者が米を購入しやすくなり、国内の消費が拡大することに加え、輸出競争力が高まるとなど言う有識者の方も多く見られる。そのための戦略的な推進組織が農地中間管理機構であり、これと抱き合わせで中核的な担い手農家・組織への多様な支援策が講じられてきたと言えよう。

しかし私は、このようなシナリオの実現性は低いと考える。現在でも集落営農法人の経営はよくて収支トントンといった状況だ。さらに規模を拡大しようとしても、コストの削減策が米価の下落に追い付かず、規模を拡大すればするほど赤字が拡大する経営構造にある。また、規模を拡大しようとすれば、機械・設備への新たな投資が必要になるが、米価が下落基調にある中で、首をくくることになりかねないような先行投資ができるはずがない。

また、価格が下がれば米の消費が拡大するというのは、明らかに暴論である。現在の小売価格は1㎏300~400円で、高いブランド米でさえ500円に届かない。1㎏の米は茶碗15杯分ぐらいになるので、1杯あたりの単価は20~30円である。これ以上安くなったからといって、パンに代えて米を食べようとする消費者が増えるとは考えられない。また、輸出競争力が高まったとしても、輸出のマーケットは今は極めて小さく、有望な販路と位置付けることはできない。

価格の下落が続けば、やがて米を作る農家はいなくなり、供給量が減少する。理論的には、需要に見合った供給量まで減少して、はじめて米価の下落が止まることになるが、その価格とは、大規模農家が限界まで経営努力を重ねた上ではじき出される再生産可能価格になるだろう。有利販売先の開拓は進める必要があるが、市況が下がり続けている中で、取組には限界がある。さて、このような経営環境の中、稲作・四穀作主体の集落営農法人は、どのような経営をめざすべきであろうか。

第1に、利用権設定による農地保有面積と対象面積の見直しである。市町村としては、利用権設定の実績が欲しく、これを勧めてくるであろうが、この誘いに安易に乗ってはならない。現在は、利用権設定面積を増やせば増やすほど、赤字が増えることになる。原則として、基盤整備済みの集積された優良農地のみを検討対象とし、飛び地や条件が不利な農地は受けないという姿勢を市町村にも地域にも示す勇気が必要がある。農作業の受託事業も同様であり、経営を圧迫するような農地での農作業は行うべきではない。集落営農法人は、地域の農地保全という公益性を持つべきであるが、経営として成り立たないことはやらないという線引きをしないと、法人自体がつぶれることになり、元も子もなくなる。

第2に、耕作放棄地の管理受託業務の拡大である。米価の低迷により、今後耕作放棄地が拡大することが予測されるが、耕作はしなくても、地域の迷惑にならない程度に農地や畦道などは、きれいにしておきたいと考える地主が多い。しかし年齢的に草刈も大変なので、誰かにやってもらうと考える。この地域ニーズは今後さらに拡大することが予想され、集落営農法人が農地の管理作業を受託することで、地域の農地保全という大義名分を掲げながら、安定的な収入減の確保につなげることができる。

第3に、飼料用米への転換である。交付金をもらうための農業など、心情的にはやりたくないだろうが、今は全国の稲作経営が崩壊の危機に直面している有事の時である。応急措置と割り切って、国の制度に乗っていくことも経営存続のための選択肢であろう。当面飼料用米をつくって経営の安定を図り、その間に新たに仕掛ける事業の準備を進めることも経営戦略と言える。しかし、財務省からの圧力などが激しい中、飼料用米への助成制度はいつまで続くかわからない。制度に身を委ねることなく、あくまで応急的に活用するという感覚で臨んで頂きたい。

第4に、畑作への転換、あるいは裏作の推進である。米価の下落にかかわらず、安定収入の確保と作業量の分散化のために、集落営農法人は「米+αの経営体」をめざす必要がある。今後は「+α」に軸足をシフトし、米以外の作物の生産強化を図るべきであろう。昨年度、流通研究所は、埼玉県からの委託を受けて、加工・業務用野菜を転換作物を位置づけ、その生産・販売を行うためのマニュアルを作成した。また、近隣にある農産物直売所向けの野菜生産を強化する事例もみられる。「+α」の作物については、土壌の条件や商圏環境などよって異なるので、普及センターや種苗会社などとも相談して、研究を重ねていく必要がある。

第5に、6次産業化の推進である。ただし私は、自ら加工場を整備し製造・販売するといった、多大な投資リスクを背負うような6次化手法はお勧めしない。商品開発にも、製造にも、販売にも高度なノウハウが必要である。全くノウハウを持たない農家が、こうした角化にチャレンジすること自体が無謀であり、経営学的に考えると常軌を逸した行為である。国も県も6次化を勧めて来るが、経営を知らずその責任もとならい行政職員の言うことなど聞くべきではない。単独で6次化を行うのであれば、経験やネットワークを持つ外部の人材を招へいすることが条件である。また、最初は、自ら全てを行うのではなく、農商工連携の視点でメーカーへ製造委託し、その製品を販売するというビジネスモデルが適切である。事業の展望を見定めた上で、自社の製造体制に切り替えることを検討してもよい。いずれの場合も、もし6次化にチャレンジするのであれば、最悪の場合でも300万円の損失で済むなど、予想されるリスクをピン止めして臨むことが重要である。

全国的に企業の業績は回復しているし、絶好調の企業も多い中で、集落営農法人は、まさに受難の時を迎えている。こうした時代を乗り切るためには、確実な収入源の確保、大きなリスクの回避を基本に、アンテナを張りめぐらせつつ、じっくりと新たな仕掛けの準備にとりかかることが大切である。今年度も米価はさらに下落するであろう。しかし、どんな時代でもチャンスは必ずある。焦らず、急がず、そして明るく、未来の経営展望を描いていこう。